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第三話 ─異世界転生2─

 

 ここ、どこだ━━━━!?邪神は!?


 零は不信感と疑念に囚われながら周りを見回す。

 しかし、そんな零の様子など関係なしに、目の前の黒いローブを纏い、目元まで隠した男に腕を引っ張られ、引きずられるように歩き出す。


「さあ、勇者様!こちらです!!」

「え?」

「王様に謁見を!!」

「え!?」


 何!?展開早くないか!?


 零が唖然と、引きずられるように向かったのは大きな大きなとても豪奢な扉の前。

 しかしローブの男は何を言うでもなく、その扉をバンと無遠慮に開き、大声を上げる。


「王様!!勇者召喚に成功しました!!!」

「おお、素晴らしい!!よくぞ参られた、勇者様」


 おお、これが王様……。


 零は無遠慮にならない程度にサッと王様を観察する。


 王様は緩いウエーブがかかった長い白髪に豊かな白い髭を生やし、高い鼻梁に柔らかな眼差しの優しそうな印象であった。

 零は密かに安堵したが、続く言葉に驚愕した。


「さあ、善は急げじゃ」

「ハッ。強制ステータスオープン!!」

「な!?」


 勝手にステータス開いて見るってのか!?そんなのプライバシーとか、せめてひと言とかないのかよ!?


 零が驚愕に目を瞠ってる間にも、先程のローブの男に零が自分で開いた時よりも大きなステータスプレートが、その場にいた大勢の貴族や騎士、兵士たちにも見えるように開かれる。

 ━━その瞬間、皆からざわめきが広がる。


「なんと!!!!」

「なんてことだ!!!過去にこんなにも弱いステータス見たことない!!!」


「━━え?」


「最弱だ……子供の方が強い……」

「もしや赤子よりも低いステータスではないのか!?」

「なんという……嘆かわしい……」

「失敗だ……」

「この勇者は失敗だ……」


 周りからいくつもいくつも『失敗』『最弱』の言葉が紡がれる……。


 ━━は?何言って……。最弱!?失敗!?


 零は周りの言葉に恐怖で身が竦むのを感じた。

 そんな周りの声を鎮めるように王様が手で制す。


「よさぬか」


 ━━王様!!やっぱり優しい━━


「弱ければ鍛えれば良い。すぐに生きた階層━ダンジョンへ行くのだ」


 そこには、最初に見た優しげな表情などなく、弱い者をいたぶることに愉悦を見出す、下卑たニヤケ顔のゲスな王がいた━━。


「え!?な、なにを━━」


 零が文句を言いかけるが、誰一人聞く耳を持たずに王の話に賛同し、零は引っ立てられるように武器庫に連れて行かれる。


「ちょっ、なに━━」


 零はそこでも文句を言いかけるが、兵士たちは聞く耳持たずに勝手に話を進める。


「これにするか?」

「ああ、良いんじゃね?」

「最弱の勇者様にはピッタリだ!」

「ハハッ!!違いねえ!!」


 そこで零が着せられたのはどう見ても練習のために作られた、ハリボテな鎧だった。


「こ、これじゃ、お、俺死んじゃうんじゃ━━」

「ハハハ、何を言っておいでです、勇者様!勇者様なんですから死ぬ訳ないじゃないですか!!」

「いや、ダンジョンて、魔物とかいるんですよね!?こんなハリボテじゃ━━」

「そろそろ行くぞ」

「行きましょう、勇者様」

「え、あ……」


 零はロクに何も言い返せないままに、引きずられるように馬車に押し込まれ、ダンジョンへと向かうハメになってしまった━━━。



 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




 なんでなんでなんで!?どうして異世界転生━召喚?分からない━それがされて、こんな目に遭わなきゃなんだ!?俺はここで殺されてしまうのか!?━━最弱だから?そんなことってあって良いのかよ!?ふざけんな……!!


 そこまで考えたときに、ふと思い出した。この世界に零を突き堕としたのは、自分が作ったゲームの邪神じゃないのか?と。邪神が零に『堕ちてしまえ』と呪詛を吐き、この世界にやってきた━━。


 でも、邪神は、そう。たかがゲーム……それも自分が作ったゲームのラスボス……こんな力あるわけがない━━でも、今の現実は?これは夢で、自分はトラックに轢かれて、病院で寝ているんじゃないのか?夢なら、きっと醒める。きっと━━。


 そこまで考えたとき、馬車が止まり、扉が開かれる。


「勇者様、ダンジョンにつきましたよ」

「え、あ……」

「さあ、大丈夫です。私たちもいますから!」


 そうニッコリと頼もしく兵士たちは笑いかける。

 その優しくも頼もしい笑顔に、力を少し抜いた零は、ここで殺されるんじゃないもんな。レベル上げに来たんだもんな、と思い直し、鎧とは逆に立派な剣と盾を持って馬車を降りた。


 そこには、大きな紋章が両方に付いた両開きの扉があった。


「ここがダンジョンの入り口ですか?」

「はい、勇者様。この紋章は絶対にモンスターが出てこないように施されたものなんですよ」

「へえ」


 零は興味津々に扉を見やる。


 ━━でっかぁ!!


