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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

R18百合ゲーのヒロインに転生したけど、ヒロインになる気はさらさらないので構わないでください

作者: 大東小弓

 薔薇之宮学園は貴族の子女たちが集う王都で最も格式高い学校。

 私たち令嬢は卒業してしまえば嫁ぐ身。その先に自由はない。でもこの学園にいる間は自由に自分らしく生きられる。

 薔薇園の奥に小さいけど素敵な屋敷があるでしょ?

 あの屋敷は私たち『永遠百合会』のためのもの。

 あの場所で私たちは心を通わせ、永遠を契り合う。

 私にはわかる。あなたにもその心に秘めた願いがあるはず。

 あなたが心から『エンゲージ』したいと思うパートナーを見つけた時、この最後の楽園の扉が開かれ――


「ヤリサーとヤリ部屋ですよね?」

「…………え?」


 私の言葉に先輩が石のように固まる。

 遅れて言葉を理解したらしい先輩がふらつき、そばにはべらせていた別の先輩と私をここに連れてきた同級生が支えた。


「な、な……なんて言葉を使うんですか!」


 顔を真っ赤にした先輩が叫ぶ。


「いや、なんか難しい言葉でごまかしてますけど、ヤリサーとヤリ部屋ですよね?」


「こ、この会は崇高な交流を目的とした……」


「一度もあの館でヤッてないんですか?」

「……」


「先輩、永遠百合会のメンバー全員とヤッてますよね?」

「な、なんでそれを……! ――ハッ!」


 失言に気付いた先輩の顔が真っ青になる。

 先輩の視線の先には、隣にいる同級生で幼馴染の少女の凍りついた笑顔。

 ゲーム中の彼女は幼馴染で永遠百合会の会長の奔放な女性関係に苦言を呈するものの、けなげに会長を支える姿を見せる。

 が、実はかなり嫉妬深い。

 ゲームの終盤にはそれが爆発する危険性があるので、フラグ管理がキモになる。


 さてここで違和感に気付いただろうか。

 そう、ここはR18百合ゲーム「乙女のエデン」の世界。

 そして私はこのゲームのヒロイン……だった。


 数日前、突然前世のゲーム好きだったOLの記憶を思い出した。

 前世を思い出してすぐに自分がこのゲームのヒロインになったのに気付く。

 でもなんで私だったのかがわからない。

 だって私はこのゲームの設定が好きになれず、ほとんど流し読みの状態でクリアして、マルチエンディングだったが一周目で終わったゲームだったのだ。


 というわけで、このゲームのヒロインにはさらさらなる気がないので、言いたいことを言わせてもらった。


「先輩は卒業したら好き勝手できないと思っているみたいですけど、そんなことないですよ」


「え?」ちょっとすすけた先輩が私を見る。


「結婚はどうこうできないかもしれませんが、外に愛人作るとか貴族の人はよくやるんですよね?」


「そ、それは偏見――」


「先輩なら大丈夫! 三年で学校という公共施設にヤリサーとヤリ部屋を作り上げるその手腕とバイタリティがあれば卒業した後も外に愛人たくさん囲ったりただれた大人の秘密クラブ作るなりなんなり出来ますよ!!!!」


 私が力強く親指を立たせて見せると、先輩が崩れ落ちた。


「話は終わりですよね? じゃあ私は帰ります」

「……」


 下世話なワードで幻想を打ち砕かれた先輩は真っ白になっている。

 まあこれで金輪際私に関わろうと思わないだろう。

 薔薇園を出ようとした私の袖を同級生がつかむ。


「ま、まって!」

「なに?」


 同級生……私の友達だった少女を見る。

 同じクラスのこの少女は実はヒロインが好きで、でも言い出せずに悩んでいるところを先輩に慰められて永遠百合会に染まってしまう。

 そしてヒロインもこの永遠百合会に染めようと誘うところからこのゲームが始まるのだ。


「あ、あのわた「ごめんなさい美人に誘惑されてコロッといっちゃう人はムリです」」


 私が素早く頭を下げて断りを入れると元友人が真っ白になった。

 別に好きではなかったけど、浮気に対する抵抗が少なそうな人はちょっとね。



 今度こそ薔薇園を出ると見知った顔があった。


「これであのバカも目が冷めたかしら」

「生徒会長。どうしてここに」

「あなたを見かけたから、ちょっと気になって」

「心配してくれたんですね、ありがとうございます」

「まあ生徒会長だから」


 生徒会長が赤くなった顔を隠すようにそっぽを向く。


「弱っている今のうちに会を潰した方がいいと思いますよ。ろくなことになりませんから」

「そうね。今度こそ潰すわ」


 このゲームをプレイした時に集めた情報では、ルートやエンドによってはスキャンダルが発覚して退学に停学、薔薇園が文字通り炎上したり、痴情のもつれで殺人事件になったりもするらしい。

 この真面目な生徒会長は永遠百合会を敵視してる描写が少しあるだけの立ち絵もないモブだ。


「生徒会長」

「なに?」

「私は一途ですよ」

「……からかわないで」


 生徒会長は相変わらずこちらを向いてくれないが、ほおの赤みがさっきより増した気がした。


「覚えていてくださいね」


 私は笑ってそう声をかけると足取り軽く学園を出る。

 ゲームにないルートを目指して。

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