馬鹿な男の真実と国際交流 続いた誘拐未遂
???視点
エイブラム国とフォールロック国と隣接するその国は、ザックアダン皇国。
2国と古くからの付き合いのあるその国は、両国が戦争手前まで言った時に仲裁に入るでもなく傍観していた。どうあがいても戦争の火の粉が降りかかるだろうに、何もしなかったのだ。
いやもっと悪い。
フォールロックの先王にエイブラムのことを悪く伝え、不安を煽り猜疑の目が向かうようにしたのはザックアダンの皇帝だった。
それを‟彼“が知ったのは、アシュティンが嫁いで1か月もたたない頃のことだった。
何故なら彼に、嘆き悲しみアシュティンをほしいと言ったのはザックアダン皇国の皇子・デュワイン皇子その人だったから。
デュワイン皇子は度々エイブラムに交流で足を運んでいたのだが、実は彼と仲良くなる過程でアシュティンの歌声を密かに知ってとても気に入っていた。
わざわざ従者に化けて、侍女のカイラと親しくなり何度も聞きに来ていたほどだ。
許せないのは、妃として娶るのではなく歌姫と言う愛人として迎えることを妄想で語るようになったことだった。
デュワイン皇子はエイブラムの国政を理解しており、よっぽどのことがない限りは彼女の婚約は覆らないことを知っていた。だから父王を唆し、フォールロックとエイブラムの仲を引き裂き、戦争になるよう目論だ。国境付近の小競り合いは、4割が両国の兵士にそれぞれ化けた皇国の兵士たちが起こしたものだった。
もしも、もしもの話。
戦争が起きて、両国が消耗しながら争い続けていたなら―
国王の独裁政権を心配する貴族はいなくなる。
騎士である彼もあわよくば、駆り出されていなくなる可能性があっただろう。
そうなった時、エイブラムが真っ先に援助を求めるのはザックアダン皇国だろう。
姫を要求すれば、差し出すしかなくなるのは、アシュティン。
もしくは消耗した両国を攻めて属国に吸収して、国の名を存続のために彼女を妃として要求することも可能だっただろう。
他にも彼女が国から逃げ出したくなるよう、陰湿ないじめの手引きを貴族を通して妹たちの手で行わせていた。
もしも彼女が耐えきれずに王女の座から逃げていたなら、そのまま偶然を装って国に連れ帰る策も講じられていた。
ジャンカルロが和平を求めなければー
戦争が起きていればー
アシュティンが辛い状況に逃げずに向き合ってこなければー
アシュティンの運命は、娯楽のために監禁された歌姫という過酷なものが待ち受けているはずだった。
そして、最後の策
アシュティンの妹、2の姫が好みそうな‟彼“に似た、褐色の男。
皇国では褐色が色男と呼ばれる。その中でも人たらしな人間を従者にして、情報を引き出すべく近づけた。度重なる失恋に泣いていた2の姫は、優しい彼そっくりの褐色の男に騙されてしまった。
そうして2の姫は国賊になる危険をおかして、自分に甘い父王の書類を盗み見てはザックアダン皇国に情報を流していた。
ジャンカルロがカルチャーショックを受けたアシュティンを元気づけるため、舞踏会場を貸し切ってドレスを贈るサプライズの情報に目を付け、後は彼の出番となるはずだった。
2の姫が情報に私怨を足していなければ―
嫁いでなお、彼の心を奪う姉を妬んでいた2の姫はこうなっていればいい、と、アシュティンが虐げられている情報を常に付け足していた。
しかも、他の妹姫たちが王と言う位高い男に嫁いだ事実だけで、嫉妬から暗殺者をアシュティンに向けていたことも日頃の警戒につながった。
デュワイン皇子がアシュティンが暗殺されてしまうことを恐れて、ことを急いだ面もあったのかもしれない。
それらがアシュティン誘拐事件を妨害するものとなり、最後の策は消えた。
皮肉なことに元からあったエイブラム国のいざこざが、デュワイン皇子に誤解をあたえて焦らせ、自国の姫を救う流れになっていた。
彼は口封じとして刺客におそわれ、下半身に大きな傷を負ったが一命をとりとめた。
そして彼自身の母親の出生の秘密を盾に計画を黙っているように言われたのだ。
