第3話:ここはどこなの?
昔SFやミステリー書くのが好きでした。なんか心の元気がないと新ジャンル開拓する気起きないよね。丁度いいなと思って知らないジャンルみりしらみたいな感じで書いてる。
頑張るけど途中で力尽きたらごめんね
日が傾きだした頃に作り始めたトマト鍋の煮込みが終わりつつあった。実際にはトマトではなく、似た味の緑色をした水っぽい何かを煮込んで具材を入れたものだったが、かなりそれっぽい味になったと思う。最後に塩を加えて味を調えつつ、名も知れぬコショウによくにた香辛料をすりつぶしてまぶした。
穀物を発酵させた麴のようなものに浸けた野菜を少し切って口に含み、まあまあかなと思いながら一つ取り出して細切りにした。後二品くらいあれば今日の夜の分は終わりだなと思い、一息ついて火の元から鍋を移した。
知っている食材が一つもないため手さぐりになったが、草ばかりの味気ない日々から逃れるために本気を出してきたので相当料理はうまくなったはずだ。
ここの住人は味の好みから基本菜食主義らしく、火を入れたり味を付けたりするという事に無頓着だった。そもそも余り火を好まないようで、燃える音や火のゆらめきが生理的に嫌らしい。
それと好んで肉や魚などを食べると奇異の目で見られるというのも分かった。彼らにとっては元気が出ない時の栄養食程度のものだ。でも僕はどうしても舌が肉の味を求めてしまうため、それだけは一人でこっそりと食べるようにしていた。
食べ慣れると意外と菜食メインというのも悪くなかったが、こればかりはどうしてもやめられそうにない。
「セキくんあーそーぼ!」
「はいはーい、ちょっと待って下さいね」
いつもの7人組の子供たちが入り口を抜けて僕を呼びに来た。大人たちが仕事にかかっている間、子供のお守や人の手伝いをする。これがここでの僕の役目になっていた。
「今日はねー、■■■しよ!」
「あは、ごめんわかんない」
一応ここでは10になれば大人と言う扱いになるらしい。実際この世界の人は発育がとても早いようで、子供を持つ若いお父さんという雰囲気の人が僕と同じ年の14歳と言っており驚かされた。
「セキくんはけいごには行かないの?」
「・・・人には向き不向きがあるんですよね」
警護、もとい訓練、もとい食料の調達を行う人たち。この集団は7世帯の集まりで30人ほど、警護団はその内20人。3班ごとに別れ、朝夕で交代しつつ居住範囲を離れる。後は子供や裁縫や物づくりを行う僕のような人達だ。
一度軽自動車サイズの豚鼻で禿げた熊のような生き物が山から下りてきたことがあった。食べ物を探して集落の中を闊歩していたが、警護団の報せで避難し、家畜を連れて避難する事が出来ていた。最終的にあの洞窟の主より巨大な爬虫類の生き物がその生き物を丸呑みにし、少し消化にした後に山に帰っていったのを遠目で見て、この世界の人間は生態系の底い位置に在る事を理解した。
草っ原や山の中で一生を過ごすからか、緑色か茶色の髪の人がほとんどだった。こちらの方が保護色になるのだろう、他の髪色の人達は生き残れなかったのだと思い、外に出る時はちゃんとローブを被るようにしていた。
子供たちの中の一番小さな子が今日も気まぐれに袖もとにかみつきはじめ、こらこらと頭を撫でつけて注意する。彼らとコミュニケーションをとれる程度には言葉も覚えることが出来て、ようやく色々とこの世界のことが分かってきた。情報を整理していくと何か分かりそうな感じもあったが、僕の頭がそれほどよくないためか何も気づけないままでいた。
「じゃあセキくんたち鬼ね!!これけったら■れるから見つけに来てね!で!またけられないように守ってね!じゃあいくよ!」
「うん?ああ、缶蹴り?かな。説明雑すぎない?」
「おらああぁっ!!!!」
「加減して??」
振り返るとあの異常なスケール感の山が見えた。山自体遠くから見るとかなり大きかったが、雲のかかる森林限界をあの高い木々が控えめに遮っている。やはりあの植物達のデカさはちょっとおかしい。
ちょっと近況を思いかえそう。川を下りながら生活をしていたら仮面をつけた現地民のような二人組に絡まれ、その途中落とした魚を洗おうとして川辺で足を滑らせてからこの高原まで流されたらしい。
