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暖かな想い  作者: vicious
1章
10/15

理由を求めて

ドキドキドキドキ



さっきからうるさい心臓の音は何とかならないのか。

いくら女の子が風呂に入っているからって、別にその後に何かするわけでもないのに。

ああ、もう!落ち着け俺!



里佳さんは俺の家に泊まることにした。

アリバイ作りは紫苑さんに協力を頼んだ。

こんな感じで。


…………

………

……


「実は里佳さん俺ん家に来てるんだけど、ちょっと事情があって今夜は泊めることにした」


『(゜д゜)』


「………もしもし?聞こえてるか?」


『え?あ、ごめんね。ちょっと驚いちゃって……』


「まあ、普通驚くわな。で、里佳さんのお母さんに適当に言って誤魔化してくれないか?」


『別にいいけど……後日ちゃんと事情を聞かせてね?』


「ああ。それと、さっきはごめんな。電話途中で無視してしまって」


『何のこと?普通に会話して通話終わったじゃん』



…………は?

どうなってるんだ?


まさかあの時に電話をジャックされた?

俺に成りすましたダミーが紫苑さんと会話してたとか?

部屋に盗聴器みたいなものでも仕掛けられているのだろうか?

後でコンセントとか確認しておこう。



「あー。そ、そういやそうだったなあ、はは。じゃあ、そういうことでバイバイ」


…………

………

……


というワケで心配はいらないのだが……。

里佳さんは俺の家で風呂に入らざるを得なくなった。

そして出てくるのを部屋で待っているのだが、落ち着かない。

何か落ち着けることはないだろうか。


あ、そうだ!

1つやることがあったじゃん。

よし!里佳さんが出てくるまでそれに没頭していよう。


早速準備にとりかかる。











「あ、あの。すいません、お待たせしました………って、コンセントのカバーなんか外して何してるんですか?」


「ん?ああ、これか。ちょっとした防犯対策だよ」


「しっかり者なんですね」


「犯罪の多いこの世の中だからな。よし、これでオーケーだ。さて、俺もさっさと風呂に入って………」



里佳さんの湯上り姿を直視した。

紅潮した頬に水分を含んで艶やかな髪。

適当に貸したTシャツとズボンが彼女の魅力を半減させているものの、心臓に負担をかけるには十分だった。

俺は既に死んでいるかもしれない。


体はカチコチになりまくっている。

もしかして、これがドラマとかで刑事がよく言っている死後硬直ってやつだろうか?


やっぱり心の準備をしておくべきだった。

それを怠った分、代償はとてつもなく大きかった。



「〜〜〜〜〜〜〜〜」


「?」



もはや声にならないほどのパニックに陥った。

それでもなんとか理性を奮起して、極力里佳さんの姿を見ないように風呂場に向かった。



服を脱いで風呂場に入ると、いつもと違った匂いがした。

いうならば、女の子の香りだ。


勘弁してくれ………。


だが、習慣を変えるのも嫌なので湯船に浸かる。

もう何も考えないことにした。

そういえば、この湯船にも里佳さんが……。



「だあーー!!考えるな俺!!!!」



決意して5秒と経たずに想像してしまいそうになった。

だが、俺は首を思いっきり振ってそれを拭い去る。



『最近思うんです。私は何のために産まれてきたのかって』



不意に里佳さんの言葉が蘇る。

彼女は何のために産まれたのか。


不安のもとは自分の存在意義ということか……。

そんなこと考えなくてもいいのに。






なんだか風呂に入ったのにドッと疲れが寄せてきた。

ドライヤーで髪の毛を乾かして、里佳さんのいる俺の部屋へ足を運ぶ。



コンッコンッ!



「俺だ。入っていいか?」


「いいですよ」



自分の部屋だっていうのに、俺は律儀にノックした。

こんなこと初めてしたよ……。

俺はドアノブを回して部屋に入った。


里佳さんは俺のマンガを読んでいた。

部屋の主が入ってきたにもかかわらず、読みふけっていた。



「そのマンガ、面白いだろ?」


「はい、とても……。あれ?裕樹さん、いつの間に……」



はい?あなたさっき返事したじゃないですか。

さっきのは生返事だったのか?


