閑話『Ⅸ番目は面白おかしく生きている。』
今回は珍しくナオト視点じゃありません。
閑話ですが、読者として本編の真相への考察に使ってください。
正直読み飛ばしてもらって構いません。
彼の視点の話はこれっきりですので。
なお、若干エグい内容です。
「はぁ……はぁッ……
クソ!!サツどもめ!!」
「待てええ!!どこいった!?」
せっかくテロを決行したのに、なんだかわけのわからねぇガキに計画全部ボコボコにされて、いよいよ俺だけになっちまった……。
今も後ろで警察が俺を探している!
あの体育館ですぐに逃げた俺だけが運よく無事だった!
あの教室でガキを取り逃した時から俺らの計画は一気に転落した!!
くそ!金に釣られてこんな仕事受けるんじゃなかった!!
暗い夜道。
住宅街の堀を背にして、動向を探る。
何かを思い出すような光景だ……。
「見つけたぞ!!」
「クソがよ!!」
さっきまでガキ相手に銃を突き付けていた自分が、今度はサツに銃を突きつけられるなんてな……。
数は10人以上……全員武装済み……。
昔もこんなことあったなぁ……いつだったかは忘れたけど。
「両手をあげて、おとなしく投降しろ!!
すでにお前だけだ!!」
「くそが……政府の犬どもめ……。」
「早くしないと発砲するぞ!!」
ここまでか……。
またこんなことになったんだな……。
俺は思わず視線を落とす。
俺の人生はいつもこうだ。
「ん?」
「なんだこれ?」
その時だ、俺と警察はほぼ同時にあるものに気が付く。
それは俺が背にしている住宅街の堀。
そこに書いてある『何か赤いもの』と『大量の何か』だ。
もう夜も暗い。
それが何かはわからない。
落書き……なのだろうけど。
『鼻』で感じてしまう。
嗅覚が感じ取る。
『血』のにおい。
それも一人や二人なんてもんじゃねぇ『大量の人間』の『血のにおい』だ。
ただの落書きから、この俺が鼻を抑えたくなる量の『人の死』を感じる。
いつか嗅いだことのある本物の大量の死のにおいだ……。
「なんだこいつは……。」
警官がライトで照らす。
書かれている落書きは文字……『Catc……』とか書かれている。
明かりが照らされているのはこの部分だけだ。
だがその文字の下に何かが落ちている……。
「あ……。」
「うわああああッ……!!」
「なんだよこれ……。」
頭だ……人の頭だ……。
大勢の人の頭が転がっている。
「あれ?この頭の髪色……あれ?」
「ちょっと待って……な、なんで……。」
「この人は?あれ?じゃあ??……え?」
「そういえばさっきから……。」
なんだ?サツ共が何かに困惑しているぞ?
俺は動けば撃たれるだろうから、あまりそれを凝視できない……。
「こんばんは!」
「誰だ!?」
落書きの文字の奥の方から人が来る。
どう見てもただの子供だ。
男か女かはいまいち判別しづらいくらいの本当に幼い子供だ。
「君!!危ないから離れなさい!!」
「危なくないよ。」
「いいから!!」
そりゃテロリストである俺、警官隊と武装した大人たちがこうやってひと悶着していて、さらに壁にはなぜか人間の頭があるもんな。
だが、なんでこんな夜中にガキがうろついているんだ?
保護者は何してるんだ!?
「いいからそこの君!離れなさいッ!!」
「おっおー!
残念だけど、この道は通り道なんだ。
私のプレゼントの受取人と、君たちの『無限の忘却と死への通り道』なんだ。」
「……へ?」
何を言っている?
この子供……あれ?子供ってこんなに声が低い生き物だったか?
そういえばこの光景なんだか見た気がする。
あれ?さっきから同じようなことを思い出すのは……あれ?
「おうおー。気づいてない?
文字を見たのに?何度も経験しても学ばない?
そりゃ素晴らしい!だから君たちは捕まえられないんだ。」
何を言っている?何を言っている?何を言っている?
「あはは。いつも通りだな!」
計画を無茶苦茶にしたあのガキの声だ。
見ず知らずのガキからなぜこの声がする?
何を忘れている?あれ?何かを忘れている?何か忘れている?
「ッ?
なんだ?この感覚は……??」
「おうお~。私はね、ただ喋っているに過ぎないんだよ。
君たちさっきから何を慌てているんだい?」
あの磁力ロボットの声だ。
何かを忘れるべきだった?あれ?デジャブを感じる。
さっきした気がする。
「まぁいいや、私は早く『二代目』に就任祝いの『お酒』を届けなくちゃならないんだ。
素晴らしく甘美な罪である私を継ぐものに。」
標的の堀岡の声だ!!
なのにあいつ……いや、アレの姿は子供のままだ!!
なんなんだ!?なんなんだッ!!
「私を目に映すお前らが真実とは限らない。
まやかしと決めつけたそいつは本当のことを言っているのだろうか?
そもそも真実のありかを探しているものは本心から真実を欲していると言えるのか?
そして『すべてを知ったもの』も裏で糸を引いていたはずの『その人』でさえ、真実とは限らない。」
この会話もアレと出会うのも、サツに追いかけまわされるのも、壁の文字を見るのも、大量の頭が転がっているのを見るのも、この感覚自体が1、2回じゃない!!
何回もしたことがある!!
俺は、いやサツも含めて知っている!!
