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南大陸かぁ…。
売られてもやっぱ家族に会いたいもんなんだな。
それとも恋人とか? あ、マックスが売られた時はまだ十歳だったか。十歳で恋人はないか。
いや、獣人の生態はわからない。というか、異世界だしな。
いやいや、考えてみたら元の世界でも初恋なら年齢は関係ないか。
……初恋とか、三十のおっさんが気持ち悪いな。
「マックスは誰に一番会いたい?」
苦笑いをしながら、なんとなく尋ねる。
マックスは少し切ないような表情になって(え、ほんとに初恋?)
「……近所に、仲の良かった幼馴染がいました。
あの日、両親はすまなそうな顔をしてるし、弟たちは泣きじゃくっているのに、その幼馴染は笑っていたんです。
目にいっぱい涙をためていましたが、笑顔で言ったんです。がんばれと。がんばって死なずに帰ってきてと。あの笑顔が忘れられず、がんばれました。
あれから十年ほどになります。きっとあの子は結婚しているでしょう。
家族と、あの子の幸せな姿を見られれば…… 安心できます」
切ねー!
なんだよ、甘酸っぱい初恋じゃねーか!
そりゃあマックスにその子が幸せになった姿を見せてやらなきゃな!
そんで気持ちの区切りをつけて、マックスも幸せにならなきゃな!
俺が、うんうんと思っていると、ちょっと照れくさそうなマックスも聞いてきた。
「ヨシトさんは会いたい人はいないのですか?」
…………。 まぁ、
「亡くなったかみさんかな」
……? !!!!!!
「すみませんっ!」
マックスは真っ青になった。
「いや、もう終わった事だし。しょうがないんだけど、諦めがつかなくてね」
薄く笑った俺に、マックスはもう一度、すみませんと言った。
自殺した気はなかったけど、あの人のいない人生に生きる気力をなくした。
それが俺が死んだ原因なんだろう。
神様に言われた、後出しジャンケンのような伝言。
『たくさん楽しんでからおいでよ』
あの人がそういうなら、そうしなきゃならねぇだろ。
「ヨシトさんはまだずいぶんお若いのに、もうご結婚をされていたんですか」
「うん、短い間だったけどね」
つき合いは長かったけど、夫婦の期間は短かったな。前世のことだけど。
マックスは黙ってしまった。なんともいえない顔をしている。
俺だって急にこんな話を聞かされたら、どうしていいかわからなくなるわ。
なんかすまんね。
「かみさんが、たくさん楽しんでからおいでってさ。だから死ぬまでめいっぱい楽しもうと思ってね。マックスつき合ってよ」
「もちろんです!どこまでもおつき合いします!!」
マックス、それちょっと俺のニュアンスと違ってるよ?
南大陸へ船の出る港町には十日ほどでついた。
南大陸に渡るのにマックスと相談して、くつした(馬ね!馬の名前ね!)は置いていく事にする。
べつにお別れって訳じゃないよ?馬に船旅は厳しいだろうと、預けていく事にしたのだ。
幼馴染の幸せな姿を見届けたら、またこっちに戻ってくるんだし。
預ける先は冒険者ギルドだ。ギルドには俺も顔を出しておく。
カンファーさんが、冒険者ギルドは独立した組織だから国に報告の義務はないと言っていた。ギルマスは冒険者を守る立場だと。
ここのギルマスも同じ考えかわからないけど。
だけどいつまでも姿を隠しているわけにいかないもんな。もしかしてずっと火剣のことを言われるかもしれない、そしたらそしたで開き直るしかない。
俺は犯罪者じゃないんだ、堂々と冒険を楽しもうと思う。
「じゃあな、いってくる。いい子で待ってろよ」
くつしたは哀しそうな目で見ている。やめて、そんな目で見ないで!
航海は三ヶ月もかかるっていうんだ、おまえをつれていけないんだよ。
そう!三ヶ月!南大陸へは三ヶ月もかかるというのだ!
船はもちろんエンジンのない帆船だ。動力は(推進力っていうのか?)風のみ!
風のない日や微風の時なんかのために、船からギルドに風の魔法使いの依頼がきている。
俺はそれで船賃を払わず、逆に報酬をもらって船に乗る。
風の魔法使い以外にも、海賊や海獣からの護衛依頼もきていて、マックスはそっちで船に乗る。
やったね!船賃が浮いた上に渡航が収入になった!
ちなみに日当は金貨四枚。
陸路の護衛の二倍なのは、海賊や海獣と戦う以外にも、海に沈むかもしれない危険があるからだ。
周りに島もない海で難破したら、そりゃあ死ぬよな!
だけどそれで日当が金貨四枚ってどうなんだろう?
まぁ船賃を払わず、金貨三百六十枚になるんだし、どっちにしても南大陸に行きたいんだ、文句はないか。
この前世の良人の心境を踏まえて、ずっと先にあるセリフが書きたくて、このお話はできました。




