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ざまあないですね


『申し訳ありません、アシュティン様の分だけ終わってしまいました。』

『また采配ミス?デザートが無くても困らないから、私の分はいいわ。』

『ご厚意に感謝します。』


 給仕の侍女が作り笑いで去っていく。食事を全部抜くのではない。アシュティンの好きなベリーパイや楽しみにしていたデザートだけを抜いて、妹たちの誰かに横流しにするのだ。横で見ていたクラウスが口をとがらせて、呆れたように笑う。


『またあの侍女かぁ。なぁ、これで3回目のデザート不足だろ。絶対おかしいって…』

『今日は南国のフルーツを使ったものだったわ。多分、5の姫のところにいったんじゃないかしら…』

『仕方ないなぁ。俺が今から庭のベリー類を集めてきてやるよ。どれ食いたい?』

『庭師に見つからないでね。じゃあー』


 くすくすと笑って二人で悪だくみをする。この後に父に見つかって怒られたが、何故そんなことをしたのか聞かれた流れで、給仕の侍女の悪事も見つかった。彼女は罰を受け、深く謝罪してきた。


『もうしないと誓うなら、今回は許すわ。』

『ありがとうございます!これからは精一杯務めます!』



 これは夢だとアシュティンは途中で理解する。第何の王女は他者の呼び方。祖国では何番目の姫という呼び方だったのだ。名前呼びは本当に家族だけの時間になった時にしかしない。


(そうだ、これは夢。それから彼女は普通に仕事をしてくれて…フォールロックまでついてきてくれたのよ。それなのに彼女は結婚式の朝にいなくなった。なんでだったかしら…なんで…)


 場面は変わり、侍従がアシュティン宛の手紙をこっそり廃棄する場面になった。数日程アシュティンには知らされていない予定が多々あり、無断欠席扱いになるといったことが増えていた。両親からも軽く注意を受け、弟妹たちに嗤われていたのだ。どこかで起きている伝達ミスを探そうとした時だった。


『あなた、それは私宛ではなくて…?』

『見間違いではありませんか?これは新店舗情報の宣伝の入ったただの自分宛です。』

『宣伝なら俺でも見ていいだろ?新店舗に興味あるんだよなぁ。』

『あ、お待ちください!!』


 破られた手紙をクラウスが拾ってつなぎ合わせ、苦い顔でこちらに差し出してくる。宛先はアシュティン宛で、差出人は王の姉で伯母にあたる人のお茶会の誘いだった。


『どういうつもり?そういえばあなたは私付きじゃなくて、3の姫に仕えている人間よね。なぜあなたが私の手紙を勝手に廃棄しているのよ、最近の伝達ミスはあなたのせいかしら?』

『知りません!自分は何もしていません!!』


 真っ青になった侍従が逃げ出そうとするのを、クラウスが足をかけて転ばせ捕まえる。そこを3の姫が現れて、大げさに「私の従者に何するの!?」と侍女たちと騒いだ。たまたま王妃であるアシュティンの母が現れて、更に事態はややこしくなる。

 手紙を勝手に廃棄していた侍従と、侍従を手引きしていた侍女が捕縛された。

 彼らの両親が「心を入れ替えさせますので、お許しを!」と陳述してきて、3の姫が見捨てたことにより、なんだかんだでアシュティンが手を差し伸べて、彼らもアシュティン付きの人間になった。


(確かそのすぐ後に結婚の話がでたから、彼らが安全か確認できずにフォールロックまで連れてきて…それから…そうだ、ジャンカルロの不況を買ったとかで別の場所へ仕事場を回されたって聞いたんだ。)


 いつもの悪夢だと理解していながら、まだ夢は終わらない。


『う、げほっ…』

『あらお姉様、はしたなくてよ?』

『1の姫様にはまだお茶が熱かったようですね?』


 くすくすと嘲り笑いが聞こえる。

 夢なので味は無いが、隣国の皇子たちとの晩餐会の時だ。食後のお茶に何やらマスタードらしき刺激物が入っていた。食事中に何もなかったから油断していたアシュティンは盛大にむせたのだ。


