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第2話:なにがなんなの?


「報告の場所が近い。気を引き締めてくれ」

「承知」


陽が沈む頃、演習結果の書類作成をしていた私に、管理部よりそちら付近で人間の結界への侵入を検知したとの報せがあった。長壁の最東端要塞に居たのが私と室外清掃中の准尉しか居なかったため、二人で現場へ向かっていたところだった。明日明後日の休暇を挟み、このイレン半島内全土に渡る視察があったのが前情報で、それに備えて部下たちを早めに上がらせたのが失敗でしたなと准尉が苦笑いしていた。


前を行く彼は最近利き腕を脱臼していたにも関わらず、スイスイと森の中を下っていく。足取りがなんとも頼もしい。位こそ私の方が上だったが、あと数年で任期が終了するほどの年齢とは思えないほど活力があり、彼の助けなしでは私などすぐ挫けてしまっていただろう。


(あれか)


ふと視線を落とすと川岸に火の光を見た。前方に出て止まるよう合図を出し、光属性の魔弾を火の近くにしゃがんでいた人物に放つ。それに合わせ准尉が警告を発した。


「何者だ、人間。ここをエアルの領域と知ってか」

「■■■!?」


変な声を出し飛び上がり、魔弾の影響で光り出した体を見て呆気に取られている。

8歳ほどだろうか?若い人間だ。長いローブに身を包んでいた。手に握られているのは直焼きした魚で、なんと手に生えた指が5本しかなかった。


(いや、魔人か?)


とっさに准尉と顔を見合わせた。言いたいことは伝わったらしく、とりあえず確保しましょうと小さな声で伝えてきた。それなりの高さだ、飛び降りるのは危険すぎる。川辺特有の苔むした岩肌に足をゆっくりと降ろした。


「今からそちらに向かう。動くな」

「・・・■■?■■■■■?」


返事かどうかはわからなかったが、何かを喋った。参ったな、言葉は通じて居なさそうだ。いくつかの疑惑が浮かんだが、敵意がない事はなんとなく汲み取れる。


「見たことないですけど割と居るらしいですね、指が5本の人間。」

「・・・食性を見るに魔人かもしれん」

「魔人じゃないでしょう、魔人なら検知しませんよ。魔族の線の方が強い。」


それだと厄介だ。結界を超えられたのは記録では15年ぶりになる。

いや待て、イレンの人間も草食がメインなのであって食べられないというわけではない。人間の可能性も捨てきれないが、何故この森の中でわざわざ魚を食べているんだという疑問を無視することが出来ない。魔族であった場合、戦闘の可能性を考え、たった2人では現実的でないなと思い至る。やはり部下を早く返したのは失敗だったと後悔した。


