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始まりの結婚

 ある日、フォールロック王国のだれもが知る政略結婚が行われた。


 そこから2年間新たなこの夫婦に子供はおろか初夜が訪れることは無かった。



 一年前、暴君で有名なフォールロック国の王がエイブラム国の使者に無礼を働いたことが発端で隣接していた二つの国は不穏な状態になった。

 そこから色んな思惑が飛びかい、いくつものいざこざの後に両国が貧窮に向かいながら戦争一歩手前まで来た時、暴君の息子である王太子ジャンカルロが実の父である暴君を討ち、深い謝罪と共に暴君の首をエイブラムとの国境付近にさらした。


 謝罪をエイブラム国が受けた後に、フォールロック国とエイブラム国の両国は何度も話し合いを行い、国の利益のために和平同盟を結ぶこととなった。その際にエイブラム国とフォールロック国の同盟の証として王となったジャンカルロと第一王女だったアシュティンとの結婚が決まったのだ。

 アシュティン・カシー・エイブラムには幼い頃から一緒にいた幼馴染であり結婚目前だった婚約者の騎士がいた。彼との別れを告げ、50人以上の侍女と従者を連れてフォールロックの新国王の元へ嫁ぐことになった。


 彼女はエイブラム国の王族の中で14歳になっており、唯一成人式を終えたばかりの未婚女子だった。本来なら成人式を終えて結婚していただろう彼女は、慈悲深い才女としても有名だった。

 両国が戦争手前の争いを起していた時、貧民街で慈善活動をしており、フォールロック国の言葉も難なくしゃべることのできる人物だったことも災いしただろう。

 薄いベールに包まれた華奢な少女は祖国に別れを告げて、隣国に足を踏み入れた。


『可哀そうに、実の父を殺すような男に嫁ぐなんて…』

『あれだけ争いがあった国だもの、野蛮な民なのでは…?』 

『賢いアシュティン様を送るのはきっとフォールロックの秘密を暴く為よ』

『争いが無ければ、婚約者の方と今頃は結婚していたはずだろうに…引き離されてしまうだけでなく、別人に嫁ぐとは…』

『きっと大切になんてしてもらえないのだわ…我々が守らなければ!』


 ひそひそと連れ立つ者たちは勝手なことを言う。アシュティンは傍付きの侍女に言葉を控えるように伝えて貰った。


(私たちの結婚が戦争に関わっている。迂闊なことをしては、危険)


 少し前まで敵国だった場所だ。何をいちゃもんつけてくるかわからない。

 急ぎの同盟結婚だったために夫になるジャンカルロ王がどんな人物かわからない。彼女には数年前の国交の時の少年だったジャンカルロのことしかしらないのだ。アシュティンが10歳の時に15歳のジャンカルロと挨拶だけかわしたことがあるだけだ。



(あの時は、悪い人物だとは思えなかった…暴君である先王を窘めてくれていたし、聡明な印象しかない)


 まさかあの少年が実の父を殺すとは思っていなかった。でも、それだけ追い詰められた状況だったことは想像がついた。エイブラムの貧民街にも、フォールロックから飢えて逃げてきた民が何人もいたのをアシュティンは知っている。


(祖国のため、いくらでもできることはしましょう。新王を見極めなければ!)


 謁見はつつがなく終わり、数日の滞在の後に大体的な公表をされて政略結婚は無事に終わった。

 アシュティンには7つの妃宮が全て渡され、50人連れきた侍女と従者は半分だけ残し、空いた25人の枠をジャンカルロ王が準備した侍女と従者をつけることで許可された。


 妃宮を全て渡されたのは、アシュティンに側室を持つか判断が委ねられたからだ。一番日当たりの良い妃宮を住まいに据えたアシュティンには戦争目前だったとは思えないほど、見事な調度品が準備されていた。待遇としては妃を迎えるにふさわしい準備をされていたといえる。



 しかし、ジャンカルロは初夜の前日にアシュティンに告げた。


「この国の成人は16歳だ。貴国では14歳の貴女が成人しているのは知っているが、倫理の問題で初夜は2年後にしてほしい。それまでには、子供を作っても問題ない環境になるように国を立て直すからどうか待ってほしい。」

「ふむ、私と初夜を迎えるのが嫌ではないのですね?」

「すまない。貴女にはその2年の間に妃教育を受けて貰おうと思っている。不自由をさせるつもりも、子供を作らないつもりもない。だが、未熟な体の貴女に無理をさせたくない。」


 そう語るジャンカルロの目に嘘があるようには見えなかった。


「わかりました。条件をいくつかつけても良いですか?」


 アシュティンは少し考えて希望を口にすれば、ジャンカルロは直ぐに理解してその場で誓約書も書いてくれた。



(夫になった人は聡明な方のままだった…でも、周りの機微に疎い人かもしれない…)



 嫁いで半年、妃教育を順調にこなす彼女は現在、ジャンカルロ専属の高級娼婦を自称する女たちに詰め寄られていた。


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