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第一話 ─はじまりの系譜─

空が明るみを増して、朝を告げる。

 そんな時刻にもかかわらず、青を基調とした部屋にはパソコンのキーボードを叩く音が響く。その主は黒く長い睫毛に縁取られた大きな青い瞳を輝かせ、烏の濡れ羽色の艶やかな黒髪の両サイドだけ長くした髪の毛を払い退けながら文字を打ち込んでいく。


 モニターに映し出されるのは金髪の人物の3Dモデルと、無数の英数字。

 カタカタと小気味いい音を響かせて次々に命令文━プログラムだ━を綴る。


 最後の一文字を打ち込むと、少年は笑みを浮かべた。


「っよし!徹夜しちゃったけど学校行くまでに出来上がったぞ!テストプレイを兼ねてまた千夜(せんや)小夜(さよ)にやってもらおう!」


 時計を見ると、すでに7時を回っていた。


「あ、やべ、さすがに用意しないと間に合わないな。急ご」


 そう言って、書き出しまで終えたパソコンの電源を落とし、深月零(みづきれい)は、慌てながらもしっかりと朝ご飯を食べて家を出た。


 零は不摂生な睡眠だが、食欲旺盛な育ち盛りの15歳高校一年生なのだ。食べることと作ることはなんでも好きな好奇心も旺盛。

 猫のようなしなやかな身のこなしから『子猫のチート』なんてよく分からない(不名誉だと零は思っている)呼び名がある。


 ……ほんとに不名誉だ。


 学校近くの信号は赤だ。ここに捕まると長い。

 チッと舌打ちひとつ、零は今日の予定を見ようとスマホを取り出した。


 その画面にひとつのお知らせ。

 零の憧れる、異種格闘技チャンピオンの筋肉モリモリな『剣堂剛助(けんどうごうすけ)』のインタビューが出ていた。


「お!剣堂兄貴のインタビュー更新じゃん!やった!」


 朝から幸先良い!と喜び勇んでサイトを開く。

 と、頭とスマホを持ってない右腕に強い衝撃を感じる。


「はよっす零!今日も腕が乗せやすくていいぞ!」

「おっはよー、零!今日もかわいかっこいいぞ〜!!」


「痛いよ!千夜!小夜!!」

 腕置きじゃねえよ!かわいかっこいいじゃねえよ!とツッコミつつも目線はスマホの剣堂剛助へ。


「悪い悪い」

 そう軽い調子で零に謝るは幼馴染で親友の月岡千夜(つきおかせんや)。さらりとした薄い色彩の茶髪に紫色にも見える瞳、切れ長の涼しげな目元が麗しい正統派イケメンである。身長も零より10cm以上高いハイスペックマンだ。周りからは、眉目秀麗・文武両道、クールな二次元から来た王子様と呼ばれている。


「ごめーん!」

 これまた軽い調子で謝るのは、千夜の双子の姉で零の幼馴染の月岡小夜(つきおかさよ)。どことなく千夜に似た涼しげだが大きな瞳、サラサラの髪の毛の頭部に三つ編みを施し、バレッタで留めて、後ろはポニーテールにした活発な美少女である。こちらも文武両道・天真爛漫で二次元から来た妖精と呼ばれる。

 身長はほぼ零と同じくらい。


 三人はいつも一緒にいるため、付いたあだ名が、三人共『月』が付き、くっついてるのと合わせて『お月見団子三姉弟(きょうだい)』だ。

 まるで少女漫画みたいで、零は気に入ってない。

 そんな零も、美少女と見紛う可愛い見た目、華奢な体躯、月岡双子の寵愛を受ける寵姫という大不名誉な二つ名が付いている。

 零は大変不服である。


 月岡双子は二人が話しかけてるのに、未だこちらを見ないことにすねかけながら問いかける。

「何見てるの?」


 そこで零のスマホを覗くと、『異種格闘技世界チャンピオン・剣堂剛助』の文字と、日に焼けた褐色の肌に筋骨隆々な、The・漢な写真が目に入る。インタビュー記事のようだ。


「ええっ!?また剣堂剛助見てんの!?」

「うんっ!憧れだからね!」


 驚愕の声を上げた小夜に対して食い気味に零は意気揚々と返す。


「れーいーー。俺のが男前だろ?」

「千夜はただのイケメンでチャラいからダメ。論外」


 イケボ出して千夜が零に囁くが、零は秒で冷たく切り返す。


「ろ、論外……!?」

 ガーンと音が聞こえる表情で項垂れる千夜。

 そんな千夜を無視して小夜が問う。


「千夜はいいとして、零はなんでそんなゴツいのがいーの?」

「そらやっぱり男と言えば筋肉じゃん!ワイルドで力強いなんて最っ高にかっこいいじゃん!!」


 キラキラした目で語る零は可愛い。しかし内容がよくなかった。

 思わずワイルドで力強い筋肉モリモリな零を想像してしまった千夜小夜は、あまりの似合わなさに号泣した。


「ダメだ!!零は今のままで十分かっこいいから!!!」

「お願いだから今まで通りでいて!!!」


 はあ……と溜め息ひとつ。

「はいはい、ちゃんとゲーム作ったから。インドアだよ、俺は、どうせね」


 その言葉で月岡双子はテンションが爆発的に上がり、零を両側からギュギュッと抱き締めた。


「零のゲーム完成したのか!?やりたい!!!!」

「この前少しやらせてもらったやつよね!?あれ面白かった!!!!楽しみ!!!」


 力加減を知らない子供のように抱き締めてくる双子に、零は悲鳴を上げる。


「痛いよ!!!千夜!!小夜!!!いちいち引っ付くな!!!!!」

「「そんなの零が可愛いから仕方ない」」

「ハモるなバカ双子!キリッとすんな!!」


 コントのようなことを繰り広げてるうちに少し遠巻きに同級生たちが集まっていた。

 クスクスと笑い声と、やっぱりくっついててお月見団子三姉弟だねという声があちこちから聞こえる。

 鬱陶しくなった零は、千夜小夜を突き放す。

 はぁ、ったく、何がお月見団子三姉弟だよ。少女漫画だよ。それって男としてどうなん━━━


 目の前には大型トラックがあった。


 え?と思う前に零は強い衝撃と、千夜と小夜の零を呼ぶ絶叫を最後に暗闇に包まれた━━━━。

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