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天使のミラクル

 あたし達は、光景を目の当たりにしていました。まるで、空想の世界です。

 「なんだよこれ・・・現実なのか?」

 「普通の人と違っていたのは、こういうことだったんだわ」

 「どういうことだよ」

 「人間ではない、何かを感じ取っていたの」

 「じゃあ・・・この中に・・・」

 「酒井さんはいるわ。グレーの鬼よ」

 酒井さん達は、ドラゴン兄弟と互角に闘っていましたが・・・

 ジョリッ

 酒井さんの胸に、ドラゴンの爪が切り刻んでいきます。

 「うぐぁ・・・」

 傷が思ったよりも深く、胸から血が流れ出ていました。

 ドラゴンは、二体揃って思いっきり息を吸いました。一瞬、口から何かを()き出してきました。あの夜見た、青い炎です。酒井さん達は、青い炎を浴びました。すぐに炎は消えましたが、その場に倒れてしまいました。

 「どうやって殺したのか分からなかったけど・・・

 二人で金融会社に乗り込み、ドラゴンに姿を変える。その爪で切り刻んで殺し、炎を口から出して燃やしたのね」

 それを聞いた二体は、

 「その通りだ。だがわかったところで、俺たちを捕まえる奴はいない」

 「あとはお前らだけだ。まずは・・・弱っちぃコイツからだ」

 ドラゴンの(するど)い爪を前に出し、あたしに襲ってきました。

 「やめろぉ!」

 タケヤは勇気を振り絞り、思いっ切り叫びました。

 「兄ちゃんに手ェ出すんじゃねぇ!」

 その言葉を聞いて、ドラゴン兄弟は慌てふためきました。

 「コイツ男だったのか・・・」

 二体はタケヤの姿を見るなり、

 「まずテメェからぶっ殺してやるよっ!」

 今度はタケヤが襲われるハメに。

 「きゃぁぁぁぁ」

 悲鳴を上げたその時、タケヤとドラゴンのあいだに、フラッシュが起きました。

 「うわぁぁぁ」

 ドラゴン兄弟が目を押さえていると、赤い腕時計(ウオッチ)に変わりました。それを見たあたしは、ママの書いたお話を思い出しました。

 「タケヤ、腕を前に出して!」

 タケヤも思い出したのか、あたしの言う通りにしました。ウオッチは、タケヤの腕に見事はまりました。

 「チェンジ!エヴォリューション!」

 オレンジの炎がタケヤを包みます。炎が消えると、タケヤの姿が変わっていました。

 ルビーみたいな赤い肌、光り輝く黄金の長い髪、エロくて(たくま)しい筋肉、頭には角がいっぽん、その名も…

 「レット!」

 ママのお話に出てくる、キャラクターが現れました。

 人間から強そうな鬼に変わったので、ドラゴン兄弟はビビッていました。

 「相手は一体だ!二人でぶっ殺すぞ!」

 「おう!」

 二体はレットに、襲い掛かりました。パワー(あふ)れるパンチを、冷静にかわしています。今度はレットが攻め込みます。

 “強い、強いわ…”

 レットの攻撃が当っています。二体が疲労困憊(こんぱい)すると、レットは(こぶし)を合わせました。

 「ハァーッ!」

 拳から炎が現れ、

 「フレイムパーンチ!」

 「うわぁぁぁぁぁぁぁ」

 炎の玉が、二体のみぞおちに当たりました。あまりの熱さに、うずくまってしまいました。

 あたしの目の前に、ステキなペンダントが現れました。

 「受け取れ!コイツらの心を(いや)してくれっ!」

 ペンダントに手を伸ばし、呪文を唱えました。

 「メシア」

 ペンダントは、魔法のステッキに変わりました。音楽が流れ、感じるままに踊っています。曲が終わると、

 「神様」

 ステッキが耀(かがや)き出しました。

 「苦しみからお救いたまえ。ホーリーシャワー」

 聖なる光が、二体を包み込みました。ゴリマッチョなドラゴンから、人間の姿に戻りました。

 「許して下さい…天使様…」

 泣きながら、あたしを見て言いました。そして、死んでしまいました。

 あたしが助かったのは、タケヤが電話をかけてくれたからです。あたしが店を出た後、男が一人出ていくのを見ていました。しかも、誘拐されるところも。

 「俺はこれで」

 タケヤが変身を解こうとしたので、

 「待って」

 スマホを取り出すと、

 「ハイッ、ポーズ」

 カシャッ

 後日。警察が動いてくれたことにより、一つの暴力組織が壊滅(かいめつ)しました。


 事件から一週間が経ちました。夏休みのドリルは、すべて終わっています。読書感想文は資料を作り、原稿用紙に書くだけです。

 自由研究はこれからやります。テーマは、『日本のLGBT』です。図書館とネットで資料を集め、イベントにも参加します。

 そして今日。あたしとタケヤ、酒井さんとの生活が始まります。

 「パパ。ママ。あたしは今…幸せよ」

 窓を開け、空を見て言いました。

 「カノンくーん、ホテルのバイキングに行こう」

 「ハァーイ」


 追伸

 変身したタケヤの写真は、スマホの待ち受けにしています。






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