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第1章 第9話 「戦闘 ~生か死か~」

今回は、戦闘シーンを一挙に納めましたので、少し長くなっています。

いよいよ、第1章も佳境です。

 アッシュが苦虫を潰したように言う。

 「転移ゲートを使って、ディアノから逃げますぞ」

 「逃げるったって、どこへ?」


 「中央都市ですぞ」

 「中央都市?」

 「そう。そこなら、この魔物の群も襲ってはこないと思いますぞ」

 俺の質問に、アッシュが走りながら短く答えた。


 「もし、襲ってきたら?」

 「あまり、考えたくはないですがな。もし、中央都市にも魔物の群がやってくるようなら、星船(スターシップ)を使って、別のワールドに行くしかないですな」

 「別のワールドか。クエストで色々なワールドに行ってはいるが、まさか、こんなカタチとなるとは……」

 俺はやるせない気持ちになった。

 長い間、ディアノを拠点に活動してきたのだ。

 当然、『始まりの街』ディアノや、この『始まりのセカイ』に愛着がある。

 それなのに、逃げるようなカタチで、ディアノを離れなければならないなんて――。

 おそらく、ここにいる、メンバーは皆口に出さないが、同じ気持ちだろう。


 走りながら、珍しく、美雪の方から俺たちに打診をしてきた。

 「私が殿(シンガリ)を務める。三人とも先行して」

 美雪が少し速度を落とす。


 俺には、美雪の提案が自殺行為に思えた。

 「殿って?ミユキには、あれらの魔物達のレベルが分かったのか?」

 「いいえ。さっき回答したはずだけど、分からなかった」

 「なら、危険だろ?殿なんかしている場合じゃないだろう?」

 「大丈夫、私はヒトじゃないから。少なくても、囮にはなれるわ。私の計算では、三人の生存確率は少なく見積もっても50%は改善するはず」

 美雪は、まるで他人事かのように、淡々と話を一人で進める。自分の命の勘定を忘れているかのように。


 俺と美雪の剣呑とした会話に、アッシュが割り込んできた。

 「囮などと、いけませんぞ、美雪殿。この『グッドモーニング』のモットーは、Let's take care of yourself。すなわち、『いのちをだいじに』ですぞ」

 「しかし、クランのメンバーが全滅するよりは、……」

 「ノン、ノン。ここは、素直に、リーダーである小生の言うことを聞いてもらいたいですな」

 「……、分かったわ。でも、最後尾は私が務める。私が、レベルも攻撃力も一番高いから。もし、私に何かあれば、私に構わず先に行ってくれて構わないわ」


 美雪は断固として、自分の主張を譲る気がないようだった。

 美雪の意見はいつも明瞭簡潔に理論整然としていて的確だ。

 それだけに、論理的に説き伏すということは難しかった。


 アッシュが、やれやれと言う。

 「ふむ、仕方がないですな。では、最後尾は美雪殿に任せて、小生は先頭を行きましょう。盾役の騎士の本領発揮ですな。もし、小生に何かあれば、それこそ、三人とも先に行って構わないですぞ」