 驚きのあまり間抜けに大きく口を開き、零が三倍になったぐらいの扉に見惚れてると


「ほら、勇者様。門に見惚れてないで先に行きますよ」

「あ、すみません!初めて見たのでびっくりして」

「みんな最初はそうですよ。勇者様は戦闘は初めてですか?」

「あ、はい。武術とか、見るのは好きなんですが、実際に何かと戦ったことはないです。……戦闘訓練とかしなくて大丈夫なんですかね……?」

「ハハハ、大丈夫ですよ!剣は振り下ろすだけで斬れる国宝級の剣ですから、闇雲に振ってもモンスターを倒せます。それに、何事も実戦が一番の上達への道ですから」


 確かに……と呟いて零を隊の真ん中に置いた兵たちはダンジョンへと入って行った。


 まず一階━━入るとゴツゴツとした岩場が続く道が奥へと伸びている。中は思ってたのと違って明るかった。


「意外と明るいんですね」

「ああ、ダンジョンは階層によりますが、基本、全体的に明るいですね。空気中に光を放つ砂が舞ってるのだとか……。まあ、解明されてることはあまりないのですが、ダンジョンに棲むモンスターは弱くても経験値は沢山持ってます。あ、ちょうどいいのが来ましたね」


 見ると奥から二本足でヨチヨチ歩く、もぐらのような魔物が一匹やってきた。


「あいつは低レベル中の低レベルです。子供でも簡単に倒せるモグロンというモンスターです。一見無害そうですが、すごく好戦的で、倒すまでこっちに噛み付いてきます。さあ、気付かれる前に!!」

「はい!!」


 隊列は止まり、零のために戦いやすいように周りに展開する。

 零は使いやすい片手剣を両手で持ち、自分の腰くらいの大きさのモグロンへ上段から剣を振り下ろす。

 すると剣は恐ろしく簡単にモグロンを真っ二つに斬り裂いた。


「おおっ!すげえ!!簡単に倒せた!!」

「さすがです、勇者様!ほら、見てください、モグロンの身体が地面へと飲み込まれるでしょう?これがダンジョンが『生きた階層』と呼ばれる所以です。死したものをダンジョンが飲み込むんです」

「へえ、すごいな」

「あ、勇者様、モグロンの魔石がありますから、取ってください。それを剣の柄の黒い魔石に当てると吸い込んで、剣が強くなります」


 モグロンが遺した茶色い小さな魔石を手にした零は、剣の柄にある黒い魔石に当てる。すると剣は魔石を飲み込み茶色く光った。


「おお、すごいっ!!ゲームみたいだ!!」


 零はまるでゲームの世界にやってきた気分になり楽しくなった。


「その調子です、勇者様。この階ではレベル上げしにくいですから、もっと下層に行きましょう。そこまで私たちがしっかりお守り致しますので」

「はいっ!お願いします!!」


 そして零たちは下へ下へと降りて行く。


 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


 10階は降りただろうか。隊列は止まり、目の前には穴が空いて見えた。

 そこには大小様々なモンスターたちがいた。どうやらワニの形のモンスターらしい。


 零がそこを覗き込んでいると、ふいに後ろからドンッと強く押された。


「っえ……!?」


 モンスターが眼前に迫るのをまるでスローモションのように感じている零の耳に、兵士たちの笑い声が聞こえた。


「ここから一人で出てこい」


  先程までの優しい顔からは想像がつかない声が、言葉が、表情が兵士たちの口から飛び出す。


「まあここから出てこれまい━━」

「お前はここで死ぬんだからな」

「最弱勇者なんていらないんだよ」

「ハハハハハハッ」


「まっ、い、痛いッ!!うああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ……」


 ワニのモンスターに四肢を噛みちぎられ、肉を砕かれる想像を絶する痛みが零を襲う。──生きながらに喰われる。想像を絶する痛みと恐怖と絶望の中、零は意識を手放した……。



 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


「……い」

「零!!」


 ハッと目を覚ますと目の前には自分を心配そうに見下ろす千夜と小夜がいた。


 ━━今までのは全部夢だったのか?あんなに痛かったのに?


「零、目が覚めないから心配したんだよっ……うぅっ」


  小夜が泣きながら横たわる零の顔を両手で包む。

  千夜は零の身体をギュッと抱き起こし涙ながらに


「零だ、け、なんだ、ぞ!!ここ来てから……ッ、俺らはすぐに目が覚めたのに……ッ、零だけピクリともしなくて……心配だったんだ、からな……ッ!」


  良かった……と、声を詰まらせながら安堵の声を上げる。


「え、あ……ごめ、ん……?」


  零が状況を理解出来ぬままとりあえず謝罪を口にすると、しょうがなさそうに双子は零を離すと、辺りを警戒した表情で見回す。


「零……」


 千夜の声に顔を上げた零は既視感のある風景が目に映る。


「どこだろうな、ここ」


 そう言って睨むように辺りを見渡す千夜の言葉でようやくしっかりと意識を周りに向けると、そこはさっき最初に召喚された魔法陣の部屋だった。




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