『のどが渇いているから、俺が貰っちゃうな?』


 横から手が延ばされて、クラウスが紅茶を交換してくれた。ここぞとばかりに妹姫たちが目くじらをたてて騒ぎ出す。来賓との食事の席でこれ以上失態を起こすのはまずいと焦る中で、かなり注目されてしまっている。


『まぁ、回し飲みなんて下品だこと!!』

『これだから下賤な育ちの人間は困りますわ。』

『皇子様、あんなマナーのなっていない人間と結婚するお姉様などに関わらないでくださいな。』


 3の姫と5の姫が声を上げ、婚約者が横に座るのにも関わらず2の姫が皇子に色目を使い、弟たちは話題をそらそうと皇子たちに話をふっていた。


『クラウス、無理しないで…』

『マスタードと塩のきいたお茶なんて初めて飲んだよ!これが来賓のいる席で出されるお茶なのかぁ!』



 彼女はこっそり話しかけたのに、いたずらっ子の顔をしたクラウスが声を大きくして感想を言った。


『ほう、エイブラムでは珍しいものをお茶にいれるのだな。自分も飲んでみたいのだが、第1王女殿下と同じお茶を淹れてくれないか?』

『皇子様いけません!あれは嫌がらせ用の…』


 興味を持った皇子の言葉に、妹姫の誰かが慌てて止めようとして失言をする。


『来客の自分たちがいる席で堂々と姉いじめか?エイブラムは、わが国との交流をなんだと思っているんだ?』

『あぁ、どうしよう…なんてこと…』


 アシュティンの心配は直ぐに砕かれてしまった。皇子の目が笑っているのに笑っていない。皇子たちが怒る声が遠のいていく。


(この後にどう事態の収集を付けたのだっただろう。主犯の妹が謹慎になって、確か実行犯の侍女がむち打ちの後に城を解雇された。それから…それから―?)


 アシュティンの思考に合わせて夢が変化していく。場面は、嫁入り道中のシーンだ。馬車から外を見た時に、侍女たちの中に見覚えのある顔を見つけて、冷や汗が噴き出した。


(確か嫁入りの侍女の中に実行犯の侍女のいとこが混じっていた。それをフォールロック目前の国境を越えた時に気が付いたのよ。彼女は実行犯の侍女によく似ていて、私はお茶がしばらく飲めなかった。何で飲めるようになったのかしら?)


 結婚してすぐにフォールロックの人間がお付きになるからと、50人のうち半分が入れ替えになった。その中に彼女が混ざっていたことに安堵したシーンに変わる。


(この国にくる前に心配だった人たちが、すぐに入れ替えでいなくなっているのね。)


 ゆっくりとアシュティンは自分の意識が覚醒するのを感じた。


「そうだ…フォールロックでもっといい“お仕事”につくからって皆どんどん辞めたと、ジャンカルロから聞いたんだったわ…」


 最近は見なかったが、嫁いでからしばらく見ていた悪夢の終わりを感じて目をあける。優しい光がカーテンからこぼれていた。


「あの人たちこの国に迷惑をかけず、元気に過ごしてくれているといいんだけど…」


 そう呟いて起き上がるアシュティン。

 彼女は侍女らがフォールロックで更に罪を重ねており、ついぞ喉を潰され、開拓地へ送られたことなど知る由もない。何もない過酷な地で、ぬるま湯のような王城勤めだった彼らが汗水こぼして不平を漏らし、手足の豆を潰しながら“お仕事”をしていることを知らせる人間は傍にいなかった。




「また、なの?」

「王様からのお気持ちですよ。」


 朝支度をしているアシュティンの元にニコニコと赤毛の侍女が真っ白な毛皮のコートを持ってきた。実りの秋がやってきて、少し肌寒くなったとはいえ、コートにはまだ早い。


「この毛皮、テンの毛皮よね?どの国でも富が豊かなものしか持てない一級品じゃない…」

「大丈夫です。王妃様が心配されると思って王様が自らテンを狩ってきて、職人に作らせたものですよ!」

「手作りってこと?それなら有難くいただくわ。嬉しい!」


 ふわふわの毛皮は温かく、送り主の気持ちがこもっていると感じて顔をほころばせた。


「愛されてますね、王妃様。エイブラムでは、好きな人の為に狩猟パーティーで獲物を狩って衣装や装飾品として贈る文化があると聞きましたよ!」

「エイブラムの貴族の中ではそういう文化があるけど、フォールロックは違うでしょう?確か、親しい友人や家族に日頃の感謝を込めて贈るのよね?」

「もう王妃様ったら、照れなくてもいいではありませんか!」


 すれ違いが起きているのに気づかず、アシュティンは笑って話を流した。ここ1カ月以上、ジャンカルロからかなり色々贈られており、贈り物だけで部屋が1つ埋まってしまいそうな現状なのだ。