何度も体験している!!
「お前は……お前は何者だ!!」
俺は思わず叫ぶ、するとアレは小さな手で指を壁の文字を指し示す。
「最初から名乗ってるじゃないか。
我が名は『第Ⅸ大罪_虚飾』こと、またの名を……。」
警官たちがすべての文字を照らす。
そこに照らされた文字、それは……犯罪界で一番の嘘つきの名前。
こいつは人災ではない。
歩く災害。
出くわした俺達は恐らく運がない。
嘘をつくために人をおもちゃを壊すように殺害し、国を転覆することもいとわない。
ただ通り過ぎるだけで大勢の命を奪うハリケーンや台風と同じ。
目的があろうがなかろうが、現れただけで絶望の一色に染め上げる大罪の保有者。
名乗った時点でその大勢が『すでに死んでいることを自覚する』という都市伝説クラスの『詐欺師』。
「C,M,I,Y,C……
私こそ『Catch Me If You Can!!』という者だ。
……『できるもんなら捕まえてみろ!!』って意味だよ。
Wohoh! Welcome to The top confidenceman world.」
警官が照らす文字。奴の名前。
そのちょうど、hとMの間らへんに見知った頭が転がっていた。
――――俺の頭だ。
血の気が無く青白い顔をして白目をむき、首から下が無い。
――――俺はすでに死んでいたようだ。
今のこれは幽霊として俺が、『この詐欺師に見せられている嘘の光景』なんだ。
あ
……ぁ
ァあ、真実を自覚してしまった……。
死んでたんだ。殺されてたんだ。
銃を向けた警官も俺も、この『詐欺師』に殺されていたんだ。
俺達は死んでまで嘘を信じ続けていたんだ。
「「「うわああああああああああああああああああ!!」」」
何度もッ!何度もぉおッ!!
「あはっははははひゃっははははゃはひゃひゃああはははは!!
おおおぉおっおー!!
何も信じられなくなりなよぉー!!
半端な悪党も!善良ぶった善意も!すべては『虚飾』に埋もれて絶望する!
安心しなよ!ニュースなんて載るわけないから!お前たちは死んだことすら!
否!
産まれてきたことすら誰も知らないよ!
家族や恋人誰であろうと真実なんて嘘で覆われて見るわけがないんだよォ!!
私はねェ!物事の嘘に、敗北したお前達のその顔が大好きなんだ!!
いつもいつもいつもいつもいつ見てもいい気分だァアアアねええぇッ!」
指を指すな!!嘘をつくな!!嘲笑するなああああああァァ!!
やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろおおォォォ!!
騙すな騙すな騙すな騙すな騙すな騙すな騙すな!!
死んでまで自分を偽られたくない!!
騙されたくない!!
命の尊厳を虚飾に変えられたくない!!
こんなのは嘘だ!!
嘘なんだあああぁ!!
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だああああああ!!
「嘘だよ嘘だよ嘘だよ嘘だよ嘘だよ嘘だよおおおおお!!
ほら!死んだことを自覚したら、また死に続ける無限の不幸に戻ろうねぇー!
ずぅーーっと……!!」
そう言いながら虚飾の詐欺師は俺と警官の間をスルりと通り抜ける。
「あ」
そのわずかな一瞬で、またこの場にいる全員の体がバラ バ ラに され る 。
ま た、 死 ぬ 。
いや、最初からこうだったんだ。見てた光景は全部嘘だった。
そしてまた嘘に浸るだろう。
この記憶にしがみつき、嘘に酔うんだ。
頭だけになった俺は目を動かし、嘘つきを見る。
きっと今見ているこいつも『俺の記憶』だ。
嘘を見る前の、最後の真実の記憶だ。
いや…………きっと、それさえも嘘なのだろうけど。
「ふふ。
さて、『二代目』にこのお酒を送らなきゃ!
非常に面白い『偽りまみれの予言ゲームの首謀者』である、我が『後継者』。
二代目、虚飾の大罪人へ。
真実を侮辱し、馬鹿なコマを操る愛おしいゲームマスターへ。
労いとして送るにふさわしい『シャンパン』を……。
素晴らしき悪意に期待してね。」
アレが俺らへと振り返る。また騙される……。
「それじゃあ、ごきげんよう通行人諸君。
できるもんなら捕まえてみろ!!
さようならだ馬鹿ども!!はははは!!」
アレが指パッチンをして視界が闇に覆わ
▽ ▽ ▽
「はぁ……はぁッ……
クソ!!サツどもめ!!」
「待てええ!!どこいった!?」
せっかくテロを決行したのに、なんだかわけのわからねぇガキに計画全部ボコボコにされて、いよいよ俺だけになっちまった……。
今も後ろで警察が俺を探している!
あの体育館ですぐに逃げた俺だけが運よく無事だった!
あの教室でガキを取り逃した時から俺らの計画は一気に転落した!!
くそ!金に釣られてこんな仕事受けるんじゃなかった!!
暗い夜道。
住宅街の堀を背にして、動向を探る。
何かを思い出すような光景だ……。
虚飾「しっかし、あのゲームの『コマ達』は本当に『真実』に近づいている気でもあるのかねェーー?
二代目はこの私よりも『ある意味、邪悪』と言っていいし、ま、コマ共の滑稽な姿を見るのが素晴らしく楽しみだ。
もっと美しく素晴らしい嘲笑を……!!」




