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暖かな想い  作者: vicious
1章
8/15

ぬくもり

今回は里佳の日記から始まります。

──9月1日


無くしていた生徒手帳が見つかりました。


これで学食で昼飯がまた食べられます。


そういえば、新しく転校生がやってきました。


名前は荻野裕樹さん。


運悪く廊下でぶつかったんですけど、彼が私の手帳を拾ってくれてました。


今思うと、実は運が良かったんですね。


驚いたことに彼は私のクラスに転入することになりました。


しかも席は私の隣。


仲良くやっていけるといいな。






──9月2日


いつの間にか紫苑さんと一也さんと仲良くなっていた裕樹さん。


それで、裕樹さんの歓迎会にみんなで一緒にカラオケに行きました。


裕樹さんの歌はとても上手でした。


90年代の懐かしい曲ばかりでしたけど、どれも良い曲で。


一也さんと勝負して勝ったみたいですし、やっぱり只者じゃないようです。


でもカラオケが終わって帰るとき、一瞬だけ裕樹さんは切なそうな顔をした気がしました。


私の気のせいなのかな?






──9月3日


朝から裕樹さんの具合が悪そうでした。


声を掛けてみると『大丈夫だ』と言ってたけど、なんだか心配で。


結局、授業中に突然保健室に行くと言って、私が付き添うことに。


そのとき、思わずちょっときつい口調で叱ってしまいました。


ちょっと言い過ぎたかな?


そしたら裕樹さんは急に倒れてしまって保健室へ。


無理を言って保健室に残って看病してたら、うっかりと寝てしまいました。


やっぱり寝顔見られたよね?


かなり恥ずかしかったです。


でも、裕樹さんは元気になったみたいで良かったです。


それとちょっと気になることを言っていました。


家には親がいないって。


もしかしたら裕樹さんの家も……。






──9月5日


今日はボウリング♪


前に行ったのはゴールデンウィークだったかな。


相変わらず紫苑さんは強かったです。


でも、一番面白かったのは何と言っても裕樹さん!


隣のレーンにボウルが転がって行った時はすごく笑いました。


その後はゲーセンに寄りました。


裕樹さんとエアーホッケーしたんですけど、そこでも裕樹さんは面白かったです。


おでこに強くぶつけたみたいでしたけど、大丈夫だったかな?


そういえば、裕樹さんは1人暮らしをしているようです。


だから保健室で家に親がいないと言っていたみたいです。


寂しいのは私だけじゃないんですね……。


エアーホッケーの後、裕樹さんにいきなり楓さんと言われました。


昔の友達だって言ってたけど、どんな人なのかな?


もしかしたら、ホントは恋人だったりするのでしょうか?


今思えば、私は全然裕樹さんのことを知っていないんですね。


それがなんだか寂しく思えてきて……。


だからお願いした。


私にも楓さんという人と同じようにプレゼントされたいと。


少し意地悪な頼み方だったかな?


でも、裕樹さんは笑って『任しといて!』って言ってくれました。


それがとっても嬉しくて。


裕樹さんにお願いしたのはお父さんがくれたのと同じくクマのぬいぐるみ。


今は両方とも部屋に並べてあります。


そういえば、お父さん元気にしてるかな?


お父さんが家を出ていってから数回しか会ってない。


また、会いたいな。






──9月7日


朝から体の調子が悪いみたいです。


風邪をひいちゃいました。


夕方に裕樹さんが訪ねてきた時は驚きました。


私のためにミカンを剥いてくれました。


そんな裕樹さんがお父さんみたいに思えてきて。


なんだか、とても甘えたくなって。


だから私は裕樹さんにお願いしました。


小さい頃にお父さんに手を握ってもらってから寝ていたことを思い出して。


眠るまで手を握っててくださいと。


裕樹さんは何も言わずそっと握ってくれた。


お父さんのぬくもりと同じで、とても安心用させてくれるような暖かさ。


でも、思い出すと少しドキドキする。


もしかしたら、私………。


裕樹さんのこと好きなのかな………?