彼―クラウス・ガルシアの父親は由緒正しき騎士の家系だが、母親は出生不明。
実は母親はフォールロック先々王の妹とザックアダン皇国の当時は末の皇子が駆け落ちした末に生まれた娘だったのだ。
その証拠にクラウスの何番目かの弟は、ザックアダン人らしい褐色の肌で生まれている。
母親を育てたのはフォールロックで駆け落ちを手引きした騎士で、少しなまっていた。それが後々クラウスまで伝わったのだ。
母親本人は度重なる出産で数年前に儚くなっているが、見る人が見ればクラウスとジャンカルロは似ている部分があった。勿論、デュワイン皇子にも、だ。親しくなったデュワイン皇子に疑われて、クラウスは真実を早くから知った。
途中からは脅されてデュワイン皇子とは仲の良いふりをするだけになっていたのだ。
彼のもしもの話しでのもう一つの名は、ニコラウス・ザックアダン
誘拐事件が成功していたなら、歌姫としてアシュティンをデュワイン皇子に密かに差し出す代わりに、クラウスはザックアダンの皇子としてアシュティンとカモフラージュ結婚しているはずだった。
クラウスはずっと位の低い自分に嫁ぐアシュティンに引け目を感じ、恋心を殺して兄のように振る舞っていた。そこを付け入られたのだ。
常に重い運命を背負い、たくさん空回りしてしまった男は、負傷した体を引きずってエイブラム国王に全てを話した。そうして罰を受け、アシュティンを守るため、ザックアダン皇国への牽制として、ジャンカルロのはとことして、フォールロック国へやってきたのである。
それは、とても馬鹿な男の初恋が終わった話。
アシュティン視点
報告書を読んだ彼女は2の姫が情報漏洩者であり、同時にジャンカルロと父王が文通友達だったことを知って衝撃を受けた。
「国王同士で息があったのかしら…?」
先王と父王は何かあると喧嘩していたイメージしかないので、衝撃しかなかった。その上、自分の暗殺を企てたのが些細な嫉妬による妹たちだけだったことも衝撃だった。いや、彼女たちの背後には革命派の貴族たちがいたのだろうことも事実だろう。だが、アシュティンの評判を下げる程度のものを革命派が、死ぬことを理解していないで一番困る方法として暗殺を妹たちが、それぞれ指示を出していたことにもショックを受けた。
「うちの妹たちはあの婚約者たちと付き合うようになってから、本当にネジが抜けてしまっていたのね…。」
自身の婚約者よりも上に行くなど許せない、その一心でことに及んでいたようだ。
教育はアシュティンと妹たちは同じものを受けてきたはずで、頭も悪くないはずなのだ。それなのに何が起きるのか彼女たちはわかっていなかったらしい。
ため息をついて次の報告書を読んでアシュティンは、二度見した。
「え…??クラウスとジャンカルロが、はとこ!!?」
詳細は伏せてあるが血縁関係者だったことが発覚し、去勢手術を受けていたことから血筋で信頼を得て歓迎された旨が書かれていた。
「どういうこと??え??」
大混乱した彼女は後ろですまし顔で護衛についている本人と書類を往復して見た。
「俺のフォールロック語がなまっている話は前に聞いたよなぁ?俺に言葉を教えた爺さんは、フォールロックの人間だったんだぁ。」
「初耳よ!??」
「俺も入国の際に検査を受けて知ったよ。」
クラウスの相変わらず間延びしたフォールロック語に、つい母国後で返してしまう。
何か誤魔化した時の顔をしているが、それ以上口にしない時の顔を彼がしていたので、それ以上アシュティンも何も聞けなかった。
「ジェ…陛下はどこから知っていたの?最初から…??」
(ジェイに聞いたら何か詳しく教えてくれないかしら…幼馴染のことを夫の方が詳しいなんて、何だか寂しい)
ついに人に甘えることを覚えられた王妃は、最近覚えたてのおねだりを夫にした。
しかし、ジャンカルロも口を割らなかった。そこに、もっとねだられたいと言う邪なものがあったのか、クラウスの名誉を守るための真意があったのか知る由はない。
