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第6話:素性って?

日シリみてたら遅くなっちゃった。阪神日本一おめでとう

季節は春になり、草原へ向かう事を決めてから三度の移動を経験した。いくら年中夏のような気温とはいえ、日照時間の減る冬は植物の成長が遅くなり、すぐ近場の食べ物が無くなってしまう為に細かく場所を移動する必要があった。

だがそれも終わりだ。そろそろ夏に向け、逆に高原へ発とうという話が出ている。僕はと言うと更に料理の腕を磨き、毎日1食分なら全世帯に料理を回せるくらいに大量の食材を調理できるくらいになっていた。とはいえ彼らは起きてすぐ、(大体)10時頃、昼、(大体)3時頃、夕方、夜と一日6食でそれ毎にかなりの量を食べるため、族長と姐さんにでさえ朝と昼と晩くらいしか作る事は出来ていない。僕がそれ以上食べず、シンプルに作る気が起きないからだ。元々草オンリーの日々から抜け出すため、僕の為だけに始めた事だったし、彼らに比べ小食だと理解してもらっているから問題は無かった。


「セキくんヴィーラちゃん、また後でね!」

「またね~」


今日はあの14歳のお父さん、ワダンさんの誕生を祝う日で、警護の人達もできるだけ集め、皆でお祝いの予定だ。僕の方でも昼過ぎには昨日から少しずつ仕込んだ沢山の料理が完成しつつあった。

ここの自由な生活には時間という考え方が薄い。日が昇れば朝、陽が沈めば夜くらい。なので誕生日という概念がある事、つまり1年を12分割したり、年月日の概念がしっかりあるというのを知ったのは、意外でありがたかった。なんとなくで月日を考えていたので、僕が彼らに拾ってもらって大体6ヶ月弱経った事が正確になった。


草原に来る前に思っていた物より3倍ほど高い草を分け入りつつ、帰路につく僕とヴィーラさんの足は同じ方へ向かっている。ヴィーラさんの家と僕の居候先が近いところに建てられていたからだった。


(異人の僕が、存在しないはずの外堀を埋められ始めている)


明らかに周りが僕らをくっつけようとしているのが分かる。とても『それ』を決断しやすい雰囲気になってきているのは確かだった。


「なんか背伸びた?ちょっと背が近くなった気がする。」


隣のヴィーラさんがそう言いつつ少しつまらなそうな顔をしている。最近ようやく気付いたが、彼女は弱そうな生き物が頑張って生きている姿が好きだった。

弱っている家畜や子供達が復調したのを見る時、多幸感に包まれているような様子が見られる。僕の事を手伝ってくれるのはそれになにか近しいものを覚えているのかもしれない。


「実は僕の体まだ成長期なんですよ」

「ふうん、14歳なのに、変なの」

「5月生まれだから、もうしばらくすると15歳です」

「余計にヘン」


ストレートな物言いについ笑ってしまう。見た目はもう大人で、考え方も子供のそれが消えて行っているが、どこか幼さを残したままで、こっちもよく変な気分になる。

彼女は7月うまれだった。別に10歳までに相手を見つけるのが普通という訳ではなかったが、ヴィーラさんのご家庭としては早い方がいいというのが正直なところだろう。


「『結婚』」

「おううぅん!?」


気にしていたワードを急にぶち込まれて、神経を突つかれたかのような声を出してしまった。

夕方になり、大きくなった髪色と同じ虹彩が、周囲の薄明かりを反射して金色に光っている。こちらの人間はこの大きな瞳で夜目を効かせているのだが、見慣れないものは本能的にすこし怖さを感じるのが本音だ。未だに、という話でもあるが。


「うるさいよね、パパたち。ごめんね」

「え、んーーーーいやあ、うーん~~~と~~~~~~~~~」


はっきり言って、これは僕にも非がある。そろそろ結論を出すべき時らしいが、どうすべきか答えを未だに掴みかねていた。

ここから更に南下すると中継都市シャンレイという所があるらしい。少し遠いが道はなだらかで、イレン半島にある二つの国、帝国と王国のその中間に位置する土地なため、情報や人や物が集まりやすい場所らしい。ここを出るなら今が一番だが、このまま何も恩を返せずに出ていくなんて恥知らずもいいところだった。もっと言えば、今を逃せば僕の人生はこの遊牧民たちとそのまま一つになる気がしていて、だがそれもあんまり悪い話ではないと感じてしまっている訳で・・・


「その・・・ねえ・・・?」

「セキハル!ヴィーラ!」


ぐるぐると思考の海をさ迷っていると、後ろの方で姐さんの大きな声が響いた。ただ呼ばれただけだったが、なんとなく切羽詰まったような雰囲気を感じる。というか、いつの間にか集落の入り口の方もなんだか騒がしい。何があったのだろうかと一度ヴィーラさんとの話を置き、振り返って返事をした。








