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出港までの二日間で、できるだけ大量の料理を作る。三ヶ月間、飯は自分待ちだ。
冒険者はお客様じゃなくて仕事で乗船するからな、陸路の時と同じシステムだ。
だけど三ヶ月だぜ?陸路のように、立ち寄る町で食料の補給ができる訳でもないのに厳しくないか?ずっと硬い携帯食は辛いだろうよ。
そういえば、船乗り病とかいわれていた…、正式名称は何ていったっけ?
ビタミン不足で、最悪死にも至るという怖い病気があったよな、と思い出す。
というわけで、大量のレモンとライムを搾って瓶詰めにしておく。
船の方で用意されていれば、こっちはそのまま保存しておけばいい。料理に使えるしね。
だけど新鮮な果物や野菜が、長い航海に足りるとは思えない。
あ、食料は自分持ちという事は、ビタミンも自分で用意しなくちゃならないか!
……これフラグだよな。
たぶん、船乗り病の対処法は知られてないんじゃないかと思う。
さらに果汁を用意して、準備万端!出港の日を迎えた。
おおぉぉぉ……
口を開けて、三本マストの大型帆船を見上げる。白い帆が秀麗だ。
なんというか、これぞ海の冒険!
◯◯王におれはなる!!とか言いたくなる。
やっぱ帆船は冒険少年にとって憧れだよ!
乗船するのは全員で四十人弱になる。船のオーナー(商人)とその従業員、船長含む船員、それと俺たち冒険者だ。
船のオーナーは俺たちの雇い主にもなる。
オーナーは俺たちに軽く挨拶をすると、それ以降はどこかに引きこもった。
オーナー室とかかな?ちょっと豪華な。
船員たちが忙しく働きだす。俺たちは甲板でいざという時に備える。
外海へ出るまでは海賊に、大海原では場所によっては海獣に警戒が必要なのだ。
俺ともう一人の風の魔法使いも、今のところ戦力側になる。いい感じの風が大きく帆を膨らませていて風魔法を使う必要がないからね。
さぁ!大海へ向け、冒険の始まりだ!
なんて思っていた時もありました…。
出港して三十分もたたないうちに、間近で帆船を見て大興奮!船に乗り込んで大興奮!船が動き出して大興奮! …していたテンションは鎮火した。
何故か?
盛大に船酔いしてしまったからだ。
そういや船って初めて乗ったわ。
俺は◯◯王になれない…。
船の揺れには全く慣れない。激しい嘔吐感で、吐いても吐いても(食事中の方すみません!)ずっと気持ちが悪い。脱水しちゃうよ、これ。死んじゃうかも。
ひどい船酔いに、自分へ回復魔法をかける。治ったところで、風魔法を使って強風を吹かせ、船をガンガン進ませる。
治した船酔いは、揺られているうちにまた気持ち悪くなる。そこでまた回復魔法をかける。そして強風を吹かす。これの繰り返しだ。
船員たちは、今までにないスピードで進む船に驚いて、それから喜んだ。
当たり前だけど、誰も酔わないのな。羨ましい。
回復魔法をかけた後、また気持ち悪くなるまでの間に飯を食べたりする。
いつも通り熱々で美味そうな(美味いけど)料理を見て、みんなざわつく。
船員は体力勝負だ。三ヶ月間三食分はないけど、一日一食は食べさせてあげよう。
ずっと携帯食じゃ気の毒だしな。
みんなからはものすごく感謝されたよ。
「この飯のためにがんばれる!」とか
「船上でこんな美味いもんが食えるなんて!」とか
そんなに喜んでもらえて嬉しいよ。美味いもんは活力になるもんな。
一食しか食べさせてやれなくて悪いね。
船員たちが美味いものを食べていると聞きつけたオーナーが、自分に三食提供しろと言ってきた。
なんで上から?当然断る。
あんたより働いてる船員の方に食べさせてやりたいわ。あんた働いてないじゃん。オーナーだから当たり前かもだけど。
怒ったオーナーが下船させるとかふざけた事を(島陰も見えない海の上だぜ?)言ったので、日割り計算をして報酬を請求してやった。
慌てたのはオーナー以外の全員だ。
「ヨシトがいなくなったら美味い飯が食えなくなる!」
「これ程の風を使える魔法使いを見た事がありません!」
「このままいけば大幅に航海を短くできます!」
「航海が短くなれば経費の削減になります!」
「危険も減ります!」
大騒ぎだ。
わ〜お。俺ってかなり貴重な存在じゃね?
オーナーはあっけなく下船を取り消した。
こんな海しかないところで下船しろとか、とんだパワハラヤローだけど、不公平はナンだからな。仕方ない、オーナーたちにもみんなと同じ、一日一食提供してやるか。
まぁ下船しても何の問題もなかったけどね。
船の材料になる木材はまだまだ大量にある。
剣や馬車を使ったように、船も作って風を吹かせばいい。
あ、帆になる布と航海士がいなかったわ!
やっぱ取り消してもらってよかった。




