第1ゲーム『四人のゲーマー』
――フロントライゲーム・オンライン
2025年より本格リリースされた『VRアクションMMORPG』だ。
頭に装着する超高度な表情センサーが付いた特殊な次世代式ヘッドマウントディスプレイ、通称『N.HMD』と、手袋型のコントローラーの『ハンドデバイス』をつけて遊ぶ人気オンラインゲームだ。
まだ近未来小説でよく見る脳を電子化するフルダイブってやつではないが、程々の空間があればずっと遊べるVRゲームの極致と言っていいゲームだ。
このゲームは天空に浮いた三つの超巨大な柱でできた三つの国家と、その中央に『フロント』と呼ばれる毎日ランダムで環境が変化する正三角形状の戦闘フィールドが舞台だ。
プレイヤーはそれぞれ赤、青、緑のいずれかの柱国に属して、4VS4VS4の国家ごとのチームに分かれて様々な環境のフロントで戦闘を行う。
プレイヤーは敵チームのフラッグを破壊するか、他チームのメンバーをすべて撃破した時点で戦闘に勝利となる。非常にシンプルなルールだが、フロント内に持ちこめるアイテムの量や技術力の差などが『属している国家』ごとに違うのだ。
王様などの指導者や統治方法はプレイヤーにゆだねられており。
属している国家を成長させるためには、勝つしかない。
そのために新たなアイテムを作るため技術を磨くものや、よりその国家に属したくなるように芸術を磨くものなどが現れ始めていき、このゲームはオンラインゲーム至上最高売り上げの超人気ゲームと呼ばれるようになったらしい。
――僕もその人気にあやかって始めてしまったプレイヤーの一人でもある。
▽ ▽ ▽
――2027年・6月初旬
青の柱国『ホリゾン』、ここが僕の所属する国だ。
街より大きい巨大な柱の外壁から大きな滝が流れており、柱と言っても壁面は多少凹凸があり、白い石造りの家々が柱の壁面にふじつぼのようにくっついている。
ここは水の国家として認知されてフロントでの戦闘で水場のフィールドで強いとされている。
僕ははしごを下り、小川の上にちょこんと乗っかった小さな橋を渡る。
ふらっと横を見ると、今日も青空と白い雲だ。
僕はいつも通り空を歩く気分で小道を進んでいく。
進んでいくと小さな扉がある。
柱をくりぬいてできた僕らの拠点のシラカバの木の扉だ。
僕は扉を開き、その中へと入る。中にいたのは3人。
「おそいぞー!オト!」
豪快で、荒々しい戦闘バカ
リーゼントに学ラン服の大柄の男『クロス』が足を机に乗せ笑う。
「いいことでもあったの?」
少し気弱そうな黄緑色のフードをかぶった不思議な雰囲気をした『メノ』が作業台から顔をのぞかせる。
「待ってたよ!オト。」
元気はつらつな軽快な口調で、黒い長髪の赤いズボンを履いた女性が『ミカ』。
「ごめん!待たせたね!」
そして青い帽子をかぶった僕の名前は『オト』。
僕らはこの『フロントライゲーム・オンライン』の少数の下よりの中堅グループ、クラン『荒波の家』。
クランってのは、このゲームでの固定チームだ。最大150名まで登録できる。
僕らはたった6人のクランで、俗にいうエンジョイ勢ってやつだ。
今、この場には4人しかいないようだ。
このクランはあまり遊んでないと言ったら嘘になるが、ランキングとか大会だとあまり成績は振るわない。
それでも楽しみつくしているって感じで遊んでいる。
今は名前だけでも軽く覚えてもらってほしい。
そしてここは僕らの拠点だ。まぁ勝率がそこそこな少数クランなんで、利便性よりも雰囲気を重視している。
柱の側面をくりぬきシラカバを重視した木組みの家だ。
家具には薄い素材の青色のカーテン、丸太の机、丸太の椅子が四つ。(お客様用にあと二つ予備がある。)
奥にはアイテム倉庫があるし、入り口付近に作業台や本棚も備え付けてある。
ちなみにこの拠点は賃貸だ。
「で、オト何買ってきたんだ?今日の試合に関することか?」
クロスがそう言いだすや否や机から身を乗り出す。一応いっておくと、こいつは試合バカだ。
まぁ、ここでじらすのもなんだし僕は、コンソールを操作しアイテムボックスから今日の買い出しの結果を取り出す。
「うーーーん、今回は特に便利な道具は買ってないんだよね。
この前消費した滞空用アイテム数セットと、あとメノが前々から欲しいって言ってたそこに置く雑貨棚。
速度上昇系のバフアイテム数種類と……。
あとレアな道具としては、仲間の元にプレイヤーをノータイムで移動できる『移動君ゼロ式』
そしてコレくらいだな…。」
僕は最後に一つの日記のような道具を広げる。
「何これ?……ああ!コレって『日記小説』じゃ~ん!」
ミカは本をとって喜々と喜ぶ。
この道具は『日記小説』って言って、プレイヤーの戦闘ログや日記として箇条書きにまとめたものを小説にしてくれるものだ。
また戦闘だけじゃなく日常で起きたことや些細な表情の変化から、このアイテムは自動執筆してくれて、これを使って小説の新人賞に受かった作家もいるほどホリゾンで最もメジャーなアイテムだ。
ちなみに読める人間を制限できる暗証番号機能もついているからプライバシーも大丈夫!