アシュティンが夫に可愛く詳細をねだっている間に、粛々と皇国との交流会はやってきた。
互いの戦争手前国しか見てなかったジャンカルロとアシュティンがデュワイン皇子に会ったのは実に数年ぶりのことだった。褐色の従者を連れて、彼は厚かましくも堂々とやってきた。
「お会いできて光栄です。結婚おめでとうございます。お2人の健勝をずっとお祈りしておりました。」
「はるばる来ていただき、感謝いたします。しばしの旅ですし、是非とも我が国を楽しんでください。」
何やらバチバチと王と皇子が挨拶しながら、キツく手を握り合って牽制し合いながらも挨拶も終わり、交流会の流れになった。
彼女らが警戒している中で交流会はのどかに行われた。
何も起きずに初日が終わり、このまま過ぎるかと思いきや事件は深夜に起きた。
いつものようにアシュティンとジャンカルロが深夜のゲーム会をして、その日は添い寝をする日だった。
「なぁ、アシュティン。俺はあなたを誰にも渡したくないんだ。たとえそれが、皇子だったとしても…」
「急にどうしたのです?」
「俺はもう君を危険にさらしたくない。」
「ジェイ??」
2人がゲーム盤を前に談笑していると、にわかに廊下が探しくなった。騎士たちとゼニスブルーとライムイエローが気絶した十数人の男を引きずってきたのだ。
その中には媚薬の瓶を持った褐色の男もいた。
彼らは、ライムイエローの体質と合わせた「質問!タイム」の技であっさりと首謀者を吐き、そのままデュワイン皇子は拘束された。
聞き出した計画ではかなり綿密な計画だったが、要約すると「日課のゲーム会は王と王妃と護衛2人しかいない状況だから、ジャンカルロの前でアシュティンを傷つけてさらい、たまたま通りがかったデュワイン皇子がアシュティンを助けて慰める予定だった」らしい。
褐色の男はデュワイン皇子の目を盗んで、人妻となったアシュティンに手を出すつもりでいたようだ。忠誠心薄い男らしく、あっさりとライムイエローの尋問にのっってしまった。
「なぜだ、なぜ毎回ジャンカルロなんかに妨害されるんだ!」
「お前らが我が国に放った間者は全員捕まえたからな。逆に誤情報を流して妃宮と反対の騎士宿舎に罠を張ったんだよ。」
悔しそうなデュワイン皇子を牢屋に連れていきながら、静かに怒る王が嗤った。
「これからザックアダン皇国にはこれまでの行いについて、国同士の裁判と今回の件についての賠償責任を問わせてもらおうじゃないか。」
「もう少しだったのに!もう少しで俺のセイレーンが手に入るはずだったのに!!」
血走った眼でそこにいないアシュティンを呼び、悔しそうにデュワイン皇子は牢屋の中で吠えていた。自分勝手な発言にジャンカルロは更に苛立った。
「手口が毎回こざかしいんだよ。アシュティンはお前みたいな奴には絶対にやらない!!」
「だまれだまれ、この父親殺しが!!」
「好きなだけ言えばいい、暴言も記録しているからお前の罪が重くなるだけだ。」
牢屋の中に向かってそう宣言し、ジャンカルロが振り向くとそこにはアシュティンがいた。実は心配で、「アシュティンは~」のところから聞いてしまっていた彼女は困ったように首を傾げた。
「まるで私の取り合いのような会話ですね??」
「アシュティン、ここは衛生上よくないからあっちで話をしよう。」
「セイレーン!!俺のセイレーン!!待ってくれっ!!」
状況がわかっていない彼女をライバルもどきから遠ざけるように、牢屋からジャンカルロは連れ出した。誰をさしているかわからない呼び名に、アシュティンは思い当たることがあって振り返った。
「セイレーンとは…?」
「君が前に言っていた人を惑わして、海に引きずり込む生き物のことだろう??」
「いえそういう意味では…」
何度も振り返り、セイレーンとわめく哀れな男をアシュティンは見つめた。
(まさか、ね…?私の声は祖国ではクラウスと数人の侍女と侍従しかしらないし、この国ではジャンカルロしかしらないもの…)
彼女はふっと目をそらして、本来の姿で名乗り出ることもできなかった愚かな男から離れていく。
