第9ゲーム『一騎当千の大海』
試合開始から3分経過。
「ミカ、聞こえる?手短に行きたい。」
『ええ。大丈夫!良好!』
僕は今、水中に漂う小型潜水艦にいる。
匍匐前進の態勢で寝転がりながら二本のレバーを持った状態で、この潜水艦は操縦する。
備え付けの武器は二種類の水中ミサイルだ。
このゲームには奇妙なリアリティがあり、水中や地中にいると通信ができないことが多々ある。
敵が通信妨害系のアイテムを使わせられた場合も同様だ。
まぁ僕とミカはリアルの隣部屋に行けばいいから本当に通信が必要になったら、どちらかの部屋に行けば実は連携が取れるという『リアルチート』を使うことができる。
が、できるだけフェアにプレイしたいので相手と天と地の差がある場合や、相手がチートを使わない限り僕らもそれをしない。
そして少し話は続くがこのオペレーターとの通信……僕らは結構通話を利用しているが……実はいくつか穴がある。
このオペレーターとの会話は最大で1分程度、『盗聴できるアイテム』が存在する。
これはゲームの運営側が警告していることなのだが、僕らの様に『リアルの知り合いでプレイする場合でも絶対に本名を言わないようにしてくれ』と運営がこのアイテムがあるため警告している。
盗聴中とかも少しだけ通話にいびつなノイズが走るのだ。
だから通話時の調子を確認しあうことは大事なのだ。
まぁ盗聴を利用して相手に嘘情報を教え作戦に利用することもある。
あともう一つ厄介なことに、この通話。
潜水艦などで長時間使用した場合、音の反響で相手のオペレーターに自動的に位置がばれてしまうのだ。
僕らの小型潜水艦は一人乗り用で水中フロントの最大深度である500mの少し前である350mまで潜水可能だ。
赤陣営のフラッグまで残り300m。
正三角形のフィールドの真ん中を通る大回りのルートで移動してきた。
現在は深度240m。
250mまで潜ると通信障害が発生するためエンジンを切り、ここで仲間の状況を聞いている。
『今、クロスの駆逐艦に例の装置を取り付けているところ!』
「さすがに時間がかかるな…。」
『先に攻撃して!時間稼ぎになるし、そうなったら消化試合っしょ!』
「了解だ。海上の戦力を教えてくれ!」
『……ゴ、ゴムボート2隻!うきわ3つ!ビート板1つ!
約170mの地点!言いたくないけど赤は水に弱すぎるよ!』
…………これが水上での赤の柱国のいつもの光景だ。
僕らよりレベルが低いと、こういう光景は結構見る。
僕らが空で何もできなかったように、赤は水ではほぼ何もできない。
逆に陸では草木や火山などが邪魔で緑が何もできない。
僕らには水陸両用の車があるからまだ動ける。
「先に攻撃する!向こうが始まったら直進して追撃する!」
『了解!期待してるよ~ん!』
「オーケー!」
そう言って僕は通話を切る。
「さぁ~って!蹂躙するぞォ~~!!」
こういう独り言は僕と言うゲーマーの悪いところだ。忘れてくれ。
潜水艦を直進していく。
潜水艦に搭載されたメーターの1秒ごとに数字に少しずつ増えていく。
そして残り40メートルの時点でゆっくりと浮上を開始し始め微調整を重ねていく。
それと同時に操縦レバー備え付けられた武器スイッチの蓋を開け、スコープを除く。
スコープ越しから赤の柱国『クリムゾン』の連中が水でワチャワチャしているのを確認する。
どう見ても溺れている遭難者って感じだ。
ゴムボートすらまともに漕げていない。
レベルが低いのと環境が悪いと基本こうなる。
正直放っておいても溺れてリタイアだろうけど、倒せば経験点はいるし水中ミサイルの照準をゴムボートに合わせる。
一番弱い水中ミサイルで仕留められなかったら、嫌だから中くらいの質のミサイルを装填。
――発射ッ!
僕がボタンを押す。
数秒後、水面に出しているスコープから水上に巨大な水柱が立つ。
ゴムボートは水柱に押し上げられて破裂しながら転覆していく。
そして載っていた赤の乗組員たちは空中で光の粒子となってフロントから退場する。
確認した感じ二人が消えた…。
残り一人は……あ、ビート板につかまって生き延びている……。
回復アイテム使っているな……。
フラッグは~~……あった!なんだか地震を計測するとかの浮きみたいにプカプカ浮いてる。
ここで僕は攻撃の手を緩めない。フラッグとプレイヤー両方とも落とすとボーナスが入るからだ!
小ミサイル二連打!さらなる追撃の中ミサイルでフラッグも破壊する!
よっし!赤はプレイヤーとフラッグ爆散した!水柱が立つとともに粉みじんになって消えた!
恨むなよ。僕ら全員が通る道だ。
『オト!こっちも準備完了!そっちは?』
「こっちも両方落とした!赤は撃沈!」
『了解!じゃあサブマリンはそこに捨てておいて、『移動君イチ式』でクロス達と合流!』
「わかった。」
サブマリンを浮上させてアイテムボックスにしまう。
それと同時に昨日使ったバグの原因である移動君ゼロ式の劣化版、移動に15秒のラグがある『移動君イチ式』でクロスの元へ駆けつける。
▽ ▽ ▽
「来たか!オト!」
「いよいよだね。クロスがひきつけてくれたおかげで相手プレイヤーは勢ぞろい!