まあ、変に気まずくならなくてよかった。

最悪お互いが照れ合って会話にならないと予想してたからな。



「まあ、とにかく決めなければならんことがある」


「と、言いますと?」


「寝る場所だ。とりあえず俺はソファで寝るから、里佳さんは俺のベッドで寝てくれ」


「え?そういうワケには……。私がそのソファで寝ます」


「客にそんなことできん!」


「むー。それなら私と裕樹さんが一緒に寝ることになりますが、よろしいですか?」



その言葉に俺はフリーズした。

タスクマネージャーも開けないほどの深刻なフリーズをさらに超えた。

もう、本体が文字通りに氷づけになっているような。



「あ、あのー。大丈夫ですか?」


「ああ、なんとかな。あんまり変なこと言わないでくれ」


「それが私のお願いでもダメですか?」


「え?」


「1人になりたくないんです。一緒に寝てくれませんか?」











向きあうのは恥ずかしいので背中合わせで寝ることにした。

俺たちが交わした約束はお互いに絶対に振り向かないこと。

それを条件に一緒に寝ることにした。


だが、それでも里佳さんからは甘い匂いがするワケで。

当然ながら寝られるはずもなく。

俺はカーテンの隙間から外を見ていた。



「裕樹さん……。起きていますか?」


「ん?ああ」


「ごめんなさい」


「どうして謝る?」


「私、迷惑ばかりかけて………」


「気にするな」


「ごめんなさい。私、自分がどうにかなっちゃいそうで………」


「そんな時もあるさ」


「……優しいんですね」


「……そんなことない」


「ねえ、裕樹さんは答えられますか?私が何のために産まれたのか……」



里佳さんは俺に問を投げた。


俺にもそんなことを考えた時期があった。


どうして俺は産まれてきたのか。


何のために命を授かったのか。


そして俺が辿り着いた答えは………。



「その問いは間違っているんだよ………」


「え?」


「何のために産まれてきたか……ではない。

俺たちは結果として産まれてきたんだよ。そこに何らかの理由は無いんだ。

だから俺たちは生きていくんだ。産まれてきたことに意味を残すために。

…………きっとそれが人生というものなんだと俺は思う」


「……………」


「だから生きていこうよ。きっとお父さんもどこかで見守ってくれてるさ」


「……………ひっく、…うぅ…うぁ」


「ん?」


「ゆう、……ひっく、…ゆうきさん……私、約束……ぐすん……破ります」



そう言って彼女は俺の肩を掴んで、背中にその顔を押しあてた。



「うううぅ…ぁ…っうあああぁあん……あああぁ!」



声を上げて泣き叫んでいた。

その涙は俺の背中を次第にぐっしょりと濡らしていく。

俺はずっと黙っていた。


彼女の中で溜まっていたものが溢れだしてくる。

行き場を失くしていた想いが出口を見つけて押し寄せる。

俺はそれを背中で受け止めた。



「ひっぐ……ひっぐ……止まら、ないよ……」


「いいさ。好きなだけ泣けばいい」


「うぅ……わぁああああ〜ん!」



……ごめんよ、楓さん。

俺、今度こそ大切な人を悲しませたくないから。

だから、許してくれるよな?



「里佳さん、俺もそっち向いていい?」



俺がそういうと里佳さんはパッと顔を離した。

どうやらOKということらしい。



「よっと」



改めて里佳さんのほうを向いたが、薄暗くて顔がはっきりと見えない。

でも、そんなことどうでもいい。


里佳さんを強く抱きしめた。



「あのさ、まだ言ってないことがあるんだ」


「っすん……え?」


「俺、里佳さんのことが好きだ」


「……!」



たぶん、今照明をつけたら俺の顔は真っ赤だろう。

きっと里佳さんの顔も。



「………ずるいよ」


「うん?」


「こんな時に好きなんて言われたら私……」


「そうか、なら何度でも言ってやるさ」



今度こそは絶対に離さない。

そう心に誓って。



「俺は千堂里佳が好きだ」


「………うん。私も裕樹さんが好きだよ」



俺たちは互いを確かめるようにキスをした。


もう迷わないように。


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