さらわれた天使
今日はお昼から二人でおでかけです。
タケヤは白いTシャツに、ブルーのショートパンツ。
あたしは、先週の土曜日に買ったシャツワンピを着ました。水色に白のストライプで、ひざ上3センチ。
歩いて7分、地下鉄に乗ってさらに7分、映画館にたどり着きました。
二人でいっしょに、今話題のアニメ映画を見ました。
そのあとはカフェに行き、タピオカミルクティーを頼みました。席に座ると、
「火事のこと聞かせてくれよ」
「その夜。もうすぐ家に着くという時に、帰る道と反対側に青く光っているのが見えて…
行ってみたら、ビルが燃えていたの。119番に電話して、消防車が来たんだけど…なかなか消えなくて。
少ししてからおまわりさんが来て、このことを話したというわけ」
「他には?」
「火事を見つける前に、一台のバイクとすれ違ったわ」
「どんなの?」
「赤いバイクに、星条旗のヘルメット」
「そいつ、もしかして…」
「おそらく犯人よ。おまわりさんも、消防士さんも、放火の可能性が高いと言っていたわ」
お店の時計をちらっと見て、
「本屋さんに行ってるわね」
「おう」
お店を出て1分、信号が赤に変わりました。
待っていたその時、後ろからハンカチで口を押さえられ…
気絶してしまいました…
気がつくと、廃墟の中にいました。起き上がろうとしましたが、起き上がれません。気絶している間に、麻酔をかけられていました。
目の前に男性が二人、歳は20代前半。一人は、黒に近いブラウンの髪。着ているのは、白のワイシャツと黒のスラックス。
もう一人は、金に染めた長い髪を、後ろでまとめています。白いタンクトップに、ジーンズが決まっています。二人の手にはピストル…
「よぉ。オマエ、俺に見覚えはあるか?」
「いいえ、ないわ」
「だろうな。じゃぁ、赤いバイクに乗ってたヤツと言えばわかるか?」
「…わかるわ」
「俺はその男だよ。もうすぐテメェは死ぬんだ。何か言いたいことはあるか?」
その時、あることを思い出しました。
「お兄さんたち、13年前に起こった火事の被害者でしょ?」
二人の手から、ピストルが落ちました。
「はぁ?何言ってんだ?」
「13年前…銀行の支店長だったあなた方のお父様、ある日お金が足りないことに気付く。横領していた部下を見つけ、きつく注意をする。
後日、謝りに来た部下を迎え入れたが、お父様はその部下に殺される。その様子を目の当たりにしたお母様も、口封じのために殺害。自宅を放火された」
推理が当たっていたのか、二人とも絶句していました。
「…どうしてそれを」
「パパが刑事だったから。ただの火事として片付けられたけど、パパは事件だと見抜いていたわ。
ご両親を殺した犯人は、殺害された、金融会社の社長さん。凶器は、実弾に改造したモデルガン。殺さ れた場所はリビング、火元はお父様とお母様の遺体。当時、お父様の部下だった社長さんは、ご両親を殺した後、ゴミ袋に入れたガソリンを置き、凧糸を結んで導火線にし、マッチで火をつけて殺した。
事件に切り替えた後、パパはずっと、あなた達を探していたわ」
「オヤジさんは?」
「6年前に死んだわ。最後まで、あなた達を助けようとしていた。でも、助けてあげられなかった。
辛かったでしょ?助けてあげられなくて、ごめんなさい」
二人の顔を見ると、怒りと悲しみに震えていました。
「こんなんで許せるかっ!」
「確かに、あなた達の言う通りだわ。でも、あなた達を探していたのは本当よ。パパだけじゃないわ、あなた達の親戚全員探していたわ」
あたしの話を聞いて、怒りが消えていくのがわかりました。
「あなた達がヤクザになって、罪のない人たちを傷つけていると知ったら…天国のお父様とお母様が泣いているわ。
これ以上…罪を重ねないで」
二人が戦意喪失していると、誰かが助けに来ました。
「警察だ!知立院零、知立院豪!数々の殺人、この子の誘拐、諸々の罪で逮捕するっ!」
「酒井さん」
目の前には刑事が5人、犯人はもう逃げられません。しかし、二人は笑っていました。
「みんなまとめてブッ殺してやるよ…」
一人がそう言うと、二人は雄叫びを挙げました。その瞬間、人の姿が見えなくなっていました。
そこにいたのは…ファンタジーに出てくる、ゴリマッチョなドラゴンでした。
ドラゴンを見て逃げ出す中、酒井さんともう一人が残りました。
「松本、俺たちもやるぞ!」
「はいっ!」
二人は目を閉じ、空手の構えのポーズを取ると、黒い闇が全身を包み、姿を変えていきました。闇が消えると、二人の鬼がいました。
酒井さんは、ダークグレーの肌に、黒い髪。松本さんは、コーヒー色の肌に、金色の髪。二人とも角は二本で、筋肉質なカラダです。そして…闘いの幕が上がりました。
すぐあとに、誰かの足音が聞こえてきました。
「兄ちゃん!」
「タケヤ…」




