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ビックリ発言には引いたけど、とりあえず森を出ようという事になり、マックスに連れられて歩いている。
並んで歩きながら色々話す。情報収集だ。
マックスの話によると、この国は大陸の真ん中からやや南、国土的には中くらいの王国だそうだ。名前はクィーンクェ。
魔獣の生息する森や荒野、ダンジョンなんかも多く、そういう訳で強い武力を欲している。
マックスは南の大陸から奴隷として売られてきたそうだ。
「珍しくもない話ですが…」と話してくれた事は、現代日本人には、珍しくないんかぃ!とツッコみたくなる話だった。
マックスは、生まれ育った村が飢饉にあって家族が生きるために売られた。十歳の時だった。
今は十九歳で九年も奴隷をしているそうだ。
年下か。
獣人は、力は強いし丈夫だ。種族によっては戦闘力も高い。
「獣人?」
「はい。先祖が黒ヒョウの獣人です。度重なる人族との混血で獣化は見られなくなりましたが、体力と丈夫さには自信があります」
そういえば、マックスは黒い髪に黒い瞳だ。
ファンタジー小説に度々登場する、黒髪黒目はいない設定じゃないんだな。
獣耳やシッポもない。
軽装備の身体つきはヒョウらしく?スラリとしていて、浅黒い肌は引き締まって見える。
身長は高そうだ。目測、百八十センチ以上はありそう。ついでに、ちょっと顔もいい。
「奴隷なのにこんな森の中に一人でいて、 ……逃げてきたとか?」
「いえ、今日はギルドの依頼でここに来ました」
「奴隷なのに冒険者?なの?」
「はい。今は国の所有になっているので、日々の糧は自分で稼がねばなりません」
「なんかよくわからない」
混乱してきた。
よくよく話を聞いてみると
貴族や富豪が亡くなって、相続する親族がいない場合、財産は国のものになる。奴隷も財産の一部なので国のものになる。
国所有になった奴隷は、一年の半分を無償労働に強いられる。寝食は保証されるけれど、魔獣討伐はタダ働きだ。
残りの半分は自分で生計を立てる。マックスのように冒険者とか。
国所有の奴隷は自分を買い戻せるそうだ。
そのための金額は、ランクによって決められている。
Aランクは金貨千枚、Bランクは金貨八百枚、Cランクは金貨五百枚など。
ちなみにマックスはAランクの冒険者だそうだ。
今日は冒険者の仕事で森に狩りに来ていた。
マックスは金貨千枚か…。
これが高いのか、妥当なのかはわからない。
でも大金だとは予想がつく。
「一人で来たって事はソロ?パーティーを組んだりしてないの?」
「奴隷はパーティーを組んだら搾取されるだけです。私は早く自分を買い戻したい」
マックスの戦闘力を当てにして勧誘するパーティーもあるけど、国所有という建前でなんとかかわしているんだそうだ。
地味な嫌がらせは我慢してるとか。
奴隷って理不尽だな!そりゃ早く買い戻したいだろうさ!
「Aランクって、マックスは強いんだな」
ファンタジー物の設定ではAランクは上位だった。たぶん間違ってはないだろう。
「そうですね、Aランクの魔獣とは一対一なら負けません」
マックスは少しだけ誇らしそうに言った。
十九だもんな、そりゃ顔に出るわ。
奴隷だというのに(勝手なイメージ)素直な性格のようだ。
今日は運悪く番に遭ってしまい、何とか一頭に深手を負わせて追い払う事ができたけど、自分も死ぬところだったと。
そこに運よく俺が現れたって訳だ。
「依頼が失敗したので違約金を払わねばなりませんが、生きていればなんとかなります。本当にありがとうございました」
「え、依頼失敗?違約金?それって報酬を受け取れない上にマイナスになるんじゃ?」
「はい」
「マックス元気になった?気力は?」
「驚くほどに通常です」
「いけるなら狩りに戻るか?俺は狩れないけど援護はできるよ」
という事で森に戻る。
といってもまだ森の中だったけど。
自分とマックスに隠蔽の魔法をかける。消音と消臭も。
相手がわからなくなったら困るので(主に俺が!)お互いを認識できるようにはしておく。
出会った場所からそう遠くないところに、マックスが戦っていたフォレストウルフが一頭死んでいた。
こわっ! でかっ! 角?!
ありえない姿にファンタジーを実感する。
死んだフォレストウルフの傍らにはもう一頭いる。
マックスとの戦いでケガを負っているフォレストウルフと、完全回復したマックス。
勝者はあっさりマックスに決まった。
「ありがとうございます。これで違約金を払わなくてよくなりました。報酬はぜひヨシト様が受け取ってください」
「とりあえず様はやめて。俺、普通の庶民だし。それと、報酬はもらえないよ。マックスが死にそうになりながら倒した魔獣じゃないか」
「ヨシト… さんが、助けてくださらなかったら、私はあのまま死んでいました。ぜひ受け取ってほしいのです」
言われてすぐ、様付けをやめてくれたのはいいね。
だけど報酬かぁ…。
言ってくれる事もわかる。
じつは所持金のない俺としてはありがたい申し出だ。
お言葉に甘えてもいいだろうか…。
「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて山分けでどうだろう?」
「はい。ヨシトさんがそうおっしゃるなら」
という事で、一番揉めない山分けにした。
平等大事!