9
自炊と思ってふと思い浮かんだのが、宿屋と家を借りるのは、どっちが得なんだろう?という事だった。
宿屋にいたって、別に掃除や洗濯をしてくれる訳じゃない。有料ならしてくれるようだけど、そしたら宿泊代に上乗せだ。
宿屋じゃ自炊もできないしな。
「マックス、宿屋暮らしと家を借りるのとじゃ、どっちのほうが安上がりだ?」
「一人なら、食事や掃除(有料)などの手間を考えると宿屋の方がいいと思いますが、二人以上なら家にもよりますが、家を借りた方が安くあがると思います」
やっぱそうか。
剣を持って出てきたマックスと連れだって歩く。
「マックスは家事できる?」
「子供の頃に掃除や洗濯の手伝いをさせられたので、できると思います。料理は野営でしかした事がありません」
「料理は俺がするよ。じゃあ家を借りないか? 宿の飯は…、言っちゃ悪いけどあまり口に合わないんだよ」
「ヨシトさんがそう言うなら」
男二人のシェアハウス。
流行りのBLに間違われないだろうな…。
うん、考えたら負けだ。(何に?)
美味い飯と、金貨千枚貯めるためだ!
という訳で、次の日は家を借りて引っ越した。
引っ越しといっても荷物がある訳じゃないし、身一つで移っただけだけどね。
借家は居ぬきで家具は揃っている。
引っ越し業者なんていないから、屋移りは身一つが標準のようだ。
私物は持って行くだろうけど。
この家、何がいいって風呂付きな事だ。トイレもついている。庶民の家でこれはない。
引越し先は、没落した金持ちの邸宅だった。
訳あり物件らしく家は売れず、ではと仲介業者は賃貸にした。
大きさに対して家賃は安いのに(金持ち比)やっぱり借り手はつかない。
安いといっても庶民には高い。当然借り手はつかない。
そうして何年も空き家だった今日、俺が借りたって訳だ。
家賃は高いけど、風呂なしと風呂あり、両方紹介されたら、こっちを選ばないではいられなかった。
節約するはずの借家暮らしだったのに……。
だけど現代日本人に風呂なしはなしだ。清潔魔法はあるけど、入浴する気持ちよさとは別物だからな。
契約をすますと、そのまま食料や消耗品なんかの買い物をする。
新居の掃除もする。使わない部屋は簡単に魔法ですませ、使う部屋は箒や雑巾を使ってしっかり掃除する。なんとなくね。
あー疲れた!
今日はもう遅くなったしすっごい疲れたから、買って来た物で夕食にしよう!
家賃は俺持ちという事にした。当然マックスは半分払うと言ったけど、マックスには金を貯める目的がある。
俺には今んとこ目標もないからなぁ…。
自分を買い戻したら折半しようと説得した。
拠点が定まったら心が落ち着いた。
明日からバリバリ働こう!主にマックスがだけど。
二日ぶりの風呂に入り、家を囲う石塀に二重に結界をかけて、安心して眠りについた。
翌朝はしっかり飯を作る。そのために家を借りたんだからな。
硬いパンは水魔法で霧吹きする。それからオーブン、はないから、窯で温める。この方法で驚くほど柔らかくなるんだぜ。元の世界でパンを硬くしちゃった時に検索した事があった。それを山盛りテーブルに出す。
目玉焼きも十個ほど、ウインナーも大量に焼いて出す。マックスの筋肉量なら、たくさんタンパク質がいるだろう。
炭水化物とタンパク質だけじゃいけない。レタスも大量にちぎる。トマトとキュウリもざく切りにする。
サラダとはいえないような簡単サラダだ。ドレッシングやマヨネーズなんかはないから、オリーブオイルに塩コショウを振りかけて終了。うちではよくこれで食べていた。
スープも作りたかったけど、朝は忙しい。これで勘弁してもらおう。水は飲み放題だからな。
「美味い」
マックスはそれだけ言うと、後はもう何も言わず豪快に食べている。
見ていて気持ちいいほどだ。どんどんなくなっていく。
現在十五歳の俺も育ち盛り、前の十五の頃のようにガツガツいかせてもらう。
もうちょっと背がほしい。せめて元と同じくらいは。
食欲旺盛な男二人の食事時間は短い。あっという間に食べ終わった。
残ったら昼の弁当用にと思っていたけど、まったく一つも残らなかったよ。
マックスがハッとした顔をする。
「すみません、あまりに美味くてすべて食べてしまいました」
「何で謝るの?食べていいもんしか出さないよ」
「しかし、このように大量の食糧は掛かりもかなりのものかと…」
「食べる事は身体の資本!食費でかかる以上稼げばいいんだ。気にするならマックス、今食べた分がんばれよ」
冗談めかして言ったのに
「はい!」
マックスは真面目な顔をして返事した。
冗談は通じないらしい。
やる気満々なマックスを見て、冗談を言う時は慎重にと思った。
さて、こんな事もあろうかと、一応昼飯の分は別に考えてある。
余分に作っておいても、アイテムボックスの中に入れておけばいいんだし。
俺がサンドイッチを作ってる間に、マックスが皿洗いをする。
家事分担は大事だ。地味に不満になってくるからな。