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安易な婚約破棄はやめましょう

  ブレール王国の王宮、夜会会場で王太子であるレナードは婚約者の大公家の令嬢イレーネと対峙していた。


「イレーネ、君との婚約を破棄しようと思う」


イレーネはレナードを真っ直ぐに見据えた。

いつものおとなしい令嬢の態度が鳴りを潜めていた。


「はい、承知しました」


そう答ると、王太子に対し淑女の礼をとり退出して行った。

夜会会場のざわめきを後にして。


イレーネは王太子の婚約者として城で部屋を与えられていた。

彼女は部屋に戻ると、大公家から連れてきていた専属メイドに伝えた。


「王太子殿下に婚約破棄されたの。明日、なるべく早くに城から出るわ。

すまないけれど、荷造りを頼みたいのだけどお願いできる?」


メイドは驚いたようだが、大公家からきている使用人に連絡を取り、直ぐに荷造りに取り掛かる。

思いのほか手際がよく、あっという間に荷物は片付けられていった。

王太子妃教育に城から借りていた本はまとめて机の上に載せておく。

王太子から贈られたアクセサリー、ドレスは衣装部屋の片隅にまとめておいた。


深夜のうちに荷物は馬車の荷台に載せられ、明日馬を繋げばすぐにも出発できる状態になっている。

さすがに国王夫妻に挨拶は必要なので、朝まで休息をとった。


――――城での生活も今日が最後か・・・


ここで暮らすことになった時は、一生をここで過ごすのだと覚悟を持ってやってきた。

それがどうだろう。

ほんの数年で急に出ていくことになるとは。

お父様に失望されないかしら。お母様に心労をかけてしまうわね

イレーネは故郷の父母に申し訳なく思った。


明け方、王太子レナードの側近をしているイレーネの兄ジェラルドがやってきた。


「二時間後に国王ご夫妻とお会いできる。

その時、二人で城を辞去する旨を伝えよう」


「え、お兄様も?」


「もちろんだ。私がレナード殿下の側近になったのはイレーネの婚約が決まったからだ。破談になるなら、ここにいる意味はない」


「ですが・・・」


「イレーネは傷ついただろう?

私がここに残ってはブレール王国との繋がりが残ってしまう。

元々、この縁談はブレール国王の希望だ。

破談になるなら繋がりは断つに限る」


そんな話をしながら国王夫妻との面会時間を待った。


時間となり謁見の間で国王夫妻に挨拶をする。


「イレーネ姫、レナードが申し訳ない事を・・・息子を説得するので、暫く時間をくれないか?」


国王はグリーンヒル大公家の公女としてイレーネを姫と呼ぶ。


「国王陛下、婚約破棄は王太子殿下のご意志。説得して婚姻を結んでも将来に禍根を残しましょう。それに、夜会会場での宣言ですから大勢の貴族が聞いておりました。

そんな中、私が城に残っていては王家に縋る小娘と侮られます。私が軽んじられるのをグリーンヒル大公家はよしとしないでしょう」


「妹の申す通りでございます、陛下。

私も人事担当部署に王太子殿下の側近の職を辞すと申し出、即時了承いただきました。

我々は、ただいまをもって城から退去いたします。

ご期待に応えられず申し訳なく思います。

長らく、お世話になりました」


兄妹は、最上級の礼をとる。

そのまま回れ右をして謁見の間を出ようとすると、後ろから弱々しく声が掛かるが振り返る事なく歩いていった。



もうすぐで馬車というところで、声をかけてきた者がいた。

振り返るとレナード王太子だった。

青白い顔をしており狼狽していた。


「王太子殿下におかれましてはご機嫌うるわしゅう存じます」


「うるわしい? そんなわけあるか!

どこに行くんだ! イレーネ」


「ここにいる理由がなくなりましたので大公家に帰ります」


「そんな、急に・・・」


「王太子殿下との婚約はなくなったので、私がいつまでもここにいてはわが大公家が嘲笑の的になります」



「そんなつもりで言ったわけじゃない。

君はいつもすましているから、婚約破棄を申し出たらどんな反応をするかと思って・・・本気で言ったんじゃない!」


「多くの貴族が出席する夜会でする戯言でしたでしょうか?

私には、大公家の公女である私をこき下ろす茶番でしたわ。

私は王家の意向で殿下の婚約者になりました。

破棄されれば従うまでです」


「僕に対する君の気持ちは・・・未練はないのか?」


「私なりに殿下に対する愛情を育んできたつもりです」


「それならどうして態度に出さない」


「未来の王太子妃として相応しい品位を保つため、王太子殿下に対しての態度も節度を忘れずにと教育を受けてきましたので。態度に出なかったのはその教育の賜物です」



イレーネは、今まで見せたことのない悲しげな表情をレナードに見せた。

それは、見ているこちらが切なくなるなんとも言えない色っぽさを含んでいた。



「王太子殿下、今までお世話になりました。

もうお会いすることもないでしょう。どうぞお元気で」


イレーネはそう別れの言葉を口にすると背を向け、近くに待機していた馬車に兄ジェラルドにエスコートされて乗り込み城を去った。



この兄妹の実家グリーンヒル大公家は豊かな辺境の地にある。

その領土はブレール王国国土の三割を有する。


兄妹が大公家に帰り家族と側近に、ことの顛末を伝えると大公は怒りを露わにした。

なにせ、この婚約話は王家からの希望で数年単位で娘と息子を城に預けてきたのだ。


大公はブレール王国から独立し、新たにグリーンヒル公国を立国することを宣言。


ブレール王国の胃袋を支えていた大公家が独立したことにより王国の経済が傾いた。


ブレール国王がグリーンヒル公国に泣きつくも、以前から隣国が大公領の産物を輸入したいと申し入れをしていたため、公国を立ち上げたことを機会に取引することにしたと報告した。


グリーンヒル公国はブレール王国に一切の忖度なく対等な国として接した。


やがてブレール王国は貧しくなり、グリーンヒル公国に移住する者が増えた。


王家や貴族の婚姻は国のありかた、ましてや国民の生活にも影響するので、慎重に愛情を育めるよう周囲も温かく見守りましょう。




そしてその当事者は、安易な破棄はやめましょう。






読んでいただきありがとうございました。


⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘


一部訂正しました。

ジャンルを変える提案もいただきました。

しかしイレーネは婚約者時代、愛情を育もうとしていたことを鑑みて、熟考しましたが恋愛のままにします。

ご提案いただきましてありがとうございました。


誤字脱字、ご報告いただきましてありがとうございます。

今後ともよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 子どもの試し行動じゃないんだからさ… そりゃ王族同士の婚約を簡単に反故にするような国は信用されないし舐められますわ
[一言] 「そしてその当事者は、安易な破棄はやめましょう。」 婚約を約束も破棄も安易にできると考えている人は、生涯独身でいましょう。
[一言] ジャンルは投稿後でも変更できます
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