無我夢中で掴んだ流木で溺れてしまうのは免れたようで、気が付いたらこの遊牧民達に拾われて看病されていた。結構な距離を流され死ななかった事、見ず知らずの僕にとても優しくしてくれる人に巡り合い、きっと多くの迷惑を掛けながら生きながらえさせてくれたこと。自分でも信じられないほどに運が良かったと思う。神というのは居るもんだなあと食前の祈りにより強い気持ちがこもる日々を送っている。
新しく手に入れた知識として、ここはイレン半島という大地だと呼ばれている。
あの二人組はここの人たちによると山の上にあるエアルと呼ばれる国の、魔人という種族の人達らしい。陽が沈む頃に何かを当てられて体が輝いていたと話すと、それが出来るのはかなりの魔術?とか言うものの使い手だと言うという話だった。僕を川から引き上げた人は、早朝に川岸で何か光っているのが引っ掛かっていたため発見できたと言っていた。逆算すると半日くらいは光っていたのだろうか、昔話の主人公になった気分だった。
僕が話した洞窟の主というのは知らないようで、あの山にはそういう生き物も居るかもしれないという事らしい。翼竜は魔人のペットだとか伝書鳩的な存在だとかいろいろ言っていたが、正直よく分からないというのが結論で、鳥やヘビなどが主で人間サイズの大きなものを襲うことはないらしい。
そういえばあの洞窟の主の言葉の意味が分かった理由も不明だ。そういう存在だからと言えばそれまでの話だが、アレ以外には全然話が通じなかった事を考えても疑問点としては無視できないだろう。
最終目標である元の世界に帰るヒントがあるかもしれない。
「ファドレさんみっけ。さあ終りにしましょう。今日はそろそろ帰りましょうね」
「あああああああああ負けたあああああああああ!!!!!」
1時間ほどいい様に暴れまわられただろうか、視覚的情報量の少ない高原なのに丘の高低差や家畜を使い上手いこと隠れ場所を見つけ、かき回された。よくもやってくれたなと何度思った事か。
そろそろ時間かなと思い、秘密の必勝法を使うと悔しそうな声で敗北宣言をしてくれた。夕日で伸びた影のせいで足元が見えづらい。警護の人達がそろそろ帰ってくると思い、ついでにお開きを提案した。たぶん、僕一人が鬼だったら明日になっても終わらなかっただろう。隣の子に助かったよと声をかけると嬉しそうに微笑んでいた。
「明日も助けてあげるね」
「は、はい」
名前はヴィーラ。9歳の少女で、この中では最年長だ。顔はあどけなさが残るが、体つきはもう成人女性のそれだった。ヒザの裏まで伸びた癖っ毛が印象的で、背も僕より高く、勝てるところといったら年齢と小賢しさくらいだろうか。
内側を包みつつ後方へ伸びた長いの耳の上に、湾曲しつつ前方へ突き出た白い角が目に入る。大人になれば生えてくるもので、頭だけでなく体から生えてきたりもするらしい。人によって生え方や本数はそれぞれで、邪魔だから折る人もいるとか。
僕があまり運動が得意でない事に気付いて、子供たちと遊ぶ時によく手助けをしてくれる。この子と話している時はいつも情けないような助かるような、少し難しい気持ちになっていた。
そもそもとして彼らと僕には身体能力に相当な差があった。先程も逃げ役はほとんどが5歳に満たない子供だというのに、缶代わりの砂入りの革袋が蹴られるたびに笑ってしまうほどに高く飛んでいるのを見て苦笑いしていた。
この世界の人間が使う用に作られたものはどれも大きく、頑丈で、見かけより重い。ギリギリ片手で持てるくらいの重量だったので指定の位置に持っていくだけでも体温が上がってしまうのを感じていた。
「またね、セキくん」
「またね~」
子供たちがフリフリと6本の指を立ててこちらへ振っている。あれも僕のとは違う。小指よりも外側に、細くて可動域の広そうな指が生えていた。
元居た地球にも、どこかの街の猫は皆6本指の遺伝子を持つという話を聞いたことがある。それはバランスをとるためとか、攻撃に使う為とか。
実際警護団の人達も複数の武器を同時に扱うのが基本だと話していた。お願いすれば柄の両端に剣を付けた武器を器用に扱う姿を見せてくれる。よどみがない動きが美しくて好きだった。
自分の戻るべき家屋に向けて踵を返すと、チカチカと空の低いところで金星が見えた。宵の明星だ。あの星は、この時間に、地球でしか見えない。
(やっぱりここ、地球っぽいんだよね)
完全に夜になってしまえば今夜も秋の星が見え始めるだろう。圧倒的に地表の明かりが少ないため、毎夜プラネタリウム顔負けの星空を見ることが出来る。僕でも知っているオリオン座やさそり座が、最近は冬の大三角まで見えるようになってきた。やはり季節は秋らしい。でもこの暑さじゃなあ、といずれ来る夏に今から参ってしまう思いだった。
