第141話
「ケビン…。ロクスリー君を…それ以上…責めたら…アカン…。失敗は…誰にでも…あるんや…。」
ケビンさんの激情の言葉を聞き、こんな苦しそうな状況なのに、なおもオイラを気遣って、ケビンさんを諭すミケさん。
「姐さんは甘すぎなんですよ! クッ…もう、こんな奴の顔も見たくねぇ! オレは部屋に戻る! 二度とオレにツラ見せんなよ、ロクスリー!」
そう吐き捨てる様に言って、ケビンさんは居住ブロックに移動した。
「ケビンさん……。」
痛ましいまでの激情のケビンさんを、オイラは、ただ見送る事しか出来なかった…。
「ケビンの気持ち…分かるな…。」
ユリンさんが、そう言って、オイラを睨み付ける。
「今回の行動は確かに軽率でしたからね。トニー君の判断がなければ大変な事になっていたでしょうね。正直ボクも、ロクスリー君には失望しましたよ…。」
マカロニさんも、口調こそ冷静だけど、オイラを嫌悪の籠った目で見つめて来る。
「ユリン…マカロニ…ロクスリー君を…責めたら…アカン…。失敗は…誰にでもあるんや…。」
ミケさんが、息も絶え絶えながらも、オイラを気遣って、言を紡ぐ。
「リーダー…。」
「ミケさん…。」
その痛ましい姿に、ユリンさんも、マカロニさんも、庇ってもらったオイラも、言葉を失う。
その沈黙を破る様に、
「マカロニさん。タイニーダンサーとゲズC²の損傷は酷いですし、修理しないとダメですよね?」
トニーさんが、マカロニさんに、問う。
「ええ、2機とも、かなり酷い損傷ですから、急ピッチで修復しないとダメですね。それがどうしたんです?」
眼鏡を中指でクイッと上げながら、マカロニさんがトニーさんに、そう聞き返すと、
「そこで、提案なのですが、この機に、タイニーダンサーとゲズC²を含めた皆さんのG全機を、ボクが修理と整備と補給をしようかと思うんですけど、どうでしょうか?」
と、トニーさんが、提案して来た。
「トニーさんが、G全機を修理と整備と補給…ですか?」
「ロクスリーさんの今回の凶行を止められなかったのには、ボクにも責任がありますし、正直マカロニさんは、最近、働き詰めでしたから、大変だったでしょうし、マカロニさんに、たまには息抜きをして貰おうかと思いまして。」
出過ぎたマネで恐縮です。と言わんばかりの、少し縮こまった感じで、トニーさんが、マカロニさんに問う。
「非常に嬉しい提案ですが、良いのですか? ボクたちのGは、かなりクセが強いですよ?」
マカロニさんが、逆に、そう問うが、
「良いんじゃないの? トニー君の整備と補給の腕は、前に見せてもらった通り、良い腕前なんだし、マカロニも、たまには休まなくちゃ。」
と、ユリンさんが、トニーさんに賛同の意見を述べる。
「トニー君は、良い子やね…。マカロニ、ご厚意に甘え…。」
ちょっと前よりは、少しは、息が整ってきた感じの声で、ミケさんがトニーさんを称え、マカロニさんを諭す。
「分かりました。タイニーダンサーとゲズC²の修理だけは、流石に丸投げすると作業が難航しそうなのでボクがやりますが、整備と補給の作業は、ご厚意に甘えて、トニーさんに、全部、お願いします。」
「了解です。少しでも、マカロニさんが楽を出来る様に、頑張ります!」
トニーさんの、その意気込みに、
「トニー君は、本当に良い子だよね。物欲で迂闊な事する誰かさんと違って…。」
と、ユリンさんが、オイラを睨みながら言ってくる。
そのユリンさんの無理からぬ言動に、胸が締め付けらる感じがして、
「あの…。ゲズC²の整備と補給だけは……せめて……せめてオイラがやります…。」
と、提案するに至った。
このオイラの提案を聞いて、
「まあ、そのくらいは当然よね。今回の失敗の度合いからしたら。」
「下手に弄って、Gを壊さないで下さいね。」
ユリンさんとマカロニさんが、刺々しい言葉を紡ぎ出してくる。
その目は、オイラを、到底容認できない、と、言わんばかりに細められている。
「ユリン! マカロニ!」
ミケさんが、お二人を、たしなめると、
「さて、ユリンちゃんも、部屋に行こうかな。」
「ボクは、タイニーダンサーとゲズC²の修理を終わらせて、その後は、トニーさんに甘えてゆっくりさせてもらいますかね。」
と、ユリンさんは、居住ブロックに帰り、マカロニさんは、Gデッキに向かった。
「ロクスリー君…。あんまし気にしたらあかんで…。失敗は誰にでもある…。次に同じ事をせぇへんかったら良いんや…。うちは全然気にしてへんし…。皆は、うちのことを心配してくれる余りに…ちょっと勢いが付きすぎているだけやねん…。しばらくしたら…また楽しい仲間に元通りや…。そやから…な…。」
ミケさんの、その気遣いの言葉に、胸が締め付けられる。
「…はい……。」
ただ、そう答える事しか…今のオイラには…できなかった…。
天国の父さん、母さん。
オイラは……オイラは…ッ‼




