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第1章 第4話 「緊急クエスト『七つの指輪を集めよ!』」

 動画を見終わった後、俺は深いため息をついた。

 いや、ため息をつくことしか出来なかったという方が正しい。


 それは、あっさりとした最後にはやや肩透かしをくらったものの、それを補って余りある、俺の予測を遙かに越えるセンセーショナルな中身に、ビデオの内容と頭の中での理解とが真の意味で一致しなかったからだ。

 そして、俺は、混乱する理性と醒めやらぬ興奮の感情でない交ぜになっていた。


 エレナも目を$マークに変えながら、興奮気味にはしゃぐ。

 「すごいわね。私たちがクエストを達成したら、一生遊んで暮らせそうね。

 そうすれば、フルーツパフェが食べ放題だね」

 おい、そういうフラグ的なことは言うのはやめましょう。


 「で、早い話が、このクエストを受けようかということか?」

 俺は、アッシュに問うた。

 「ああ、その通りですな。

 見ての通り、クエストの具体的な中身は分からないですので、実際にはその中身を確認してからということになりますがな。

 なにせ、このクエスト、指定された時間にログインしている者にしか参加資格がないときていますからな。

 だから、今日、時間に間に合うように皆には来てもらったのですぞ」


 「なるほどね」

 それで、合点がいった。

 アッシュから、『グッドモーニング』のメンバー全員に、今日は時間厳守で集合するようにメールが来ていた訳だ。

 しかし、動画で指定されていた時間に比べ、俺たちが召集された時間は一時間ほど早いが。


 そんな俺の心を見透かしたかのように、アッシュは、

 「何せ、時間ギリギリに召集して、遅れてしまっては困りますからな」

 「は、は、は、悪い。今日は反省するぜ」

 「ヒュー、ヒュー、ヒュー」

 俺は素直に謝った。

 たまに遅刻するエレナも口笛を吹いてごまかした。

 まあ、エレナは、今日は遅れていなかったが。

 ちなみに、既に一年以上の付き合いになるが、一度たりとも遅刻をしたことがない美雪は、涼しい顔で、四杯目のジュース(グレープ)を飲んでいる。


 「さて、そろそろ時間のようですな」

 アッシュは、システム画面の時計を見ながらそう言った。


 グリニッジ標準時間2053年8月17日(日)の13時。

 運命の時間だ。

 「You got a mail!」

 唐突に、メール受信のアナウンスとともに、視界ウィンドウの右下にメール受信の通知アイコンが表示された。

 俺は空中でシステム画面からメーラーを開けて中身を確認する。


 ――◆◆――


 From:スティーブン=ゲイツ

 To:現在、ログイン中のプレイヤー全員

 Subject:緊急クエスト『七つの指輪を集めよ!』

 Main:

 やあ、親愛なるプレイヤーの諸君。

 スティーブンだ。

 このメールは、緊急クエスト『七つの指輪を集めよ!』に関するものだ。


 実は、『The Universe of Worlds』には、『七つの指輪』という隠しアイテムがある。

 この『七つの指輪』には、偉大なる秘められた力を宿した創世級のアイテムで、本日のこの時間をもって、ゲーム内に解放される。

 すなわち、現時刻をもって実装されるということだ。


 この『七つの指輪』とは、『The Universe of Worlds』内に七種類の指輪が一ヶずつある。

 つまり、二つとは同じモノがない、完全にユニークなアイテムだ。


 プレイヤーの諸君には、この『七つの指輪』を集めてもらいたい。

 そして、この『七つの指輪』を最初に集めたプレイヤー、もしくは、集めたクランにのみ、あらゆる願いを一つだけ叶える権利を与えよう。


 ひとつ注意してもらいたい。

 それは、このクエストを一度受けてしまうと、誰かがクエストを達成するまで、プレイヤーは途中でクエストを中断できなくなるということだ。


 もし、それでもこのクエストを受ける気があるプレイヤーは、グリニッジ標準時間2053年8月17日(日)の13時30分までに、クエストを申し込んでくれ。


 それでは、プレイヤー諸君の奮闘を期待するよ。

 

 グッドラック!!


