第3ゲーム『一人の無限落下』
別行動開始からわずか2分30秒後…。
僕は緑のフラッグに何とか近づくことに奇跡的に成功していた。
それも気味が悪いくらいに…。
岩場に隠れつつ、忍者の隠れ蓑の術みたいに岩にそっくりな布をかぶり匍匐前進しつつ何とか近づけたのだ。
はっきり言うとVRゲーム…つまり現実の肉体を使うゲームなので、もうそろそろ腕がつりそうだ…。
僕はフラッグの位置を単眼鏡で確認し、ついでに前線のほうも見てみる。
クロスはうまくやっているのだろうか…?と少し懸念していたのだ。
『オト!緊急事態発生!!』
「どうしたミカ!?」
ミカの慌てたような声だ。何かあったに違いない!
『クロス、ガン無視されて私達の拠点に両方のチームが向かってる!』
「なんだって!?」
…大変だ……!
しまった…完全に裏目に出た!心理戦…頭脳戦で負けてる…。
クロスが漁夫の利狙いで、ちょっかいをかけたことにより両方のチームを結託させてしまった!
僕のせいだ……。あの時止めておけばよかった。
「クロスは!?メノは!?」
『HP残量が二人とも、回復アイテムとスキルを使い切っていてわずか1分で6割をきってる!
クロスは、後ろから赤!前に緑!
敵に板挟み状態で赤から攻撃されてなんとか避けているけど、爆風ダメージを受けまくってる!
メノは拠点の少し前で、緑の砲弾の雨あられ!盾を構えつつ弓で攻撃しているけど攻撃は通らない!
まさに総力戦だよ!!』
――……想像以上に敵の火力強すぎじゃない!?
この戦闘フィールドである『フロント』は上から見ると正三角形状だ。
そして今回は空中という環境のせいで遮蔽物がほぼない!
相手の攻撃力が直に受けるんだ……。
そこに上位2クラン分の電撃作戦そしてありったけの火力を叩き込む容赦のない総攻撃!
『やばい!メノがそろそろ限界!!もう無理なの~!って叫んでる!盾が溶けてるし!
私も全力で大砲ボタン連打してるけど弾数が足りな……
ア”アアッッ!!大砲が全部潰されたァ!!』
四の五の言ってられない!状況は刻一刻と悪くなる一方だ!
こうなったらクロスの元へ移動するしかない!
板挟み状態のクロスは今、拠点を攻撃している緑の背後から攻撃を受けている!
クロスの体力を回復させつつ、後ろから緑へと攻撃スキルを撃ちこみまくって、緑の攻撃を拠点から僕らへと誘導させて持ちこたえるしかない!
凧に乗りアイテムスロットから『移動君ゼロ式』を使用する!
僕の目の前に光が広がっていき、攻撃スキルを撃ちこむ準備をする。
「クロス行くぞ!『移動君ゼロ式』起動!!」
『待って!!オトッ!今クロスが撃墜され…。』
▽ ▽ ▽
「……え?」
――それは一瞬の出来事すぎて、何が起こったのか本当にわからなかった…。
まず、気づいたのは視界に広がる空の景色が上へと昇っていること。
つまり落下しているってことだ。
次に気づいたのはハンドデバイスから送られている、グライダーを持つ感触が消えたこと。
何故なんだ?と考えていると思えば、さっき拠点で自分が言ってた言葉を思い出す。
『あとレアな道具としては、仲間の元にプレイヤーをノータイムで移動できる『移動君ゼロ式』』
これは『移動君ゼロ式』を説明するフレーバーテキストに書いてあった言葉だったんだが…。
ここで注目してほしいのは『プレイヤーをノータイムで移動』という点だ。
つまりプレイヤー以外の凧や砦、フラッグと言った建物や乗り物、アイテムなどは移動不可能って仕様だったんだ。
なにが言いたいかというと乗り物として、分類されていた僕の凧はこのアイテムで転送されていなかったんだ。
第三に気づいたのは…。
肝心のクロスがどこにもいない…。
クロスのもとにノータイムで瞬間移動したはずなのに。
クロスはどこにもいない…。そういえば瞬間移動した際にミカが『クロスが撃墜された』って言ってたような気がする…。
つまりあいつはゲームオーバーになってフロントから退場ってオチの可能性が高い。
そして……最後に気づいた、いや理解してしまったのは……。
どうやら『バグった』らしい…。
なぜなら……上をちょっと見てみると、そこには明らかに落下し続けた結果、落下死で退場する判定のゾーンが真上へと遠ざかっていっているのだ。
先ほどまで戦っていたフロントが小さくなっていき、ゲームのテクスチャの裏側が見え始めていってる。
僕はこう考えている間も、ずっと落下し続けているのだ。
おそらくクロスが撃墜された際、落下死判定されるその場所。
ちょうどその場所に『移動君ゼロ式』でノータイムで移動してしまったせいで落下死判定を免れてしまい、そのまま落下しているんだろう…。
ミカとも通信が取れないし…。フラッグが破壊されていたとしてもなぜか敗北判定が表示されてない…。僕は運悪くバグったらしい。だがそんな状況とは裏腹に…。
――ゲームの裏側ってこうなってるんだ……。
……と、まぁ珍しい体験なので、こうやってのんきに無限落下を体験しているわけだが…。
上で赤と緑の砲撃の閃光のきらめきが遠ざかっていく…。
下を見てみると無限の闇が広がっていた。
ゲームで楽しんでいる僕らの真下には闇が広がっている…。
勝負にはたぶん負けちゃっているけど、この異様な光景に少しワクワクしている自分がいる。
負けたのは悔しいが最後に少しいいものが見れた気がする。あとでみんなに自慢しよう。
――運営にバグの報告しておくか…。
僕はコンソールを表示してアカウント画面から『バグの報告』をタップしようとする。
最後にこの高性能ゲームで珍しいバグを目に焼き付けておこうとあたりを見渡す。
上には1.5キロの正三角形の僕らの戦場、フロントが見える。
僕のいる左右にはすでに空の背景はなく漆黒の闇だ。
下にも同よ…う……??