 アッシュのボケに、俺が、すかさず突っ込みを入れる。

 「おい、『グッドモーニング』のモットーは、『いのちをだいじに』じゃなかったのかよ?」

 「ハハハ。そうでしたな。しかし、三人ともまだ若い。ここは最年長者で、リーダーである小生の言うことを聞いてもらいますぞ」

 アッシュは、こんな状況なのに、ガハハハと大口を開けて大胆に笑う。

 いや、むしろ、こんな状況だからこそ半ば冗談混じりに笑うのかも知れない。


 「そういう、縁起でもないことを言うのはやめて!」

 アッシュの冗談に、エレナは少し目を赤く腫らしながら抗議した。

 少し鼻声で上擦っている。

 無理もない、先ほどの光景がショッキングだったのだろう。


 俺は気を使い、エレナに声をかけた。

 「エレナ、先に行け。お前が、一番レベルが低いんだし、ヒーラーなんだから」

 「うん、分かった。ありがとう、マサト」


 エレナが何か言ったようだったが、戦闘の音が激しくて、聞きそびれてしまった。

 「え、何だって?すまん、走りながらだから、最後よく聞き取れなかった。あと、エレナがいつも俺の耳を引っ張るからな」

 「もう、知らない。うるさい、バカトマト」


 そんな調子で会話をしていたときだった。

 生理的に不快な姿をした、王冠を被った、俺たちよりも何倍も巨大な蠅のモンスターが一匹、エレナをめがけて飛んできた。

 キャラクターデータシートを確認すると、モンスター名『蠅の王様』ベルゼブブ、レベルはアンノンだった。

 俺は、思わず叫ぶ。

 「あぶない、エレナ!」


 俺の声にアッシュがすぐさま反応する。

 「ここは、小生がくい止めますぞ。離れて、エレナ殿!『鉄壁の守護』」

 エレナを突き飛ばすと、アッシュは自身の身の丈ほどある『騎士の盾』を構えて、スキルコマンド『鉄壁の守護』を発動させる。

 自身の行動を全て守備に回すことで、回避力・防御力を大幅にアップさせるスキルだ。

 また、自らヘイトを高めることで、味方への攻撃も、身代わりに引き受けることが出来る。


 「慈悲深きミトラ神に請う。彼の者に御身の御加護があらんことを。ホーリーシールド」

 突き飛ばされて地面を転がりながらも、すぐさま体勢を整えると、エレナも間髪入れずにアッシュに守備力増強の魔法をかける。

 アッシュの身体が緑色のオーラで包まれる。


 「Gyaaaaaaaa!」

 ベルゼブブは、叫び声を上げながら鍵爪のようになった、右前足を振り降ろしてくる。

 その一撃を、アッシュが『騎士の盾』で受け止める。

 いや、正確には、受け止めようとした。


 しかし、ギン、という鈍く割れる音がするとともに、『騎士の盾』が砕け散った。

 「なんと、防具破壊ですと!?」

 アッシュが自身に起きたことが信じられないとのばかりの声を上げる。

 ベルゼブブの鋭い右前足がそのまま、アッシュを袈裟切りに襲った。


 「グファァァ」

 アッシュの口から苦悶の声が漏れる。

 アッシュのHPバーのほとんどが、ダメージを表す赤色に一瞬にして染まる。

 アッシュは、倒れそうになるが、たたらを踏み、なんとか堪えてみせた。

 パッシブスキルの『騎士道:守護騎士の精神』を発動させ、HP1の状態で奇跡的に持ちこたえたのだ。


 「どいて、マサト、エレナ。私がやる」

 美雪が短くそう言うと、すかさず空に手をかざす。

 何もない空間から溶け出さすようにして、マジックバスターライフルを取り出した。

 スキル『猫型ロボットのポケット』の効果だ。


 スキル『猫型ロボットのポケット』は、アイテムの大きさなどに依らず、何もない空間からアイテムを取り出したり、逆にアイテムをしまったりすることが出来るスキルだ。

 これを使えば、大型のアイテムをイチイチ持ち運ぶ必要性がなく、両手が空くというメリットがあるが、当然、取り出す際にワンテンポ遅れて、隙が生まれるというデメリットもある。


 しかし、マジックバスターライフルのような大型武器の場合は、持ち運ぶとなると、必然的に行動が制限されるという場合(たとえば受け身がとれないなど)があり、持ち運ぶ派と取り出す派で6対4程度で分かれているのが実状だ。


 「彼のモノを撃ち滅ぼせ、我が光の刃よ」

 ベルゼブブめがけて、美雪はマジックバスターライフルの引き金を一切の躊躇なく引いた。

 砲身から、美雪のSP(スキルポイント)MP(マジックポイント)をレーザーに極限までに圧縮変換した、目映いばかりの光と熱の奔流が、一直線にベルゼブブに向かう。

 昆虫特注の節目のある腹を綺麗にとらえて、轟音とともに爆ぜる。

 並のモンスターであれば、この一撃で(ホフ)るか、大ダメージを与えることができるのであるが……。


 「Gyeee?」

 一瞬、ベルゼブブは気持ちの悪い鳴き声を上げるが、肝心のHPバーはほとんど動いていなかった。

 いや、一ミリたりとも微動だにしていなかった。

 「ダメ、固い。全然、通らない」

 美雪が吐き捨てる。


 「アッシュから離れろ!」

 俺は腰の鞘から夫婦剣『新月・満月』を抜き出すと、ベルゼブブに飛び掛かり、目に突き刺した。

 夫婦剣『新月・満月』は、俺のレベルで手に入れられる武器の中で、最上級の中々のレアアイテムなのだ。

 しかし、目に直撃した筈なのだが、カキーンという音と共に、剣はベルゼブブの目に刺さらずに弾かれる。

 美雪のマジックバスターライフルですらダメージが通らなかったのだ、()もありなんだった。

 カウンターを危惧して、俺はすぐさま飛び退く。


 完全にレベル差というヤツだった。絶望的な状況だった。


 「マサト、相手は昆虫系。レベル差は大きいけど、もしかしたら『殺虫剤』が効くかもしれない。私の合図とともに、『閃光弾』と一緒に投げて。それから、エレナはアンチライトと、その隙にアッシュにヒールを!」