 ――◆◆――


 そして、メールの最後には、「この『七つの指輪を集めよ!』のクエストを受けますか? Yes/No」という投票フォームがついていた。


 「そうか。そう来ましたか!」

 メールに目を通しながら、アッシュは唸った。

 周囲を見回すと、先ほどまで自由気ままにしゃべっていた冒険者たちは、真剣な表情で話し込んでいる。

 どうやら、この場にいるほとんどの者たちが、スティーブンの緊急クエスト目当てに集まっているようだった。

 一つだけとは言え、どんな願いでも叶えるという触れ込みなのだから無理もない話だった。


 「さて、どうしますかな?正直に言って、小生はこのクエストをクラン『グッドモーニング』として全員で受けたいと思っていますぞ。

 メールには、個人でもクランでも構わないという内容でしたが、どう考えても一人では不利でしょうな。

 『七つの指輪』が完全なユニークアイテムとなるなら、おそらくPvPやCvCは避けては通れないと思いますぞ」


 「でも、ハッキリ言って、俺たちのレベルじゃ厳しいかも知れないぜ?」

 俺は率直な意見を述べた。

 俺たちのクランは、いわゆるトップクラスレベルクランではない。

 俺はレベル58、エレナは57だ。

 アッシュでレベル60。

 『グッドモーニング』内で一番レベルが高い美雪でもレベル62だ。

 つまり、俺たちは中堅レベルに過ぎないのだ。


 一方で、トップレベルのプレイヤーは、当然カンスト(レベル99)している。

 そういうプレイヤー連中とガチンコの指輪の取り合い勝負をしても、勝つ望みは薄いと言わざる得ないだろう。


 「まあ、確かに。

 しかし、このメールの内容だけですと、必ずしも戦闘だけで全てが決まるという訳ではないと思いますぞ。

 なにせ、天才スティーブンのこと、何らかの策を施している可能性が高いと思いますぞ」

 アッシュは口元を歪ませて、ニヤリと笑った。

 慎重派のアッシュらしからぬ大胆不敵な発言。

 俺も連られて、思わず笑みがこぼれる。


 「だな。ここで退いたら、プレイヤーとして一生の後悔をするかも知れない。

 ダメでもともと、いっちょやってみますか」

 「そうですぞ。

 男には一生のうち、譲れない戦いというものが三度はあるのです。

 まさに、このクエストこそがそのうちの一つ。

 今こそ、男をあげる時ですぞ」

 俺とアッシュは、ガッチリと右手と右手を握りしめ合った。

 まあ、俺もアッシュも目は$マークになっていたのだが。


 その様子を見ていたエレナは、呆れたように肩をすくめて言った。

 「はい、はい、分かったわ。

 どうして、男はこうも単純バカなのかしら?

 仕方がないので、わたしも付き合ってあげるわ。

 どうせ、ヒーラーがいないと始まらないでしょう?」


 「俺は、エレナなら、そう言ってくれると信じていたぜ」

 「べ、別にアンタのためとかじゃないんだから、勘違いしないでよね。

 そ、そう、わたしがこのクエストを達成したら、フルーツパフェを毎日食べるんだから」

 「毎日、フルーツパフェを食べたら太るんじゃないか?

 ゴフォ!?」

 うっかりと口を滑らせた俺のわき腹に、エレナのボディーブローが美しく決まった。

 クリティカルヒットだ!

 ていゆか、僧侶というよりかは、格闘家か修行僧なみのダメージなんですが、それは。


 「もう、マサトなんて知らない」

 「本当、バカばっか」

 ため息をはきながら、ぼそっと毒をはく美雪。


 「美雪殿はどうなされますかな?」

 アッシュが、美雪にも訊いた。

 美雪は、

 「皆が受けるというなら、私も参加するわ。

 私は達成報酬に興味は無いけれども、別に受けないという積極的な理由も無いから」

 「サンキューですぞ。

 そう言ってくださると、小生たちは助かりますぞ。

 なにせ、範囲攻撃が得意な美雪殿がいると、色々と助かりますぞ」


 アッシュは、席から立ち上がると、俺たち三人を見下ろしながら、高々と宣言した。

 「それでは、決まりましたな。

 クラン『グッドモーニング』は、これより緊急クエスト『七つの指輪を集めよ!』を全員で受けることとしますぞ!!」

 そう言って、アッシュはこの場を締めくくった。


 最後に、俺たちは全員、緊急クエスト『七つの指輪を集めよ!』に参加することを、先のメールの投票フォームから「Yes」を選択して、返信したのだった。

『七つの指輪』

 創世級アイテム。

 『The Universe of Worlds』に一つずつ、七種類の指輪が存在する。

 一つ一つに大きな魔力が込めれている。

 創世級は、アイテムとして一番希少度が高く、創世級>神話級>幻想級>伝説系>……と続く。


--


キャラクターのレベルと職業(クラス)のテキトーな紹介。

 マサト:狩人ハンター。総合レベル58。

     弓系ではなく、中剣の二刀流使い。短剣も使う。


 エレナ:僧侶ヒーラー。総合レベル57。

     巫女装束だけど、ヒーラー用の大きな宝石のついた杖持ち。

     最初は弓持ちにしようかと思ったけど、やっぱり魔術ファーストで。


 アッシュ:騎士ナイト総合レベル60。

      守りのかなめ。大型の『騎士の盾』で攻撃を引き受ける。


 美雪:