今日の分だけ書いてパタンと日記帳を閉じる。

読み返すだけで恥ずかしい気持ちになる。

私、なんてこと書いてるんだろう。



「………裕樹さん」



今でも思い出せる裕樹さんのぬくもり。

もっと味わっていたかった。

ずっと味わっていたかった。


10年前に私の前から無くなってしまったぬくもり。

寝る前に握ってくれていた手。

その手の感覚と一緒だ。



「もう一度だけでも握ってもらいたいな……」



でも、そんなこと言えないよ……。

手を握ってほしいなんて。

あの時は何で言えたのか不思議だよ。


時計を見ると11時だった。

結構治ったけど風邪引いて休んだんだし、もう寝よう。

明日、どんな顔して会えばいいのかな。











晩ご飯を食べてからすぐにベッドに崩れ込んだ。

今日は疲れたな。


裕樹さんの顔を見るたびに、手を握ってもらったことを思い出して。

なんだか触れたくて。

悟られまいと平然を装って……。



「私、どうしちゃったんだろ……」



目を閉じて思い出すのは、裕樹さんのぬくもり。

それと同時に蘇る、私が小さい頃のお父さんの記憶。

でも、それも途中までしかない。


両親は私が小学生の頃に離婚してしまった。

どうしてかは分からない。

唯一理解できたことはお父さんがいなくなったことだけ。


ねぇ、どうしてなの?

どうしてお父さんは私を置いてどこかに行っちゃったの?

どうしてお母さんと離婚したの?


2人が離婚したのなら、私の存在って何なのだろう?

私は何のために生まれてきたの?

お母さんとお父さんが愛しあったからじゃないの?


こんなこと考えたくないのに……。




「なんだか寂しいよ……。ぬくもりが………欲しい」



ぬくもりを欲している。

裕樹さんのぬくもりがどうしても欲しい。

せめてもう一度だけでも……。



「お母さん、ちょっと友達の家に行ってくる」



時刻はまだ7時。

私は上着を手にとって家を飛び出した。











ベットの上に寝っ転がって、里佳さんのことを思い出す。



「絶対に様子がおかしかったよな」



目があったら、微妙に視線が泳いでいる。

話しかけたら、少し慌てふためる。


いつもと態度が明らかに違っていた。

一体どうしたのか。

俺、何か変なことしたかな?



ブブー…、ブブー…、ブブー…



今のは決してオナラではない。

俺のケータイが振動した音なので誤解しないでほしい。

それにしても誰だろうか?


ケータイを開いて画面を見る。

すると、予想だにしなかった人から電話がきている。

何で彼女から電話が?



『千堂 里佳』



画面には間違いなくそう書かれていた。

疑問に思いながらも、俺は通話ボタンを押した。



「もしもし」


『…………………』


「里佳さん?」


『……………裕樹、さん』



明らかに彼女の声がおかしい。

今にも消えゆきそうな沈んだ声だった。



「どうした?何かあったのか!?」


『今………裕樹さんのマンションまで来てるんです』


「俺のマンションだって!?」


『今から会えませんか?』


「え?今から?」


『お願いします……』



まあ、あんな様子のまま帰らせられないか。

俺は里佳さんと会うことにした。



「わかった。今自動ドアを開けるから入ってきて。4階で部屋番号は402だから」


『はい。ありがとう………ございます』



プツ……、プー…プー…プー



急に電話が切れて、無機質な音しか聞こえなくなった。

通話を終わってパタッとケータイを閉じる。


一体どうしたんだろう?

わざわざ訪ねてくるなんて、絶対におかしいよな……。

まあ、とりあえず部屋でも片付けよう。


エロ本なんか無いけども、綺麗にしておいたほうがいい。

散らかっていたマンガを棚に片付ける。

………うん、こんなもんかな。



ピーンポーン♪



タイミングを見計らったようにチャイムが鳴る。

一応、インターホンで応答する。



「はい」


『私です、裕樹さん』


「うん。今行くから待ってて」


『はい』



女の子が訪ねてきたというのに、玄関まで歩いているとき不思議と緊張はなかった。

湧き上がってくる感情は不安と心配だけ。


玄関のドアの前に立つ。

この向こうに里佳さんがいる。


俺はゆっくりドアを開いた。


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