第35話
と、そんな事を思っていると、
「っと、そろそろ合流するかな。」
と、ミケさんが言って来る。
「合流っスか? そういえば、ミケさんはTSチームのリーダーって話でしたけど、何で、お仲間さんと一緒に逃げてないんスか? お仲間さんと一緒に行動していた方が安全なんじゃないっスか?」
当然の疑問をミケさんにぶつけてみる。
「チッチッチ。うちは囮や。」
ミケさんが指を左右に振りながら答えて来る。
「囮?」
想像してない答えが返って来て、オウム返しに返してしまう。
「まず、ファトス村の自警団の昼食に下剤を入れる。これで、大半の自警団は腹を下して行動不能や。けど、何人かは昼食をまだ食べてなくてピンピンしとるやろう。そやからや、うちが一番目立つこのKGのシュタイガーンバオアーをワザと目立つ様に盗む。そして、ワザと分かりやすい逃走ルートで逃げる。これで、ピンピンしとる奴らも、うちを追い掛けてきて、自警団倉庫は腹下して行動不能になったやつらしか残っとらん。そこで、うちの仲間が自警団倉庫のFGを安全に全部かっさらうって寸法や。」
ミケさんが、悪戯をした時みたいな顔をして、親指を立てて来る。
「ふぇ~。」
そんな事をしていたんだ。
ミケさんは自称有名人との事だけど、ここまでの事を考えられて実行に移せるっていうのは、本当に有名になるほど凄い人なのかもって思わせられる。
「で、うちを追い掛けて来た自警団も、うちが事前に仕掛けたスタンネットで一網打尽…ってアンバイのはずやったんやけど…ロクスリー君に見抜かれてもうて、あの時は焦ったで。ロクスリー君、良い目しとるよね。」
「いや、アレは、目が良いとかっていうより、一度体験したからというか…。」
「うん? 一度体験した?」
「何か、オイラ、あの場面で一度失敗して死んじゃって、生き返ったら、あの場面からで、既に体験したから、どこにスタンネットがあるのか分かったっていうか…。」
このオイラの発言を聞いて、ミケさんが、う~ん、と唸る。
「既視感って奴かな? 始めて見たはずやのに、前に見た事がある様な気がするって奴やね。まあ、ロクスリー君は、感が良いんやろうね。」
「う~ん…。それにしては、リアリティーあり過ぎな気もするっスけど?」
「既視感は、個人差があって、人によったら、間違いなく昔に体験した、って思う事もあるそうやし、ロクスリー君も、そういう感じなんちゃうかな? まあ、何にしても、感が良いのは、使えるよ。その鋭い感、これからはうちらの為に使って貰うで?」
「まあ、こんなオイラなんかで役に立つならOKっスよ。」
「うん! ありがとうやで、ロクスリー君!」
そうホコホコ笑顔をミケさんが向けてくれるが……うん? …あれ?
「ミケさん? 今、思ったんスけど、うちの村の自警団は、さっきの副団長さんたちはノックアウトですし、それ以外の方々は下剤で腹を下してダウンしてて、のたうち回ってる間に、ミケさんのお仲間さんたちに自警団倉庫に残ってるFGを目の前で全部盗まれたんですよね? なら、オイラたちを追って来るFGが無いんじゃないですか? 実は、もう、こんな急いで逃げる必要、無いのでは?」
ふと湧いた疑問をミケさんに投げるが、
「確かに、自警団のFGは、もう無いし、うちらを追って来れる人員も、さっきの副団長たちくらいや。でもな、一寸の虫にも五分の魂って言ってな、そういう、やられたい放題の状況を経験した奴らは、怖いんや。戦力のFGが全部無くても、そういう奴らは、村の一般の人たちが使っとるWGとかを無理にでも借りて、FG用の武器を無理やり装備したりして、撃墜されるのを覚悟でも相撃ち狙いで特攻とか、悔しさの余り無理やりでもしかねんねん。その上、戦況を見て、うちの仲間たちの慣れたGたちやなく、扱いに慣れてへんこのシュタイガーンバオアーを狙ってきよったりして、少しでも噛みついて傷跡を残そうとするもんなんや。そうなったら、負けんにしても、こっちも損害が大きくなるからな。TSっちゅうのは、一流のモンはな、行動は大胆に、アフターケアは入念にするもんなんや。」
と、思ってもみなかった上、本人の言うように凄い入念な答えが返ってきて、
「ふへぇー……。」
その考えつくされた油断ない対応の話に呆然としてしていると、
「っと、でも、そうは言ったけど、そろそろ仲間もFGを全部盗んだ上で合流してくれる頃やね。まだ合流予定ポイントは、ちょっと離れてるけど、そろそろ緊張も少しは緩んでええかもやね。よし! ほんなら、仲間と合流して、仕事の打ち上げとロクスリー君の入隊祝いを兼ねたパーティーで乾杯や!」
ミケさんがモニター越しに、手を上に付きあげて笑って言って来る。