(エイブラムなら好意の意味になる贈り物ばかり贈ってくるから、エイブラムの侍女たちだけじゃなく、フォールロックの侍女たちまで誤解してしまって困ったわ…ん?どうして、エイブラムじゃなくてフォールロックの侍女たちまで誤解しているのかしら??)


 首を傾げる彼女の視線の先で、エイブラムの侍女が赤毛の侍女にエイブラム産の本で「贈り物の意味」と書かれたものを渡しているのが目に入った。


(いつの間にか仲良くなっていたのね。良かった。)


 自身と王との関係を出汁に仲良くなっていることに、彼女は目をつぶって笑った。




「そろそろ旦那様に贈り物を控えるように言うべきかな。」


 定例になった夜のゲーム会でジャンカルロと2人きりになった時に、必ず伝えようと決意する。

 いつ言おうかと様子を伺っていると、何かに気が付いたジャンカルロが先に口を開いた。


「自分はセイレーンの歌声だと前に言っていたが、あれはどう言った意味の言葉なんだ?」

「セイレーンですか?歌声で人を惑わし、海に引きずりこむ妖精のことですよ。」

「つまり、そなたは俺を惑わしたかったと?」

「…違います!誤解ですよ!!」


 焦って首を全力で振るが、ニヤニヤと王は笑っている。わざとアシュティンの顎を持ち上げて、視線を合わせてきた。


「良いだろう、惑わされてやる。さあ引きずり込みたいほどの願いはなんだ?」

「またそうやってからかって!もう願い事はお腹いっぱいです。しいて言うなら、贈り物を控えてください!」

「ムッ、気に入らなかったか?」



 ジャンカルロは首を傾げ、合わせていた視線を変えてお茶を注いだ。アシュティンは、素直に王が手ずからいれたお茶を口にして、ハッと目線を合わせようとした。


「誤魔化そうとしましたね!だめですよ、これ以上高価な贈り物は置き場所がありません。」

「そうか、なら王妃用の棟を建てようか。」

「妃宮が七つもあるので、これ以上はだ、め、です!!」


 声をあげてジャンカルロが笑いだしたところで、更にからかわれていたことに気づき、彼女は真っ赤になった。


「そうやって最近はからかってばかり!そろそろ反撃しちゃいますよ!!」

「ほう、どうやって??」

「え?それは…」


 アシュティンはグルグルと視線をそらし、そのまま思案顔でとまってしまう。


「夜も更けてきた。反撃とやらはまた後日の楽しみしておこう。」


 ジャンカルロはアシュティンのおろした髪を肩から背中へいくように後ろに払って、部屋を出て行った。


「最近仲良くなってきたらスキンシップが多い上に、からかってくるようになって困るわ!!」


 誰もいなくなった部屋で、彼女は遠吠えをはきだした。




翌日、アシュティンは王城へ足を運ぶ。


「昨日は、結局贈り物を止めるようにいったのに聞いてもらえなかった…。執務中の側近の人がいる時に言えば、聞いてもらえるかもしれない。」


 赤毛の侍女とポニーテールの侍女を連れ、ようやく通い慣れた執務室への道を進む。部屋が見えてきた時、話し声がしてつい足を止めてしまった。


「陛下、王妃様へのアプローチは順調ですか?」

「勿論だ。エイブラムの文化を理解した上で贈り物をしているから問題ない。」

「それはなにより。この国の民は豊かなグラマラスボディを好きな者が多いようですが、陛下の好みの影響で今後は華奢な人が好みの者が増えるかもしれませんね。」

「俺は王妃が好きだが、グラマー美人を諦めたわけではないぞ。」


侍女の誰かが息を呑む音がする。アシュティンはゆっくり扉を開けていく。中には王と側近しかいない。彼らはまだアシュティンたちに気が付いていないようだ。


「では、愛人を…?」