「ワダン!しっかりしろ!気を強く持て!」


族長がそういって男の手を握りしめつつ頬を強く張っている。急に見たことも無い生き物が攻撃してきて、仕事中の警護団全員で対処したがワダンさんと相打ちになり、深手を負ったと教官が教えてくれた。


「ヴィーラ、水を持ってきて大人に温めさせて。初めは少しで良い。次にたくさんね。セキハル、あたしの家から包帯と太い糸と針をいくつか持ってきて。急いで」

「はい!」


姐さんがワダンさんの血まみれの服を裂き、患部を露出させつつ落ち着いた声で各方面に指示を出している。僕は急いで家に戻り、目的の物を用意して1分で元の場所へ帰った。


止血に押し込まれた布巾が魔法で人体と一緒に凍らされていたようで、姐さんが出血で解凍されつつあったのを抜き取りつつ清潔な布巾に取り換えていた。

血がふき取られた一瞬に右胸に深い穴が開いているのが見えた。あの位置は奥に肺があって、傷の深さは内臓まで達しているようだった。よく見ると口元から顎の先に幾筋の血が流れた跡があった。

少しして少量の熱湯を持ってきたヴィーラさんが姐さんの作業と入れ替わり、数人で傷口を強く圧迫しつつ魔法でそれを補強している。


「目を閉じるなワダン!!まだ子供は生まれたばっかりだろうが!!しっかりしろ!!」


お湯を作るための熱源は物を温める魔法と僕が作った暖炉の直火だ。より早く水を沸かすため協力して熱を加えつつ、遠目でワダンさんの状態を確認した。

そうして数十秒もすると、大量の血を吐きだした後青ざめた顔が痙攣をおこしはじめるのが見えた。出血が多すぎるが、血は止まらないし輸血しようにも道具がなかった。間違いなく1リットル以上の血が体外に出てしまっている。


(このままじゃ助からない)


ああ、これはだめだと気づいてしまった。ワダンさんはもうすぐ死ぬ。だめだ、出し惜しみしている場合じゃないらしい。そう思うよりも先に体が動いた。


「セキ?どうした?」

「セキくん・・・!」


何も持たず、黙って輪の中に割って入った。僕が何をしようとしているかは誰も分かっていなさそうだが、周りもすでにどうしようもない状態に入ったと察し、無力感がそこに広がっていた。

傷口を抑えるヴィーラさんの前にしゃがみ、その手をやさしくどかせて傷口に右手を重ねて集中した。このレベルの重症に使うのは初めてだ。はっきり言って自信はない。気が付くと傷口に添えた手が震えていたが、息を吸うと静まった。額が熱い。生死の境目に立ち会う場の、嫌な熱気に浮かされているようだ。


ヴゥンと形容しようのない重低音が鳴った。一瞬で緊張が周りに走ったのがわかる。魔法は基本傷つけるものだからだ。僕はこの音が好きじゃなかった。

何人かはもう楽にしてあげようと介錯をしに来たと受け取ったかもしれない。


「うっ!・・・ううう、む・・・ごぶっ」


少しうなった後、ワダンさんが気道を塞いでいた血を吐き出した。止血の為に傷口に押し込まれていたタオルをゆっくり抜きつつ、細胞単位で手の平で傷口が塞がっていくのを感じた。溢れるばかりの血が止まり、止まっていた呼吸が帰ってくる。間に合ったと安心しつつ、今度は血を造るイメージも思い浮かべつつ、ダメ押しにもう一度力を使った。これでもうすっからかんだ。

明らかに顔の血色がよくなってきたのがわかる。ワダンさんも痛みが薄くなり安心したのか、そのまま深い呼吸を一度行い、静かに寝息をたてはじめた。安らいだ顔を見て安堵しつつ、一息をついてふと顔をあげると水で打たれたかのように喧騒が落ち着いていた。


「もう大丈夫です」


それだけ言って立ち上がり、そのまま逃げるように外へ出た。ちょっと歩けば出られる程度の距離だったが、視線を集めながらの出口までの歩みは妙に遠いように感じた。

手のひらにべっとりとついた血が空気に晒され、夜の闇と同化する様に熱が気化していく。この判断でよかったのだろうかと自問しつつ、手を握り締めると血液特有の粘性を感じた。

きっと、どちらかというと正解の行動だろう。よかったじゃないか。一人の命を救えた。それで。




出来次第。ただでさえ1話あたり短いのに次は更に短いと思う

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