僕はこれを使って少しだけ世間に、僕らの活動を残したいと思ってこれを買ってきたのだ。
――…まぁ、これを読んでいる君が見ているコレがまさしく『日記小説』から作られたもののはずだ。
「前々からオトは小説書いてみたいって言ってたもんね~。」
「うっさいな~。僕だって何かに挑戦してみたいんだよ~!」
ミカはリアルでの僕の割とすぐ近くにいる。
こういう意地汚い笑みを浮かべた感じで、いじってくるのはある意味仕方がない…。
なお、ここにいるメンツは全員リアルでの知り合いだ…。
全員偶然ゲーマーで意気投合して、全員同じ日にログインした関係の遊び相手たちだ。
「それよりもオト君、早速雑貨棚貰うね?」
「ああ。」
メノは早速部屋のコーディネートをし始めている。
この拠点はすべて彼女のレイアウトだ。
センスが非常にいい。
僕が座っているこのソファもメノのセンスだ。
現実の配置と同じ位置に椅子を置いてくれている。
まぁ現実だとただの学習机に備え付けられた椅子なんだけどね。
僕は椅子に座りながらウィンドウを動かし日課のニュースやら掲示板を見る。
運営の情報を確認するのはゲーマーとして当然だろ?
まぁ、僕以外のメンバーはあまり気にしないけどね……。
目でトピックを追いかける。
「…………更新があるのか……。」
前々からうわさになっていた新Verの更新情報……。
リークだとやばいらしいので僕は少し期待している。
他のニュース……。
『赤の柱国の勢いが増している。』
『緑の暗躍とスパイに注意。』
『有名クランのプロパガンダ疑惑。』
まぁ……いつものことだな。
掲示板をスクロールしていくと、最近よく見る言葉が2,3ある。
「……うわ、またこのニュースか……。」
『都市伝説!噂の失踪事件について調べてみた。』
『ゲーマー連続失踪事件について。』
最近、この類のうわさをよく耳にする。
ゲームをしていたら人が物理的に消えると言われている噂話だ。
眉唾だが、こういうのが最近流行っているらしい。
だが、あくまで噂であり、賑やかしや噂の域を出ず。
被害者も目撃者の話も聞いたことがない。
結論としてこれらは都市伝説とされている。
僕はさらっと見出しだけ見てスクロールする。
「お、報酬二倍期間あるって。」
「いいね!ぜひインしておきたい!」
ああいう都市伝説よりこっちの方が楽しみだ。
「よし盛り上がっているなら!次の試合だ!!さっきすごいことがあってな!
なんと赤の柱国『クリムゾン』の名クラン『テスラレッド』と緑の柱国『アイビー』の強豪クラン『ヴァルカン』の二つとたまたま試合予約したんだよ!!」
「ッ!?」
僕は唐突に吹き出しそうになる。
このゲームはメインである戦闘をするのに試合予約が必要になる。
あらかじめ準備しておいて、ノータイムで試合予約することもできるが、中には試合予約してから数十分間の準備時間を経てから試合をする場合もある。今回の場合は後者だ。
基本的にはフレンド登録などや相手を指名でもしない限り、対戦相手はランダムだ。
だが、クロスはランダムで名門と呼ばれる相手を両方とも引きやがった!