――なん…だ?あれ……?
僕が無限落下しながら真下にいたものを目撃した…。
それは一人の女性と一人の妖精と『とても優雅なティータイム』だった。
――僕の瞳に映るこれは何だ??
落下しているからか…?近づいている?
僕は好奇心からか、バグの報告画面を閉じる。
落下中に見たそれは、カフェとかに置いてあるような、おしゃれな白い丸いテーブルと座り心地のよさそうな赤いクッションのおしゃれな椅子が二つ。
ティーポッドには暖かそうなお茶でも入っているのか熱そうに湯気が立ち込めており、カップは三つ。
ちゃんと砂糖を入れる容器や映画で見るようなケーキスタンドも備え付けられており、ケーキスタンドには色とりどりなマカロンが置いてありおいしそうだ。
そのどれも高給そうな茶器を片手にしているのは白いドレスに、白い魔女の帽子をかぶった大人の女性が優雅に椅子に座っていた。
その女性の周りをおとぎ話で聞かされるような羽の生えた妖精……青い服を着た黒髪ロングヘアーのピクシーが青い光を発光させながら飛んでいた。
そして僕の落下は緩やかに終わっていき、そこのすぐそばにすんなりと着地する。
「……。」
なんだ?この真っ暗な空間で行われている華やかなお茶会は…。
僕は白い魔女帽の女性の頭上を見る。僕らのようなプレイヤーだったら名前が表示されるはずだが…。
彼女たちは名前が表示されておらずNPC、ノンプレイヤーキャラクター。
つまりはゲーム側のキャラで実在していないということが分かった。
「ようやく来たか…。」
「……。」
「座れよ。少年。お前はフロントから落ちてきたのだろう?
わずか数ピクセルの隙間を縫ってな。」
「……え。」
「相当焦っているようだな、えーっと名前は……オトというのか…。
プレイヤーであるお前にはあくまで雰囲気だけだが紅茶はいいかがな?」
「……。」
こういうゲームものの小説とかでは、まれに『NPC』が実在の人物並みの思考をしたりするっていうのがありがちだが…。
フロントライゲーム・オンラインというゲームにおいて…それはありえないんだ。
僕らの世界の技術は人と同レベルの判断能力や感情をゲームに組み込むまでは至らなかったんだ。
NPCたちはせいぜい同じ設定されたセリフを言うだけだ。
NPCたちの武器屋にどれだけ愛想よくしても、通りがかりの和気あいあいとしている親子も毎日決まった時刻に同じことを言うだけだ。
――脳裏に一瞬、さっきの失踪事件のことがよぎる。
だが今、僕を値踏みしているこのNPC?は明らかにおかしい。
僕の瞳を見つめ、僕を観察し、さらにはさっきゲームのデータを構成するデータである『ピクセル』という発言…。
ゲーム側の登場人物として雰囲気をぶち壊すような、『プレイヤー』という言葉。
――なんだ…こいつは……。
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この物語の『更新』は初日の3部、1月2日第4ゲーム、1月3日第5ゲームを除いて基本『毎週金、土、日』に各曜日1部ずつとなります。
次の更新は1月2日午前8時頃にあります!
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~FrG豆知識のコーナー~
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ミカ「このゲーム、プレイヤーの人数に対してバグの報告が結構少ないことが有名だよね?」
オト「修正されたけど……一時期『ジャガイモのみ無限増殖バグ』くらいしかこのゲーム、バグなかったし…。」
ミカ「思い出した~。アイテム欄の左端→倉庫→調理場へジャガイモを移していくとなぜか増えたんだよね。」