第1話 はじまりの物語
思いつくまま、自分のために書き連ねていきたいと思っております!たまたま出会って読んでくれたかたが、
楽しんでくれたら、最高です!
この四月から高校一年生になる井上 ユウスケ。
この物語は、この日本にはどこにでもあるような、ありふれていながらもとても美しい海辺の街で始まる。
高校への初登校日、ユウスケは自宅から自転車でバス停まで向かっていた。
海沿いの街によくあるような、
急勾配の坂道を下っていく。
やがてユウスケの前に、慌てた様子で走っている同じ学校の制服を着た女生徒の姿が現れた。
学校行きのバスの発車まであと5分。
自転車のユウスケならともかく、
この女生徒はこのままでは間に合いそうもない。
ユウスケはブレーキをかけ、並走しながら話しかけた。
「う、後ろ乗りますかー?」
ユウスケは自分が上手く声が出せない感じがした。
「あ、え、いいんですか!?」
声をかけられ、驚いたような表情で立ち止まる女生徒。
ユウスケが緊張しながらもちょっと笑顔でうなずくと、
女生徒も少し緩んだような笑顔をみせた。
女生徒の名前は鈴本ちぐさ。
小、中学校ともユウスケとは同級生であったが、これまで一度もまともに話したことはない。
ただ、この春から同じ高校へ進学することは知っていた。
「あ、2人乗りしたことありますか?」
「あ、いえ、ないです!
でも映画でならみたことあるから…」
笑い声の混じった返事をしながら、
ちぐさは上手に荷台に座った。
「お、俺は初めてなんだけど…」
ぎこちなく、ハンドルをなんとか安定させながらユウスケはペダルを漕ぎだした。
「わわ…」
ちぐさも必死でバランスを取ろうとユウスケの肩につかまる。
坂道の力も借りてスピードが出てくるにつれ、2人を乗せた自転車もやがて安定し、2人の緊張もほぐれてくる。
「ありがとう、助かったよー!」
ユウスケに届くように大きめの声でちぐさは礼を言った。
「あ、いや」
ユウスケはそれだけ言った。
「ユウスケ君だよね、また一緒の学校だね。よろしくね。」
「うん、よろしく…。ていうか鈴本さん、俺のこと知ってたんだ。」
「え?」
ユウスケ達の住むこの地区は10年ほど前に三つの学校が統合されていた。
そのため、一学年に8つのクラスがあり、同級生と言ってもほとんど知らない生徒もいるのが普通であった。
ちぐさは成績優秀で、容姿も人目をひくものがあるため、多くの生徒に知られてる。
一方、ユウスケは目立つようなこともなく、部活動にも参加していないため、同じクラスにでもならなければ、あまり人に知られることもないような生徒だった。
「あ…ほら、ユウスケ君って音楽やってるでしょ」
「え?」
驚くユウスケ。
自分が音楽活動をしていることは友人でも知らないことだったので、ちぐさの口から出た言葉に、
ユウスケは本当に驚いていた。
ユウスケが学校の友人にも知られず音楽活動をしていることには訳があった。
それはその音楽性だ。
ジャズ、ブルース、ファンク、ソウル。
黒人音楽のなかでもルーツミュージックと呼ばれるような音楽。
同級生では話の合う仲間も見つからないだろうと、ユウスケは早々に見切りをつけて黙っていた。
「パパが、昔からジャズ?ブルース?何かそういうのが好きみたいで、家でもよく流れてたんだ。」
「!!!」
ユウスケは声も出さず、思わず振り返った。
自転車がバランスを崩しかけたので、また急いで前を向きなおしたが。
そんな様子をみて、ちぐさは笑いながら話を続ける
「私もそういう音楽好きだから、去年のクリスマスに、港の近くのライブハウスにパパが連れて行ってくれたんだよね。
そこでユウスケ君を見たんだよ!」
(…まじかよ、俺のボロクソだった初ライブ。)
「それが私がはじめて見たジャズの生演奏。」
バス停は大きな国道をはさんで向かい側にある。
国道の下のトンネルを抜けて行く。
坂道からは海がみえる。
太陽の明かりを反射してキラキラと光っている。
2人は今日はじめて話が出来た嬉しさと、
大好きな音楽の話ができる相手を見つけた喜びを隠すことなく、笑顔のままトンネルを抜けようと入っていった。
しかし2人がその後、
トンネルの向こう側に現れることはなかった。