表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暖かな想い  作者: vicious
2章
15/15

AfterStory:裕樹の手帳その3

「どこに落とした……」


俺は教室の床を這い回っていた。

まさかあんな恥ずかしいことを書いた手帳を落とすなんて。

手帳に名前を書いたことが裏目に出たか。


もしも、だ。

あの内容を誰かに見られたら……


「ぎゃああああ」


なんというか、想像しただけで死にたくなってきた。

マジでどこに落ちているんだマイ手帳よ。


もう放課後だっていうのに帰るに帰られん。

時計を見るともう5時になっていて、空の色も濃くなりつつある。


「どうかしましたか、裕樹さん」


聞き慣れたその声に思わず反応して立ち上がる。


「あ、里佳さんまだ残……って、ぎゃああああ!」


「裕樹さん酷いです。彼女の顔見て悲鳴上げるとは何事ですか」


「な、何でもありまふぇんよ?」


「(こうなっている原因は、やっぱりあの手帳のせいですよね)」


「は、ははは」


やばい、とてもじゃないが耐えられない。

今だけは里佳さんと一緒にいると俺の精神が持たない。

何とかしてこの場は退散してもらおう。


「裕樹さん、一緒に帰りませんか?」


どうしてこうも事態が悪い方向へと転がっていくのか。

俺が一体何をしたっていうのでしょうか、神様。

里佳さんには悪いけどここはきっぱりと断らなければ。


「駄目……ですか?」


しょんぼりした顔を浮かべて見つめられる。

そういえば今日は里佳さんと一緒にいることが少なかったな。

手帳を気にし過ぎて彼女を傷つけてしまったら元も子もないじゃないか。


「いいよ。一緒に帰ろう」


「では行きましょう。ふふ」


夕陽のようなやわらかい笑顔を目の当たりにして、もう他のことがどうでも良くなった。

俺、完全に惚れているなぁ。







下駄箱で靴を履き替えて外に出てみると、凍てつくような寒さが首元を襲う。

カレンダー上ではもうすぐ春だというのに、まだまだ冬は続きそうだ。

昼間は晴れていてさほど寒くなかったが、朝晩はまだ厳しい。


俺はマフラーと手袋を装備した。

暖かくなったが、1つ残念なことがある。

それは手袋をしていると直に手を繋ぐことができないということだ。


周囲を見渡してみると、外にいる人がほとんどいなかった。

ここからは死角となっているグランドにはまだ運動部がいるのだろう。

掛け声がここまで響いてくる。


「どうしました?ぼーっとして」


「いや、人がほとんどいないなぁと思って」


すると里佳さんは、はっとした顔をする。


「そうだ。やってみたいことがあるんですけど」


あまり自分から主張しない彼女からのお願い。

これは男として、もとい彼氏として承諾せねばならないな。


「なんなりと」


「では失礼して……」



むぎゅ。



「なっ…」


「ふふふっ」


俺の左腕に里佳さんの腕が、そして身体が、密着している。

あまりにも予想外かつ大胆な彼女の行動に俺はどぎまぎしてしまった。


「今日はこのまま帰りましょう」


「う、うん」


彼女が歩き出すと同時に俺もそれにつられて歩き出す。


まさか女の子と腕を組んで帰ることになろうとは。

非常に落ち着かない。

全校生徒の前で里佳さんに告白したときに比べたら、どうってことないシチュエーションだろうが。


悟られぬようにこっそり深呼吸する。

少し落ち着いてみると、彼女から温もりを感じた。

冷えた身体が徐々に熱を帯び始める。


「こうしてると、あったかいな」


「私も、あたたかいです」


そして匂いを感じた。

俺より頭1つぶんくらい背が低いので、右隣には頭が目と鼻の先にある。

彼女の使っているシャンプーの香りかな。


頭を少し傾げると、頬が髪に触れる。

シルクのような肌触りとはこのことを言うのだろう。

どうして女の子の髪ってこんなにサラサラしているのか。

俺の髪なんてバッサバサだぞ?


「裕樹さん」


「ん?」


「実は私、謝らなくちゃいけないことがあるんです」


「謝らなくちゃいけないこと?」


里佳さんはポケットから何かを取り出して俺に差し出した。

なんだか見覚えのある。

さっきまで探していた手帳と酷似していた。

というか、これって俺の手帳じゃん。


「なぁんだ、里佳さんが拾ってくれ……くれ……」


とてつもなく嫌な予感がした。

いや、予感というかほぼ確定的だろうな。


「里佳さん……もしかして手帳の中を見た?」


「ごめんなさい」


『うわああああああああああああ!!!』


俺の中の羞恥心が激しく暴れだした。

今にも体の外に現れそうな衝動なので、目を強くつむり、歯を噛みしめ、なんとか踏みとどまろうとした。

だが、もうどうにも止まらない。


どうせ知られてしまったのだから……


「里佳さん!」


「は、はい」


里佳さんの顔に手を添えて、その唇に口づける。

俺の唇よりも冷たく、乾いていた。


恥ずかしさが頂点まで達したせいか、俺の中の何かが俺を後押しする。

ただ自分の欲望に任せて里佳さんを求めた。

ああ、唇を離したら彼女はどんな顔を俺に見せるだろうか。


少し怖くなった。

だがそれでも息が少し苦しくなるまでキスを続けた。


「ぷはぁ」


「……っはぁはぁ」


ようやく唇を離すと俺と里佳さんは肩で息をした。

里佳さんは心ここにあらずといった表情を浮かべていた。

やりすぎたかもしれない。


「ご、ごめん。つい自分を抑えられなくて」


「……はっ」


どうやら本当に心がどこかに飛んでいたらしい。


「ず、ずるいです!」


「はい?」


「私の方からキスしたかったのに……」


なにこの人とても可愛い。


「なんか今日の里佳さん、積極的だね」


「だって……手帳にイチャイチャしたいって書いてありましたから」


手帳のこと言うのやめてくれ。


「私、裕樹さんに嫌われたくないですから」


「……」


「だから、私からしようと思ってたんです」


「1つ聞きたいんだけどさ、さっきのキスはどうだったの?」


「そ、それは嬉しかったですけど」


「だったら嫌われたくないからキスする、なんて考えはやめて欲しいな」


「え?」


「俺はさっき、里佳さんとキスしたいからキスしたんだ」


うわ、言ってて恥ずかしくなってきた。

耐え切れず里佳さんから顔を逸した。


しかし、里佳さんの手が俺の顔を正面に向けさせられる。

そのままキスされた。

さっきとは違って少し唇が温かい。


「お返しです。キスしたかったから、キスしました」


「うん」


そしてもう一度。





その夜に気づいたのだが、手帳には新しく


・キスしたい


という項目が丸っこい字で記されていた。

手帳シリーズはこれで終わりです。

できれば感想等お願いします。

「手帳シリーズをもっと続けてほしい」とか「別のアフターストーリーを見たい」という方も感想に書いてください。

もしかしたら、その気になるかも?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