青に攻撃することはないよ。」
「よし!」
僕らの作戦は単純明快で相手に攻撃させないって作戦だ。
僕が赤を攻撃中クロスが緑をひきつけ僕らに攻撃させないようにする。
そして僕が赤を落としたら拠点にいるディフェンダーであるメノをクロスの元へ呼び寄せて、一緒に総攻撃を仕掛ける作戦だ。
『これから船を敵陣営に突っ込むよ!スキルの準備して!』
「「「了解!」」」
相手はさっきの赤のようなゴムボートではなく、俗にいうスピードに長けたヨットだ。
数は三隻!
素早くて狙いづらいから嫌いだが、今回の僕のスキルにそれは関係ない!
僕はハンドデバイスを器用に操作し、相手が蛇行しながらこの艦に向かってくる範囲を見定める。
「攻撃スキル:アイスクエイク!」
僕が指定した範囲の海水が巨大な氷山へ変わる。
海が凍ってゴツゴツした氷山に変わった結果、敵のヨットが座礁してしまう。
このスキルは一試合一回しか使えない。特別な範囲攻撃スキルだ。
海などのステージの場合その範囲と持続時間は驚異的な攻撃スキルで、敵を凍らせたり氷山をぶつけたりできるスキルだ。
このステージだと、対策していないと結構避けるのが大変であり、基本致命傷を与えるのではなく敵を凍らせて氷が解けるまで時間を奪うことができる。
ただ今回は時間を奪うのではなく機動力を奪うように範囲を仕向けた。
おかげでヨットが三隻とも、漁港とか市場で競りに出されるマグロみたいに何も動けずにいる。
攻撃チャンスは作ったぞ!
「クロス!メノ!」
クロスは僕らの船からジャンプをして氷山の上に乗りヨットへ近づく。
「食らいやがれ!俺様の豪快な攻撃スキル:爆発!ボンバー!!」
クロスは頭のリーゼントから手りゅう弾を取り出して投げる。
そして手りゅう弾は手を離れると同時にぐんぐん大きくなる。
このスキルは単純で爆発物を巨大化させ威力を上げるっていうだけのスキルだ。
現に手りゅう弾は今や人の身長ほどの大きさだ。
そのまま大きくなった手りゅう弾は、とても手りゅう弾と思えないような豪快な轟音と共に氷山を割り、ヨットを木っ端みじんにしながら大爆発する。
「はっはー!どうだ!」
「クロス!避けろ!」
手を掲げ笑うクロスに敵の電撃が背後から迫る。
おそらくヨットが破壊される前に脱出して、最後の悪あがきを放ったな!?
「防御スキル:ウールシールド。」
電撃が迫るクロスの全方位に羊の毛が出現する。
メノのお気に入りのスキルだ。どうやらクロスを防御したらしい。
羊の毛は電撃を吸収しクロスの足元にある氷へ拡散していく。
このスキルは電撃や衝撃を70%はカットすることができる。
そして結構離れた距離から放てることができるスキルでもある。
「クロス!しっかりしてほしいなの!」
「おっと悪い悪い。」
怒るメノと笑うクロスをよそ眼に、船の上から僕は貴重なスキル欄を埋めた常時発動型のスキル:鷹の目で敵を探す。
……………………いた!クロスとメノから見て後ろ数メートルの距離。クロスをまだ狙っているな。
メノの防御スキルはあと10秒で消える。
タイミングを見計らっているのかボウガンを構えている…。
プレイヤーを一人退場させるだけでもそれなりの得点になる。
逆に退場させられるとこっちの得点が減る。
ゆえに『捨て歩』をさせないのがこのゲームでの鉄則だ。
相手はもうあのボウガンのプレイヤーだけなのだろう。
守るものも守り切れず『せめて一太刀』ってやつだ。
――残念だがそうはさせない。
僕は捜査して最後の敵の位置にマーカーをつける。
「ミカ、このマーカーに砲弾を撃って!」
『了解!仰角修正!砲弾のスイッチ連打ァ!!』
すると僕の載っている船から大量の砲弾が雨あられの様に降り注ぐ。
僕の作った氷山を破砕しながら敵を散り一つ残さずHPを削り退場させる。
「よし!敵を全員退場を確認!緑のフラッグを破壊して完全試合と行こう!」
『了解!三人ともド疲れさーん!』
これが本来の僕らの戦いだ。
まぁ今日は運よく弱い相手に得意なフィールドだったからうまく行き過ぎたけど…。
完全試合をして帰還してしまった。
――もしかしたら、今回の戦いで、クランのレベルが上がるだけじゃなくて『国家レベル』も上がるかもしれないな~!
そうしたら功績を認めてもらえて『青の王様』に謁見できるかも…………。
なんて思いながらすがすがしいリザルト画面を眺めて楽しみが増えたのだった。
※ブックマーク、評価、レビュー、いいね、やさしい感想待ってます…!!
この物語の『更新』は現状『毎週金、土、日』に各曜日1部ずつとなります。
■ ■ ■ ■
~FrG豆知識のコーナー~
■ ■ ■ ■
メノ「戦闘が終わると実はそのフロントの環境にあった素材アイテムをゲットできてしまうの!」
クロス「しかも一見すると同じ名前の素材アイテムでも、加工系のクラン曰くまったく別のアイテムらしいぜ。」
ミカ「あの人ら、実はリアル職人さんが結構な人数で紛れ込んでるらしいよ~。」




