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地下三階に進む前に昼休憩にする。
安全地帯は限られた空間なので、他人様に迷惑にならないよう、匂いの強いものはさけておく。という訳でおにぎりだ。
だけどスープは大目に見てもらおう。
「美味い」
いただきました。毎度マックスの美味い。
何種類かのローテーションなのに、マックスは飽きもせず美味そうにおにぎりを食べる。
「昼が一番腹が減ってるだろうに悪いね。量だけはたくさんあるから!」
マックスは首を振ると美味そうにスープを飲んだ。
日本人的発想につき合わせて申し訳ない。
夜はステーキを腹いっぱい出してやろう。
スープの匂いでか、チラチラと見られている。
こういう視線も慣れたものだ。俺も気にせずおにぎりを食べる。
あー美味い。
美味いけど、贅沢をいえば海苔がほしい。
もっと贅沢をいえば国産米が食べたい。
いや、米があっただけでもありがたい。
ついついループする望みと諦めだ。
さて、腹ごしらえが終われば地下三階に挑戦だ。
じつは飯の間ちょっと考えていた事があった。
山谷の三人がはしゃいでいた話の中にあった業物というワード。
勇者の剣や、聖剣や、魔剣といった、冒険少年の心躍るすごい武器。
もちろん俺もワクワクする。
三十のおじさんも、少年の心はもちあわせているのだよ。
地下三階に下りたところで、マックスに提案してみる。
「マックス、トレントって木の魔物だから、やっぱ弱点は火になるのかな?」
「そうだと思います」
「じゃあさ、マックスの剣に俺の火の魔法を付与してみてもいいかな?少しでも刃のダメージを減らせればと思うんだけど、どう思う?」
「魔剣ですか! 私は魔剣を扱ったことはないので何とも言えませんが…、効果はあると思います」
ステータス画面の魔法項目の中には、ファンタジー小説の中でよく見る付与があった。
支援魔法使いなら、ぜひやってみたいじゃない?
「生活魔法の火だからそれほど威力はないと思うけど、試す価値はあるかと思ってさ」
「そうですね、ぜひお願いします」
「うん!」
マックスに、鞘から剣を抜いてもらう。
付与といってもどうすればいいのかわからないけど、魔法はイメージだ!毎度強く思い込む!
“剣に火を付与!”
「できたかな? マックス軽く振ってみて」
「はい」
マックスは軽く剣を振った。
「「おおぉぉ!!」」
ヒュン!という風切り音。
剣の軌道の後を炎が追った!
できた! すげー! カッコいい!!
「マックス!すげーカッコよくない?!」
「すごくカッコいいです!!」
二人とも大興奮だ!
マックスも男の子だったんだな!
「じゃあさ、次は思い切り振りぬいてみてよ!」
「はい!」
高揚したマックスは思い切り剣を振りぬいた。
Aランクが本気の素振り。
なのに風切り音は聞こえなかった。
なぜか?
『××××××××××!!!!!』(表現できない火龍の雄叫び)
軌道を追う炎の代わりに火龍が現れて咆哮すると、剣を離れて上空に飛び上がったからだ!
あまりの事に二人でポカーンとする。
人は驚きすぎると思考が停止すると知った。
ハッと我に返ったのは火龍の二度目の咆哮でだった。
やばい!
本能に訴える物凄い危機感に、とっさに結界を張る!
“このフロアにいる冒険者全員に結界!!”
火龍のブレス。
業火が目の前を赤く染める。地獄の業火とはこんなもんじゃなかろうかと思う程強烈。
時間にして数秒だったと思う。
わずか数秒で地下三階が一面焼け野原だ。
そして、火龍は消えていた。
「「…………」」
見通しの良くなったフロアには、唖然と立ち尽くすパーティーが三組見えた。
はっ!!
これだけ燃やされたのなら酸素があるのかわからない。
地下二階から四階まで風魔法で空気を流す。
それから結界を解いた。
当たり前だけど三組は大騒ぎだ。集まって何やら大声で話している。
すみませんね!こんな事になるなんて思わなかったもんで!!
マックスと顔を見合わせる。
「謝りに行こうか…」
「はい…」
大騒ぎの三組のところに行き、事情を話して謝罪する。
三組は半信半疑だったけど、それでも謝罪を受け取って、スゲー体験をした!と喜んでくれた。
さすが怖いもの知らずの若者冒険者。
焼け野原にはトレントはいない。
というか、森もない。
あちこち大量に木材や魔石が落ちている。
ドロップされたものは何故か焼けていなかった。
フロア中に落ちている木材と魔石は三組でどうぞと告げる。せめてものお詫びの品だ。
このフロアどうなるのかな…。
倒した魔物なら時間が経てば復活するんだけど、森はな…。
森、どうなるんだろ?
ギルマスに報告しないとだよな…。
下級ダンジョン(上)踏破ならず。
引き返して冒険者ギルドに向かった。
火龍、派手!