 機転を利かした美雪が矢継ぎ早に指示をとばす。


 美雪に指摘されて、俺はハッと気がついた。

 『The Universe of Worlds』では、昆虫系に有効な『虫除けスプレー』や『殺虫剤』なるアイテムがあるのだ。

 特に、『虫除けスプレー』を使用すると、自分より低レベルの昆虫系のモンスターとはエンカウントしなくなるので、森などのフィールドでは必需品なのだ。


 ベルゼブブは、先ほどの敵対行動(ヘイト)で、俺と美雪を次のターゲット定めたようだった。

 その巨体に似合わず、俺や美雪の方に体を素早く向けると、ベルゼブブは前脚を大きく振り上げて、特殊攻撃のモーションに入った。


 ――まともに喰らえば、死ぬ――。

 俺の脳裏には、先ほどの†クロウド†やその他の冒険者たちの凄惨な末路が一瞬横切った。

 しかし、今は行動することでしか活路が見いだせない場面だ。

 俺は覚悟を決めて先程の死のイメージを振り払うと、美雪と同様、『猫型ロボットのポケット』で、空間から赤と青と白地を基調とした缶の『殺虫剤』を取り出した。


 幸運なことに、ベルゼブブは特殊攻撃のため、僅かながら俺たちよりも行動が遅れているようだった。

 わずか数瞬、しかし、場合によっては一秒にも満たない刹那が、リアルタイムのVRMMORPGでは命運を分けることすらあるのだった。


 狙い澄ましたように、美雪が叫ぶ。

 「今よ!」

 美雪のかけ声に合わせて、俺は、『殺虫剤』と『閃光弾』を投げ飛ばす。

 ソレらをめがけて美雪がマジックバスターライフルを放った。

 マジックバスターライフルは『殺虫剤』と『閃光弾』を打ち抜き、大きな破裂音とともに、大量のガスと、目を覆うばかりのまばゆい光を放った。


 「慈悲深きミトラ神に請う、我らに御身の御加護があらんことを。アンチライト!」

 ギリギリのところで、エレナも俺たちに防御呪文をかける。

 俺たちの視界が、光属性系の攻撃から視界を奪われないように、保護シールドが張られる。


 一方のベルゼブブは、目くらましの『閃光弾』と、昆虫系にとって脅威となりうる『殺虫剤』をまともに喰らった。

 「Gyeeeeee――!!!!」

 身の毛もよだつ気色悪い悶え声を上げて、ベルゼブブは振り払うような仕草で、前脚をジタバタと藻掻いた。

 特殊攻撃を中断させて、隙が生まれた。

 行動不能(スタン)の判定だ。

 しかし、やはりレベル差で、HPバーは微動だにしていなかった。


 「大丈夫か、アッシュ?」

 俺は、すぐさまアッシュに駆け寄り、自分の肩を貸した。

 「いやはや、かっこいいこと言って、これでは示しがつきませんな」

 アッシュは、少し苦悶の表情を浮かべながら、俺の肩につかまった。


 「慈悲深きミトラ神に請う、彼の者に御身の御加護があらんことを。ヒール」

 エレナもすぐに走ってきて、アッシュに回復魔法をかける。


 ベルゼブブが藻掻いている間に、俺たちはエンカウントゲージを抜け出す。


 「ありがとう、アッシュ」

 「なんの、これしき。どうってことないですな!」

 礼を述べるエレナに、アッシュは大口を叩いてみせる。

 いや、先ほどまで、HP1まで追い込まれていた者が言っていいセリフじゃないですから……。


 走りながら、美雪が俺に話しかけてきた。

 「まだ、『殺虫剤』と『閃光弾』は残っている?」

 「ああ。何に使うんだ?」

 「なら、それを渡して頂戴。こう使うのよ」


 俺が『殺虫剤』と『閃光弾』を渡すと、美雪らしからぬ小洒落た物言いで、

 「私からのプレゼントよ」

 おまけとばかりに、ベルゼブブめがけて、『殺虫剤』と『閃光弾』放り投げて、マジックバスターライフルで打ち抜いた。

 

「Gyeeeeee――!!!!」

 再び、発狂するベルゼブブ。


 その隙に、俺たちは、その場からすぐさま離脱して、転移ゲートがある神殿へと向かった。

『猫型ロボットのポケット』(笑)

『殺虫剤』と『閃光弾』(笑)


もう少し、良い名称思いついたら、改稿するかも知れません。

4次元ポケットとは書いていないので、大丈夫ですよね!

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