「違う!妃には夜に会った時に、甘いものを食べさせるようにしている。燃費が良い華奢な体の王妃だが、いずれはグラマー体型に育つだろう。」

「それはばれた時に大変なことになりそうですよ。陛下、悪い事は言いませんから…あっ!?王妃様??」


 内容が内容なので、侍女たちが焦って引き返そうか目配せし合っている。


「…王妃を好き…?」


 衝撃的な言葉を聞いて、アシュティンから前後の会話内容が飛んだ。そのまま足を進めて執務室に入った。


「今のは本当ですか?」

「あ、アシュティン!??どこから聞いていた!?」


 王の手から書類がこぼれていく。彼女はかつて約束したことを聞けると、目が輝いていた。


「王妃を好きといいましたね。」

「…。」

「しっかり聞こえてましたよ。」

「…うっ。」

「王妃を好きというのは、異性としてですか?」

「…そうだ。王が王妃を異性として好ましくみていて何か問題があるか?」


 黙ってやり過ごそうとしていたジャンカルロは、接近してきた彼女に開き直ることにしたようだ。挑発するように笑って、動揺を隠そうとしている。彼女の返答を待っているようだ。


「いいえ、そこは良いのです。恋とはどんな感情か教えてください。」

「んん?」

「一緒にいるとドキドキしますか?」

「あ、あぁ…」

「離れていても気になります?」

「そうだな…」


 思春期女子の好奇心を止めるものはいない。ギレルモさえも、やらかしたという顔をして成り行きを見守っている。ある意味一番残酷な尋問会が始まってしまった。


「最近からかうようになったのは、意識してくれたからでしょうか?」

「っく、ばれていたのか…」

「すごい、本に書いてあった通りだわ!贈り物の意味もそういう意味で合ってますか?」

「そろそろ勘弁してくれ…」

「ダメです。恋とはどんなものか教えてくれる約束でしたよね?」

「嘘だろ、まだ続くのか??」

「もし王妃が太って、祖国で体を嗤われたらどうするつもりですか?」

「そこは聞いてたのか!もうエイブラムに帰すつもりはないから、俺好みの体型にしても問題ないはずだ。」

「傍に置きたいと思って下さるのですか??」

「ぐあぁぁ!!…そうだ、俺の王妃になったんだから、エイブラムには返さない!!」



 死にそうなほど顔を赤くして、青くして、また赤くする王に王妃は容赦なく質問をしていく。王の方は途中から自棄になっているが、実感がない王妃は無邪気に続けていく。

 侍女たちは途中から微笑まし気に、いかに周囲に話を拡めるかを考えながら見守っていた。

地獄絵図である。


 一時間後、満足げなアシュティンが部屋から出てきたが、部屋の主は瀕死の状態になっていた。昨日の反撃にしては、中々強力なものである。





ジャンカルロ視点


 書類を放り出してのたうち回る王を尻目に、流石のギレルモも笑いをこらえきれなかった。


「だからアプローチは大丈夫ですかと言ったではありませんか。王妃様のあれは恐らく、自分の話だと言う自覚がない状態ですよ。“王妃”という誰かの話を聞いていたのでしょう。」

「そんなことあるか??あれだけ俺が頑張ったのに??なぜだ??」


 訳がわからないと言った顔で、王が無様に床に転がっている。そのまま見上げて、側近の満面の笑顔を咎めた。


「…お前、楽しんでいるだろう?」

「はい。それが何か?王の(さま)が無さ過ぎてお腹がよじれそうです。」

「貴様―!!」


 起き上がってギレルモの胸倉をつかむも、側近の笑顔は崩れずにそのまま揺さぶられている。


「散々言いましたよね?交流が足りてないのでは?痛い目に合うのかも、と言いましたよね?私は警告をちゃんとしてました。それがこの(さま)では…あぁ全く、ざまあないですねぇ…」