デュワイン皇子の長きにわたる3国を巻き込んだ片思いは、ここで終わることとなった。
ザックアダン皇国は、最初はエイブラムとフォールロックの争いの火種を作った罪を否定していた。しかし、決定的な証拠をエイブラム国とフォールロック国の両方から提示され、国同士の争いを巻き起こした戦犯として国際連合に連ねる国々から締め上げられ、監視対象国になってしまった。関税もだいぶきつくされ、今後の国家交流と収益に打撃を受けることになる。
また2の姫が出産したが、子供は褐色の男そっくりだった為にザックアダン皇国の人間と特徴と一致していることから、未婚の彼女に手を出したことを理由に更に賠償を重ねたようだ。
エイブラム王家と2の姫の名にも大きな傷をつける形となったが、それが逆に独裁政権を恐れるものたちの溜飲を下げる形となった。
出産後の2の姫は、憑き物が落ちたように何があったのか当時のことを話すようになったそうで、このままいけば褐色の男を手引きしたデュワイン皇子の計画の話も民や周囲国の民たちへの信憑性が出てくるだろう。
こうして国際交流は、怒涛の展開を迎えて終わったのだった。
全ての処理が終わるころには実に数ヶ月、かつて半年後から始まった深夜のゲームの日から1年経っていた。
「ねぇジャンカルロ。私は嫁いでから随分とあなたに守ってもらっていたのね。」
「急にどうした?」
その日は久しぶりにチェスのポーンを使ったはさみ将棋を行っていた。その合間に、アシュティンはこれまでのジャンカルロたちの苦労を聞いた。
「妹たちが送ってきた沢山の刺客に、50人連れてきたのに49人が革命派の息がかかった者たちだったの。私は暗殺は数人しか知らないし、侍女や侍従たちが裏でしていたことも知らなかった。私が考え甘く罰することができなかった人たちもあなたは罰してくれた。」
「アーティーそれは…。」
どこまで話すか、話を変えようかと口を開こうとする王の口に指をあてる。
「言いたくないなら言わなくていいの。でも、前に言ってたように話せる時がきたら教えてね。」
問題が落ち着いてからやっと、父王から真実を書いた報告書が届いたのだ。そこで初めてアシュティンは自分がいかに未熟でいたかを知らされたのだ。元敵国に嫁いでも状況を見極め、きちんと対処するつもりだった。
しかし、実際はその元敵国に手厚く保護されていた。
(お父様の報告書には私を嫁がせたのは、ジャンカルロの人柄を信じて保護してもらいたかったからだと…自国でいっぱいいっぱいだから、協力してもらうつもりで送りだしたとはっきり書かれていた。彼は全部知っていて、和平に応じたお父様の願いを、私を守ってくれたのだわ。)
「アーティー…すまな、いや、ありがとう。」
「感謝しているのは私よ。ありがとうジェイ。」
2人が微笑み合って、口を押えた指先にキスが返された。
(この人が夫でよかった。結婚してよかった。政略結婚だけど今とても幸せだわ…)
次のゲームとして準備されているタロットカードが、2人のキスを重ねる振動で広がっていった。
かつて
アシュティンが引いた最後のカード「王様」の正の位置の意味は
「愛情豊かな親切な人物と縁があり。エネルギッシュな男性と自分の力によって、状況が進展します」
ジャンカルロが最後にひいたカード「世界」の正の位置の意味は
「心から感動することができて、内面がしっかりと満たされます」
ジャンカルロ視点
牢屋の中で男が項垂れている。
「お前の従者たちは随分と忠誠が高いな。お前の計画を全部教えてくれたぞ。」
半分嘘だが、尋問ではよくある手だ。馬鹿にするようにして、相手を煽るように話しかけた。
「どうせザックアダン皇国は、僕を切り捨てて好きにしろとか言ってきたんだろう?」
「さてな。それよりどうしてアシュティンを追い詰めるようなことばかりした?」
自白剤入りの水を差し出しながら質問をすれば、それを一気飲みしたデュワイン皇子が自嘲気味に笑った。
