似ている2人
「いやー、それにしても楽しかったねー」
「究極のお笑い芸人がおったでな」
「下手な芸人よりずっと笑えましたよね」
俺たちはボウリングをやり終えて一息ついていた。
残ったジュースを飲みながら雑談している。
ゲームの結果は言うまでもないだろう。
さっきから聞いていれば散々な言われようである。
ていうか里佳さん、あなたもそっち側の人なのか?
味方が0人の孤立無援とはこのことを言うのか。
「お、むこうにゲーセンあるやん。後で寄ってかへんか?」
「いいねー。あたしレーシングゲームは得意なんだよね」
「ゲーセンですか。私もいいですよ」
………ゲーセンか。
そういや、最近は全く行ってなかったな。
楓さんとの数少ない思い出の場所の1つである。
エアーホッケーとかして遊んだっけ。
「裕樹さん?」
「え?」
「どうしたんですか?ボーっとして」
「ああ。ちょっと久々に運動したから疲れちゃってな」
「そうですか。それで裕樹さんもゲーセンに行きますよね?」
「おう、行く行く」
ってしまった!とっさに行くって言っちゃったな。
まあ、別にいいか。
そこまで気にすることもないだろう。
残ってたジュースを飲みほして俺たちはゲーセンに足を運んだ。
というワケでゲーセンにいるんだが、何をしようか。
一也と紫苑さんはレーシングゲームで勝負をしに行った。
よって今は里佳さんと行動している。
ボウリングと協力し合って繁盛しているらしく、置いてあるゲームも沢山ある。
しかし、逆にここまで多いと何をすればいいのか迷ってしまう。
「あ!あれなんてどうですか?」
「あれって?」
「あれですよ。名前は確かエアーホッケーだったと思うんですが……」
マジかよ。よりにもよってエアーホッケーを選ぶのか。
しかし、せっかくの提案を無下にするのも気が引けたので承諾した。
「勝負に勝った方がお金を払うのでどうでしょうか?」
「そうだな。あいつらも勝負してるっぽいし、俺たちもやるか」
「はい。では取りあえず私がお金を入れますので」
そういって里佳さんは100円玉を投入した。
同時にホッケーの台がライトアップされる。
「準備はいいか?どうやら俺側のほうに円板があるらしい」
「はい。いつでもいいですよ」
「じゃあ、行くぞ。それっ!」
直接ゴールを狙わず壁に当てて入れにいく。
が、外見とは裏腹に里佳さんも運動神経はなにかと悪くはない。
俺のシュートをブロックして反撃を仕掛けてくる。
どうやら実力はそこそこ近いらしい。
これは熱くなりそうだ。
…………
………
……
…
熱戦の末、結局負けたのは俺の方だった。
まあ、別にそこまではいいんだ。問題は………
「クスクスクスクス」
「…………」
「す、すみません。でも、おかしくて……」
偉大なる学者、アイザック・ニュートンよ。
既に死んでいるところ悪いが、俺に教えてくれ。
リンゴが木から落下する理由はあなたの説明でよく分かった。
ならどうして水平に打った円状の物体が宙を舞い、俺の顔を直撃するのか。
「クスクスクス」
まだ笑ってるし……。
しかし、何でこうまでも円板が俺のおでこに直撃するのだろうか。
俺に対する恨みでも持っているのか、この円板は。
『あんたの腕が下手だからだよ』
ふと、そんな声が聞こえた気がした。
……まさか、ニュートンが?
何千年前の亡霊と会話をした決定的瞬間だった。
テレビの心霊番組にでも投稿しようかな。
「……きさん。裕樹さん。」
「ほあ?」
珍しくオカルトな世界に入り浸っていた俺だが、誰かの声で現実に引き戻された。
それにしても随分とマヌケな声をあげてしまった。
なんだか最近やけに恥ずかしい思いばかりするのは俺の気のせいだろうか?
「大丈夫ですか?またボーっとしてましたけど」
「あ、ああ。ちょっと冥界の扉ってやつを開いていた」
「……?それはそうと、裕樹さんってたまにボーっとしますよね」
「そうか?」
「はい。……もしかして妄想癖とかお持ちですか?」
「そんなワケあるかい!まあ、たまに昔のこととか思い出してたりするんだよ」
「昔のことですか。例えばどんなことですか?」
「え?」
「裕樹さんの昔話。少し聞いてみたいです」
「俺の昔話ねぇ。聞いててもつまらないだけだと思うぞ?」
「じゃあ質問です。こっちに転校してくるまでどこに住んでたんですか?」
ちょっとちょっと。きちんと人の話聞いてましたか?
里佳さんは俺の言葉をきっぱりと無視した。
この人って時々強引な時があるよな。
それにしても、いきなり答えづらい質問をふっかけてきた。
ここは正直に答えるべきなんだろうか?
彼女にはあまり嘘はつきたくない、ついてはいけないような気がした。
「う〜ん。特に決まった家はなかったよ」
「え?あの……もしかしてホームレスだったんですか?」
ここで俺は盛大にずっこければいいのだろうか。
いくらなんでもそれは無いわ!