「わぁっ!」

「少尉!」


足を滑らせた。底まであと3度下る程度の高さだったが、考えに集中しすぎたらしい。浮遊感が全身を包み、打ち所が悪ければ大変な事になると必死に地に手を向けた。

ぎゅっと目をつぶって次に来る衝撃に心を縮ませたが、落ちたのは硬い岩の床ではなく二本の腕の中だった。


「・・・■■■■■■?」

「・・・あ、ああ。ありがとう」


どうやらあの侵入者が助けてくれたらしい。魔弾による光が眩しくて目を背けつつ礼をし、気遣われながら地面に降りた。

危なかったという反省と助かったという安堵を同時に、その後上から心配の目を向けられているのも感じて少し恥ずかしくなった。

はぁとため息をついて眉根をひそめているとぽとりと足元に何かが落ちたのが聞こえてきた。


「■!!!」

「えっ」


私の為に放りだしてしまっていたらしい、先ほどまで侵入者の手の中にあった焼き魚が地面に転がっていた。


「■・・・」


まんべんなく汚れている魚を拾い、状態を確認してからがっくりと肩を落としはじめた。悲壮感が壮大に漂っている。


「・・・洗って、焼き直せばいいんじゃないか?」

「今すぐ食べたいくらい腹減ってたんでしょう」


准尉が静かに隣に降り立ち、こちらにそう声をかけて侵入者に近づいていった。


「先程はありがとう、少尉に怪我をさせていれば俺が大目玉を頂戴するところだったのでね。これは礼だよ。」


そう言って准尉は前盒に手を入れ、携帯食料を取り出して彼に手渡した。支給の干し肉が入ったただの革袋だったが、開口に手間取っていたのが少し気になった。

中の物を手に取り、少し匂いを嗅いで口の中に入れると何か一言、味の感想を言ってうなずいていた。気性のおとなしさはイレンの人間のそれだが。なんにせよ結界を何らかの方法ですり抜けてきたと思われる。


「肉は好きそうですね。」

「・・・もしかしたらイレン外の人間だな。」

「そうですね。しかしイレン外の人間は情報がないですし・・・うん?」

「■■、■■■■■■■■?」


干し肉を食べ終えたようで、何か声をかけてきた。本当に何を言ってるのかわからないが、准尉の右手を指さしている事から怪我を気にしているようにも見える。

脱臼自体は整復することが出来たが、関節の付近の組織を痛めていたようで上半身に大きめの固定具を取り付けている。怪我から1週間ほど経ち、もう慣れたと言っていたが後2週間は安静にしろと診断されたところだった。


「あだだだだだ!!」

「は!?」


セオリーを無視し、雑に積まれた焚火の様子を観察していると後ろから叫びが聞こえてきた。侵入者の男が急に近づいてきて怪我をしている腕を触り始めたようだ。飛びのいて肩を抑える准尉をかばい、いつでも撃てるぞと手の平を向けて牽制する。一体何が目的なんだこいつとにらみつけていると挑発のつもりなのか急に自分の肩をぐるんぐるんと回して見せてきた。


「??????」


意味が分からん、なんだこいつ。撃つか?とりあえず。気絶させて見張っておき、准尉に応援を呼ばせるか?


「下がってください、部下が庇われる訳にはいきませんから。」

「平気か?」

「大丈夫です。というか・・・」

「■■■!!!」


ああ、次は何だ!やっぱり撃つか!氷の魔弾を作りつつ前方に狙いを定めようとすると、男が川の中で足を取られてすっ転んでいく姿が見えた。


「おい!え、えぇ・・・?」


川辺へ駆けつけたが遅かった。もがきながら水流に押されて行く男の輝きが少しずつ小さくなっていく。


「な・・・流れていきましたね」

「そう、だな。・・・遠くで光ってるようだが・・・それも・・・」

「助けますか?」

「・・・やめておこう。」


もう完全に見えないな。追いつけそうにない。

結局何だったんだあいつはと追いかけるのをやめた。そういえば昼頃は雨が降っていた。暗くてわかりにくかったが川の流れが強くなっていたのだろう。


「やっぱりなんか変ですね。」

「?」

「肩、全然痛くないんです。治してくれたのかもしれません。アレは礼のつもりだったかもしれません。」


そう言いながら固定具を緩め、肘を肩の上にあげて見せた。


「傷を癒せる特殊令素持ちの魔人の可能性も出てきましたね。やはり無理にでも確保するべきだったでしょうか」


そんなバカな。どこを痛めてるのかも知らないで治してしまうなんて冗談のような能力だと笑いそうになった。が完全に固定具を外して腕の動きを確認し始めた部下の姿を見て閉口した。

判断材料がまた増えた。結局何者だったんだ?情報を整理しながら、今日はすべての行動が裏目に出たなと反省する。


「とりあえずは・・・一度ベースに戻り報告を上げ、早い内に川下へ捜索隊を出すよう掛け合ってみよう。魔人なら死んでいる可能性が高く無駄足になる。たった2人で闇の中の捜索は安全を損なう。いいな。」

「承知。あの魔弾の効果も一晩はあるでしょう。」


味方にする事が出来ていれば我が防衛隊の貴重な戦力になったかもしれないと思い、今一度自分の判断の遅さが嫌になった。もう一度川の果てに目を凝らしてみたが、やはりだめそうだった。










出来次第

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