(パラレル世界的な感じなのかな)
気付いた事はまだあるが、やはり何も見えてこない。一度考えるのをやめ、家主達が帰ってくる前に食べるもの、残り数品を作ってしまおうと気合を入れた。これは仕事とは関係ない、食材の提供の代わりに作ったものを分け合うというこちらに有利すぎる交換条件だ。
「ヴィーラについてどう思う。」
「うぶごっ!ごぶっ!ごほっ!」
まあまあの出来だとトマト鍋を口に運んでいると、家主の族長から急な話題がぶちこまれ、むせかえった。ほとんど飲み込んだところだったので被害は少なかったが、鼻の中に甘じょっぱい香りが広がった。
「君ももう成人してるんだ。■■もあるし、こうして美味しい食べ物を■って役に立ってくれる。力が弱かろうと気にしなくていい、我々■■の■としてもうちの」
「ま、待ってください、なんでヴィーラさんの名前が出るんですか」
族長は左右対称に耳の前と額から伸びる計四本の黒い角が生えている。傷だらけの体で歴戦の戦士と言った風貌だったが、頭が良くて丁寧な話し方をしてくれるので言葉を覚えるにあたってとても参考になった。
その口調そのままに見えてこない、というか見たくない話の内容になんとなく不安を覚え、冷たいものが背筋を走ったのを感じた。もしや、そういう?でも僕まだ14だし、いやでも彼らにとってはもう14だしで。つまりはそういう事だろう。
こういった込み入った話になってくると途端に分からない言葉が増えてきて、駆け引きややり取りでは僕は圧倒的に不利だ。
「それは、なあ。子を作らねば我々に未来はない。あの子と■■になれる近い年齢の男もおらんし。この時代よそから■を貰ってくるのも難しい。
しかもここの人間達は血が近づきすぎているから、■■で■け入れるよりも君が我らと共になってくれると色々都合がいいわけだ。」
「えーーーーーーーーーーーーーっと、、、、、、、、、、、、
ッスゥーーーーーーーーーーーーーーーーーー、あのーーーーーーーーーですね・・・・・・・・・・」
やっぱりそういう話だったか。うん、とても反応に困る。正直なところここに長居するつもりは無かったし、今すぐにでも帰る方法を探しに行きたい気持ちがあった。お断りしたい。
「もし君がここに住んでいってくれるとしたら、嫁でもどうかと思ったんだ。あちらの家でも同じような話が出ているらしくね。早すぎる気もするが」
ほら、皆と違って指の数も違うし、髪の色も違うし、角も生えない。子供が出来るか分からないし、ていうか子供がどうやって生まれるか、とか保険の授業で習ったふんわりとしかものしか知らないし・・・数えだせば逃げ道ならいくらでも挙げることが出来そうだ。それに彼らはかなり穏やかな人達な為、強く言えば諦めてくれるとは思うが・・・。
とはいえ、今のところ元の世界に戻れる可能性はとても低い状態で、何を思ったところでこちらの考えが甘い上に、命を救われたならばちゃんと彼らに恩を返すべきだという自分の声が聞こえてくるのも痛いところだ。
「まあ・・・その・・・気が利いてて、素敵な人だとは思います、けども・・・」
「あんたやめな、急すぎるよ。」
「すいません姐さん」
「姐さん呼びもやめな。」
隣から姐さんが助け船を出してくれた。皆が姐さんと呼ぶので僕もそう呼んでいたが、俗っぽい呼び方らしく一々訂正をくれるのが律儀で面白い。
族長の嫁さんで、子供は皆どこかの都の方へ行ってしまったらしい。そのせいか僕の事をとてもかわいがってくれる。
「少し考えておいてくれ。族長としては良い返事を■■するよ。」
「は・・・はい。」
「話は変わるが」
ああ、自分の中ですらはっきりとした答えを出せないまま終わってしまった。なんというか、いや・・・うん・・・その・・・・・・
基本、僕は事なかれ主義だ。いつもなら何も考えずにお断りしますで済んだところだろう。このままどっちつかずな態度をとってこじれていくなら早いとこ断った方が良いと思う、本当に思う。
自己評価でも頭が悪くて運動神経もそこそこ、義務教育も終わっていなくて甘っちょろいばかりの青二才だという所に落ち着く。結婚などむしろ相手に失礼なくらいだ。
考えれば考えるだけ自分の判断の遅さが嫌になってきて、その後は族長の話を聞きつつ、ただ静かに口に食ベ物を運ぶ作業に徹する事にした。うん・・・まあまあだ。
出来次第次あげます