2
眩しすぎる光が収まって目を開けると…
鬱蒼とした森の中だった。
よくあるパターンだな。
くそ、神様め。言い逃げしやがって。
とりあえず、何かに襲われないうちにステータスを見ておくか。
おっ! そう思っただけで、特に発声しなくても頭の中にステータス画面が浮かび上がった。
よかった、いちいち声に出すのは恥ずかしいからな。
いくつもある魔法項目の中に隠蔽を見つける。
さっそく自分に隠蔽をかける。ついでに消音と消臭もかける。
一応これで大丈夫と思う。たぶん。
それから身体強化の魔法もかける。
ここがどのくらいの森かはわからないけど、こんな足場の悪いところなんて歩いた事ないし。
空を見上げて太陽の位置で時間や方向の見当をつけようと思ったけど、高い木々のせいで太陽どころか空も見えなかった。
そういやちょっと薄暗い。
しょうがない。四方を見渡して、一番マシと思われる方に歩き出す。
とにかく森は出なくては。お一人様スローライフは望んでないのよ。
歩きながら自分の手を見る。肌が若い。見慣れた手より若干小さい気もする。
ステータス画面には年齢十五歳と表示されていた。神様がこの世界での成人にしてくれると言っていたけど、十五歳が成人とはずいぶん早いんだな。
服装は、生成りのシャツと茶色のズボンと革の靴。村人Aって感じだ。
だけど深い森の中を歩く格好じゃない。枝に引っかかって何か所かシャツが破けてしまった。
顔は見えないからどんなかわからない。髪も短いから色もわからない。
日本人のままでは目立ってしまうから、きっとこの国仕様だろう。一番多そうな(イメージ)茶色の髪に茶色の瞳ってところかな。
鏡を見るのが楽しみだ。
一人で歩いているからどうでもいい事ばかり考えてしまう。
でもまぁそんな時間もそれほど続かなかったけどね。
歩き出してそうたたないうちに、大きな木の根元に木を背にもたれかかっている男を発見した。
血だらけだし、苦しそうに顔をゆがめているし、目は固く閉じられている。
理由はわからないけど大ケガしているようだ。
これ、獣とかにやられたならいいけど(いや、よくないけど)人対人で負ったケガだったら何が考えられる?
役人に追われた犯罪者とか?
盗賊同士、諍いか何かで切り合いになったとか?
そんなヤツだったとしたら、迂闊に近づいて大丈夫だろうか。
ちょっと考えて。
俺は魔法を解いて近づいた。
音に気付いた男が目を開ける。瞳には警戒する色がある。だけどだいぶ力がない。まったく動けないしね。
「回復魔法が使えますが、助けがいりますか?」
男の瞳に疑うような色が浮かんだ後、わずかに頷いた。
「回復していきなり襲わないでくださいよ」
男、頷く。
じゃあ、って!回復魔法ってヒールだよな。
ハイヒールの上って何だっけ?なんかハイヒールでも追いつけないような大ケガなんだけど!
呼吸も浅いし、瀕死の重傷って感じなんだけど!
ハイヒールの上が何だか思い出せないけど、強く思う!思い込む!
“完全回復!!”
「ふっ…」
男が大きく息をついた。効いたのか?
「大丈夫そうですか?」
「助かりました。感謝します。こんなにすごい回復魔法は初めて見ました」
言葉遣い的にゴロツキではなさそうで安心する。
それにしても全身血だらけなのは変わらないので、ケガが治っているのか分かりづらい。
「傷は?」
「塞がったようです。流した血の分も足りない感じがありません。本当にすごい…」
「よかった。傷が塞がったのなら、その血を洗い流しましょうか?」
「水魔法まで使えるのですか?」
「生活魔法程度ですが」
たぶん大丈夫だよな…
「ではお願いします。血の匂いで獣や魔獣がよって来てしまうので」
早く言ってよ!
これ、何とかかんとかウォータ!とか言わなきゃダメかな。
三十超えてそれは恥ずかしい。
“水!”
声に出すのも恥ずかしいので、また強く思い込む。気合だ。
ザバン!!!
大きな水のかたまりが男に落ちた。
座っていたからよかったけど、立っていたら倒れていたかも!
「すみません!! 大丈夫ですか!」
辺りは水びたし。男も水びたし。
だけど大量の水(と水圧)で、きれいに血はおちた。
「驚きましたが、大丈夫です」
「よかった。だけどびしょ濡れですね。乾かしましょう」
ドライヤーをイメージして。
“温風!”
ゴオオォォォ
今度はイメージしてから魔法を(火と風の複合)発動したせいか、いい感じだ。
ほどなくして男はすっかり乾いた。
「ありがとうございます。これほどの魔法の使い手には初めて会いました。よほど名のあるお方とお見受けします。
名のり遅れましたが、マックスと申します」
「良人といいます」
姓は言わなくていいよね。
よくある設定だと庶民は名だけだし。
しかし回復魔法絶大だな。死にそうだったのにすっかり元気だよ。なんて考えていると
「命の借りは命で返す、我が一族の掟です。ヨシト様、今は国の奴隷ですが、どうぞお側で仕えさせてください」
なんかすごい事を言われた!!
相棒登場^^