第六話
土竜を討伐したという事で、事情聴取の為わたくしはルカルドに連れられてギルド本部にやってきた。
「この土竜、外傷が見当たらなかったがどうやって討伐したんだ?」
この世界では、魔物の討伐といえば魔法や武器でザクッと斬ってしまうらしいので、ルカルドは不思議に思ったのだろう。
開口一番にそう聞いてきた。
わたくしが先程使ったのは『黒銀魔法』というものだ。
わたくしは、昔誰も滅多に訪れない皇室専用の書庫で、黒銀魔法について書かれた本を見つけた。
開いた瞬間埃が舞って咽せるほど、放置されていたらしいが内容はどれも実用的だったので、ページが破れるくらいには何度も読んでいたのだ。
そこには、こう書かれていた。
黒銀魔法は、とある神によりラヴィーリンド一族に授けられた魔法である。
黒銀魔法には、二つの役割がある。
一つ目は、ラヴィーリンド帝国内に置いて、民の危険を脅かすものを速やかに排除する事ができる。
二つ目は、確か…『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️こと』。
そして、この魔法は生まれながら魔力がそこらの貴族よりも大幅に多い皇族の中でもさらに魔力が飛び抜けて多い者しか使う事が出来ない。
現在、皇族の中で黒銀魔法の存在を知る者は居ないが、もしかしたらまだ知っている人はいるかもしれない。
万が一知られていたとして、それを全部ルカルドに言ったらそれは自分は皇族だと白状しているようなものだ。その手は出来れば避けたい。
なんとかして、誤魔化さないと。と思うけど、いい案なんて思い浮かばない。
「只の魔法を使っただけだ。」
と言ったが、勿論ルカルドはそれで納得してくれるはずが無く。
「…そんな訳あるか。俺は騙されないぞ。」
ルカルドは、じっと探るような目でこちらを見る。
その瞳の奥がとても冷たい光を宿しているのを見て、ごくりと唾を飲む。
心なしか、威圧感も増している。少しでも気を抜いたら呑まれてしまいそうな程だ。
恐さを感じつつも、わたくしも睨み返す。かなりの魔力を乗せて威圧した。
が、ルカルドはぴくりとも表情を動かさない。
…こちらが折れるまで、ずっとこうしていそうな気がするんだけど。
10分くらいだろうか、長い間見つめ合った後、遂にわたくしが折れた。
「これは、私しか使えない魔法だ。詳しくは言えないが、こちらに殺意を向けた対象しか殺せない魔法だから、人間には害はない。安心してくれ。」
「…本当なんだな?」
「ああ。神に誓って。」
別に嘘は言ってない。
ふっと、張り詰めていた空気が緩んだ。
どうやら信じてくれたらしい。
「分かった。なら、安心してランクを飛級させれる。俺は、ギルマス権限でお前のランクを聖級までひきあげようと思っている。
他の奴らから不満の声が上がると思うが、できる限り手を出さないようにしてくれ。」
土竜を倒したとはいえ、わたくしは今日冒険者登録をしたばかりの初級者だ。
聖級といえば、かなり名前の知られている者が多く、それ相応に実力をもつ階層である。
一気に三つも階級を飛ばせば、そりゃあ他の冒険者達は不満を持つに決まっている。
「ランクはこのままじゃダメなのか?」
「ダメだ。昔、同じような事を言った奴がいる。言う通りにしたら、そいつと同じランクの馬鹿があいつに出来るのだから自分も出来ると勘違いして、死地に突っ込んでいく愚かな奴等が居たんだよ。」
成る程。確かにそうかもしれない。
それにわたくしはそこまでランクに固執しているわけではないので、素直に受け取っておくべきだろう。
「分かった。じゃあ、ランクは上げておいてくれ。」
「あぁ、了解した。」
「ところで…ルカルド、その私と同じ事を言い出した奴とやらに思い入れがあるようだな。いったい、誰なんだ?」
昔の話をしていたとき、ルカルドは遥か遠くを見つめるような目で、切ない顔をしていた。
先程までずっと胡散臭い笑みをしていたものだから、急に感情が剥き出しになれば、普通驚くだろう。
ルカルドは、「見られていたか」と呟いて、ふっと自嘲する様に笑った後、こう言った。
「…サラ、いや、サリエラだ。白銀姫とも言われていた、帝級ランクの冒険者だった。
既に死んじまったがな。」
彼にとって、ずっと忘れられないらしい人物は、母様だった。
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