「僕は優秀な皇子なんだ。父上は僕の提案に何でも頷いてくれる。側近たちも僕をほめたたえてきた。でもずっと何か物足りなかったんだ。いたずらに交流会で侍従に化けてセイレーンの歌声を聞くまでは…」
「セイレーンじゃない、アシュティンだ。」
「それはお前の妃になった女の名だ。僕は、僕の為だけの歌姫にしたかった。愛人と言っても一切汚さずに僕の手元だけで歌わせるようにしたかった。」
不愉快な内容を男はベラベラとしゃべりだす。
「あの綺麗な歌声はどうやったらでていると思う?辛いときにこそ、聞く人間の心を揺さぶるんだよ。だから追い詰めてトラウマにすればずっとあの声で歌ってくれると思った。それで僕は彼女にとっての救いの神になりたかったんだ。皆が知っている皇国の優秀な皇子じゃなくて、彼女の唯一の理解者にして救いの手になれば絶対に離れていかないと思っていた。それなのに、お前が―」
「お前はアシュティンが嬉しいときに出す、優しい歌と声を知らないんだな。」
「何?」
初めてアシュティンがジャンカルロの願いを叶えた時の声。それは天上から響くようなそれはそれは美しい歌声だった。金糸雀のような透き通った声はきく者の心を洗うような歌声だ。
「アシュティンは幸せな時にこそ、美しい歌声を出すんだよ。追い詰めて、汚い手で苦しめようとしたお前にはこの先も知ることが無い話だったな。」
(そもそもアシュティンの魅力は歌声だけじゃない。それすらわからない男に話しても無駄だな。今の会話で第二王女だけでなく、アシュティンにも手を出そうとしたことがわかったから、それで十分だ。)
残りの質問を専門の騎士に任せ、まだわめくデュワイン皇子を置いて牢屋を後にした。
執務室に足を運べば、ギレルモと側近たちが文句をこぼしながら彼を出迎える。
「デュワイン皇子の件はザックアダン皇国はなんと言ってきている?」
「今回の件はザックアダン皇国の総意ではなく、デュワイン皇子の独断だそうです。賠償金を払うから今後も交流したい、彼は好きにしてほしいとのことでした。人質にすらできないほどの回答の速さでしたよ。」
モノクルを上げて呆れたようにギレルモがため息をこぼした。念入りに毒の入手経路やら、暗殺者が侵入した経路を書き込み、ザックアダン皇国まで行きついた資料が印だらけで卓上にある。
「この程度で私たちから逃げられると思っているのですから、舐めていますね。徹底的にこの1年半の苦労の憂さ晴らしはさせていただくつもりです。逃がしませんよ。」
「補佐官さん、かっこいいー。頑張れー。」
気の抜けたような応援をしているが、彼に最も協力をしたのはクラウスだ。
あっさりと裏切ったデュワイン皇子の従者たちと違い、こちらは裏切らない代わりに少数精鋭の曲者ぞろいになっている。
「戦争手前のいざこざから政略結婚までのこの1年と半年過ぎの苦労も、ようやく報われそうだな。」
やっとジャンカルロは安堵の笑いをこぼした。
静かに次の準備に入ったフォールロック国は国政も落ち着き、民も戻ってきている。市井の生活水準も全盛期手前まできていて、野盗や裏の世界もクリアになってきた。
もう城に賊が押し入ろうとすることもない。エイブラム国との軍事連携もかなり整った。
もうアシュティンを過剰に守らなければいけない環境も、いつかの為に逃がす準備も必要ない。
(この間、アシュティンの妃教育と性教育が完了したと報告があがった。アシュティンと両想いになったし、もうすぐ恋愛ゲームもレベルマックスの大詰めだ。後、半年弱もあれば誓約書の内容も含めて少し早いが約束に繋がりそうだ)
一通り仕事を終えて、ジャンカルロは深夜のゲーム会を待つ王妃の元へ足を運んだ。
嫁いできてから美しくなった少女、いや群青色の髪をウェーブさせた女性が、幸せそうに王を迎える。
「すまないアーティー、待たせたな。」
「いいえ、お待ちしておりました。ジェイ。」
「少し早いが、今日は俺たちの子供についての話をしないか?」
まだ少し先の話し。
それでもアシュティンの成人に向けて、彼らは幸せな未来の話をたくさんするようになっていった。




