第五話 娘の父親
あの日から、ナンシーの態度は目で見てもすぐに判るように変わってしまった。
俺的には、あの辺な目で見られることがなくなったから嬉しいんだけど、ちょっと態度がよそよそしくてなんだか少し寂しい。
今日は、父親が帰ってくる日だ。俺の父は、この国の貴族なだけあってとても聞き上手だし、アドバイスもうまい。早速相談してみようと思って、父の部屋へといった。
うっ、やっぱり父親の部屋の前は、他の部屋となんか空気が違うな。少し怯んだが、気を取り直して扉をノックする。
「お父さま、エイリスですわ。相談したいことがあるので、入ってもよろしいでしょうか?」
ふっ、もう自分の名前を言うときにあるあの違和感は無くなったぜ。まだ、お嬢様口調とやらになれないけど、それも時間の問題だろう。
と、俺が自分を見つめていると、扉の中から
「エイリスちゃんか?よいぞ、入ってきて。」
と、字面では伺えないが実際は嬉々とした俺の親父の声が返ってきた。これを、普段のオヤジを知っている人が見たら飛び上がるんじゃないか?
俺の親父は貴族なので、それはそれはもう威厳のある方だ。
しかし、娘である俺の前ではこんな甘っちょろい声を出しやがる。
そう。我が父、エドルス・オルタカ=エイは、親バカなのだ!
———エドルス視点————————————
は、初めて娘であるエイリスが自分から私の部屋をたたいてきた。初めてだったのであまりにもびっくりしすぎて、思考が追いつかなかったぐらいだ。なんとか、冷静さを取り戻し返事する。
「エイリスちゃんか?よいぞ、入ってきて。」
娘であるエイリスが私に求めるものはなんだろう?それを私は何度も苦難した。貴族相手でも、ここまで苦難することはない。それほど、子供は特別なのだ。
いま、私の頭には目指すべき父親像が二つある。
一つは、威厳のある父親。
もう一つは、友好的な父親。
さっきの返事ではどちらで行こうか迷ってしまいまい、字面では厳格。声は友好的という気持ち悪いシンフォニーを奏でてしまった。
今回は、エイリスの話す内容によりどちらの父親像でいこうか決めようと思う。
私の目の前に、どこか暗い顔のエイリスが座っている。だ、誰なのだ。あの、いつも楽しそうにしていた娘にこんな顔をさせやがったのは?(怒)
顔を少し赤くしていると、エイリスが口を開いた。
「な、ナンシーが」
その言葉を遮る。
「なに、ナンシーがお前に何かしたのか?アイツは首だ首‼︎」
私の頭の中にはもはや、目指す父親像などない。もう、今は完全な親バカモードだ。
私の言葉を聞き、エイリスが少し驚いた様子で
「違うの。お父さま。確かにナンシーのことで悩んでいるけど首にはさせないわ。」
そ、そうなのか。
では、どうしてナンシーで悩んでいるのか?
そう思っていると、エイリスが口を開き最近にできた出来事を喋り始めた。
うぅむ。難しい。ぶっちゃけ親の目からしてみると娘をそんな目で見ては欲しくない。しかし、娘はナンシーを頼っている。
さぁ、どうしたらよいか?
「お前はナンシーとどうしたい?」
私がそう聞くと、少し淀みができた。まえをむくと、エイリスが顔を歪ませている。それほどに悩んでいるのか。しかし、話を聞いている時に親バカモードは終わった。
私の中には、また理想の父親像が作り返された。
今は、娘の成長が大事なので最低限のフォローで済ましたい。
エイリスは悩んでどんな答えを出すのだろう?