「結婚以来、仕事に追われてて仕方なかっただろう!?お前が一番わかってたじゃないか!!」

「その後も、贈り物をただ大量に贈っただけ、好意を伝えるどころか、彼女をからかって遊んでいたんでしょう?子供でもあるまいに、もうちょっとなかったんですか?」


 呆れたように、側近は鼻で嗤っている。向きになった王は更にガクガクと側近を揺さぶった。


「相手は5歳下だぞ!成人男性が未成年女子に手を出すわけにはいかん!正しくアプローチしたかったんだ!!」

「そんな意味で言ったのではありません。そもそも、そのアプローチ結果がさっきでしょう?」

「くっそ!だから未成年に手を出すわけにはいかないだろう!ええぃ、では法律を曲げよ!成人男性が未成年女子に手を出しても良いと!」

「だめです、犯罪です。」


 ちょっと揺さぶられ過ぎて具合が悪くなったギレルモは、やっと王を落ち着けようとした。


「アプローチの仕方がおかしいと言っているんです。」

「なんなんだ、じゃあ、俺はどうすればいいんだ!?」

「まずはご飯を一緒に食べるとか。」

「最近は昼に必ず一緒だ。仕事でダメな日は夜に一緒に食べている!」

「ただ高価なものではなく、真心こめた贈り物とか。」

「王妃が嫁いできてから、王妃教育に必要な教材から人材選びまで俺がやっている!ドレスは王妃の好きなものを揃えているが、小物やアクセサリーは俺のセンスで固めているし、中には自作もあったはずだ!王妃が愛用するようになった毛皮のコートは俺が狩りで獲ったテンの毛皮だけでできている!」

「え、うーん…それを伝えました?」

「いや?夫である王からの贈り物といえばわかるだろ?」

「わかりませんよ。政略結婚した関係なんですから、それも義務感からなんだと思いますって…」


 ジャンカルロの胸倉をつかんでいた手が離れた。それ以上揺さぶられたくないギレルモが距離をとる。


「…そんな馬鹿な…」

「それから手紙とかは送ってます?」

「嫁いで来る前はこまめに送っていたが、今は近くにいるのだから会いに行けば良かろう?」

「う、うーん。会いに行ってます?」

「食事以外でここ最近、俺と100日以上会った人物は側近以外でなら王妃だけだ!」

「あ、それは王の立場ならかなり会っている人物ですね!」

「だろう?いや待てよ、それも伝わってない…のか?」


 沈黙が二人の間に流れた。



「そうだ!素直に好意を伝えるのはどうでしょう?」

「…さっき、どうなった?」


 再び沈黙が流れ、2人して頭を抱えた。


(さま)()い…、(ざま)無い()ですねとは言いましたが、これは酷い…」

「もうお前は黙れ…」


心労が一気にきた二人は、静かに黄昏れ(たそがれ)時に身を任せていた。





アシュティン視点に戻ります。


(政略結婚した先で、こんなに恋について聞けるなんて!!恋愛話ってこんなに楽しいものなのね。本当に本の内容と合っていたわ!王は王妃に恋をしている!…え?)


 ウキウキと仕入れた恋愛話にアシュティンはステップを踏んでいたが、急に現実を飲み込んだ。足を止めて、先ほどのやり取りを思い出す。


(あれって、私への好意の話…?…私を異性として好きだと言っていた?…初めて男性から言われて気づかなかったわ。そうか、あの人は自分を異性としてみてくれていた…)


 じわじわと遅行性の毒のようにアシュティンの中に熱が回った。徐々に顔が熱くなり、彼女は顔を両手で押さえた。


(いえ、王が王妃に恋をするなら自然なことかしら?あら…、政略結婚よね?でも、ジャンカルロは私を異性として好きで、傍にいてほしいと思ってくれていて…??他にも…。な、何これ…なぜか運動したように心臓が痛い??)


 心臓が早鐘を打って彼女の血流が良くなり、顔色が血色良くなっていく。


 時間が経ってようやく、先ほどの王との会話が彼女の中で自分とジャンカルロの恋愛話だと理解できた。


(これは何かしら??政略結婚したけれど…私にとって、恋とはどんなものかしら?)





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