――こんなの無いよ~…
そう思う、僕の中の情緒がどうにかなりそうだ……。
先ほども言ったが僕らは中堅だ……まず勝てない…。
「赤の柱国『クリムゾン』の『テスラレッド』……たしか、『ゲンジョー』っていう巨漢が指揮する重火器にものを言わせるクランね?メノは少し不安なの。」
メノは勝てないと思っているのか雑貨棚をいじくりつつ淡々と答える。
「緑の柱国『アイビー』の『ヴァルカン』は、『ヴォイジー』っていうゲーム実況者が所属しているクランだったはず…。常に戦術を変えてきて底が見えない不気味な所だよね!」
あーミカが学校で見せてきたあの実況者のところか…。
つか、無駄にテンション高く説明するな…。
「とりあえずみんな!準備準備!」
焦っている僕を横目に、クロスが大剣をアイテムボックスから取り出す。
「お前以外はもうした。対戦場所は空中飛び石ステージこと、魔法石の空域だ。」
買い物に行っている間に、ほかの三人は終わっていたらしい。
ならばと僕も奥の倉庫まで向かい、僕らの中で最もいい空中戦用装備セットを取り出し装備する。
三つしか選べない技をササっと選択し、準備を万全にする。
そして拠点にある戦闘参加用のタッチパネルを操作し、僕も試合にエントリーする。
見れば条件が整ったのか10秒後には試合開始だ…。
『開始まで10…9…。』
と機械的なシステム音声とともに画面内にカウントダウンが始まる。
『4…3…。』
「みんな!相手は強敵、気合い出していくぞ!」
「おーぅ!」
「うん!」
「やろーう!」
全員で円陣を組む。ここで勝てば僕らのクランどころか、所属している国ホリゾンが大いに盛り上がる!
そうなったらますます文明やいろんなものが便利になるし、なによりいい気分だ!
『2…1…0…GAME_START。』
僕らは気合を入れて偶然強豪と戦うことになったこの試合を心底楽しむと息巻いていた。
この勝負、僕らは負けたくない。いくら強豪だから負け戦ムードだとおそらくゲーマーとして後悔する。
ゲーマーなら強敵に挑んでなんぼなもんだ!ということを僕ら4人はわかっている。
闘いは非常なものだ。でも、もしかしたらがあるかもしれない。だから工夫を凝らす。
――だからこそ心底ワクワクするんだよ。僕らは強敵との対決に!
そう思い僕らは志を一つにし戦闘フィールド・フロントへと転送される。
▼ ▼ ▼
あれから時は流れて…。
僕はあの先の出来事を、一生をかけて後悔する。
そして人生で最も大切な時が始まった。そう、今になって思う。
ここから書物につづられていく、奇々怪々な未来……。
アレが現実とゲームの、二つを揺るがす『ある事件』の入り口だった。
僕らにすでに賽は投げられていた。
そして今の僕はその事件の結末にいる…。
「さすがは【ラプラスの悪魔】だ。だが、奇跡はそれまでだ。」
「追い詰めたぞ■■■■……。ようやく、ここまで……。」
僕はあまりにも多くの犠牲者を出した■■■■と玉座をにらむ。これで決まる。
このラスボスで…決着だ…。取り返すぞ……全員を……。これはそういう弔い合戦だ。
この運命中枢でラスボスとの、このゲームにすべてがかかっている。
これは【予言書に導かれし物語】。
運命をリアルとゲームを行き交い、悲劇を止める僕らの物語。
これに勝てば未来が手に入り、負ければ死と絶望が待っている。
フロントライゲーム。それは予言に抗うゲーム。
その真実、あの時の始まりこそ今の僕がここにいる必然だとは、気づきもしないだろう。
――それこそが奇跡というものなのだから。
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ネタバレなどは書かないでくださいね。
※ども、ラクルドゥです。
この物語はゲーム/現実をだいたい4:6のバランスで進めていくサスペンス的な物語です。
実は前作と同じ世界ですが、はっきり言ってしまえば前作は読まなくていいです。
読んだらそりゃ楽しめますが、読まないほうが新鮮でいいと思います。
時間がある時にじっくり読んでもらえるととてもうれしいです。
なお、前作同様に後書きにミニコーナーがあります。
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~FrG豆知識のコーナー~
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オト「フロントライゲーム・オンラインの略称は『FrG』って呼ばれていて、その綴りから『Frog』と呼ばれることもあるんだ。」
クロス「このゲームをやりつくしている、ネトゲ廃人や引退プレイヤーほど『実家に帰る』とか、たまに聞くな!」
オト「まぁすでに名前が一人ありきしてミームみたいになってるけどね。」