「違う違う。俺ん家って転勤族なんだよ。だから、マンションとかアパートを転々と引っ越してきた。ホームレスではない」
「す、すいません……」
「いや、別にいい。たぶん俺の説明が悪かったんだ」
「あの……1つ聞いてもいいですか?」
「うん。何?」
「裕樹さんはまたすぐに引っ越してしまうんでしょうか?」
里佳さんは少し上目づかいでこちらを見ている。
そんな仕草にドキッとしながらも、俺は返答を口にする。
「いや、今回は俺一人だけでここに来たんだ。だから今は一人暮らしなんだよ」
「だから家に親がいないって言ってたんですね……」
「え?何て言った?」
最後に里佳さんが何か言った。
しかし、スロットのメダルが出てくる音にかき消されて聞き取れなかった。
「いえ、なんでもありません」
「そうか?ならいいけど……」
「あ!あそこにクレーンキャッチャーがあります」
はぐらかされたような気がしなくもないが、深く考えないことにした。
里佳さんはクレーンキャッチャーのウインドウの中を覗き込んでいた。
「何か目星いものでもあるのか?」
「はい。あのクマさんなんかが可愛くて……」
「じゃあ、俺が取ってやろう。1回につき100円か」
「え、そんな。別にいいですよ」
「ふっ、俺に任せておけ。こういうのは得意なんだよ。前に来た時もうさぎのぬいぐるみを一発で……」
そこまで言って先の言葉が紡げない。
ふと、昔の記憶が蘇る。
そういや前に楓さんと来たときも、クレーンキャッチャーをやったっけ。
…………
………
……
…
『あ!あのうさぎ可愛いな〜』
『それは暗に取ってくれと要求しているのか?』
『普通この場面なら、俺が取ってやろうか?ぐらい言ってもいいんじゃないユーキ君?』
しぶしぶ財布から金を取り出して機械の中へと投入する。
あのうさぎに100円も費やされてしまった。
こうなったら何が何でも一発で仕留めてやる。
心なしかウインドウのなかのうさぎが俺を恐れているように見える。
今の俺の心はライオンそのものだ。そんな顔してようが絶対にお前をゲットしてやるぜ。
もしや、この心境が例のライオンハートというやつだろうか?
『なんか気合が入ってるね』
『ああ。俺は百獣の王だからな』
『よく意味が分からないけど、頑張ってね』
…………
………
……
…
と、まあこんな感じだった。
意気込みあってか一発でうさぎのぬいぐるみを捕まえることができた。
そういや、俺が取ったからって『ユウちゃん』なんて名前付けてたな。
「裕樹さん?」
「ん?ああ、わかった。ちゃんと俺が取ってあげるよ楓さん」
「え?……楓さん?」
「あ…………」
やってしまった……。
よりによって里佳さんに面と向かって楓さんと言ってしまうなんて。
彼女は訝しげな顔をしてこちらを見ている。
まずい、急に心拍数が上がってきたぞ。
とにかく誤解を解かなくては。何か言わないと……
「「あの……」」
声がハモってしまった。
なんか前にもこんなことがあったような気がする。
「あ、えっと……何?」
「あの……楓さんって誰ですか?」
「ああ、なんていうかな。昔の友達だよ。前に一緒にゲーセンにきたことがあって、クレーンキャッチャーでぬいぐるみを取ってあげたんだ」
「…………」
「えっとな。それでそのこと思い出してたら間違えちゃったんだ。その……ごめん」
頭を下げてそう言ったが、里佳さんは何も言ってこない。
やはり怒っているのだろうか。
「………ぬいぐるみ」
「え?」
「私にもクマのぬいぐるみを取ってください。そうしたら許してあげます」
「あ……。うん、取ってあげるよ。任しといて!」
こうして俺はクレーンキャッチャーでクマのぬいぐるみを取った。
もちろん言うまでもなく一発で。
はい、と渡すと眩しいくらいの笑顔でありがとうございますと言われた。
その笑顔だけでも取った甲斐があったかな。
その後、里佳さんの持つぬいぐるみを見た一也と紫苑さんにヒューヒューと冷やかされたが。
ゲーセンから出た時はもう夕方だった。
見上げた空は茜色に染まっている。
途中まで4人で帰っていたが、一也と紫苑さんは別方向なので今は里佳さんと2人きり。
俺たちはのんびりと並んで歩いていた。
特に会話があるワケではないが、雰囲気は悪くなかった。
ふと、彼女を見るとぬいぐるみを大事そうに抱えていた。
「それ、そんなに気に入ったのか?」
「それって?」
「ぬいぐるみだよ。なんか大事そうに抱えているからな」
「はい。ぬいぐるみをプレゼントされるのって10年以上前の誕生日にお父さんに貰って以来ですので」
「そっか。まあ、大切にしてやってくれ」
「はい」
そういや楓さんはぬいぐるみに名前付けてたな。
あのクマはどうなんだろう?
あらかじめ名前があったりするのだろうか。
「そいつって名前とかあるのか?」
「名前ですか?そういえば見たところ何も書いてないですね」
「なんかのキャラクターってワケでもないんだな」
「じゃあ、私がつけましょう。そうですね………裕樹さんに貰ったのでユウキにしましょう」
楓さんといい、あなたも俺の名前ですか。
まあ別に悪い気はしないんだけど、なんだかなぁ。
改めてクマのぬいぐるみを見る。
確かに愛らしい顔をしているが、こいつの名前はユウキ。
俺と同じ名前のユウキ。
「なんかそれ嫌だな」
「別にいいじゃないですか。ねぇ、ユウキさん?」
「なあ。今どっちに話しかけたんだよ?」
「ふふ。さあ?どっちでしょうか」
微笑む里佳さんは少し意地悪だった。
まあ、いいか。なんだか良い笑顔してるもんな。
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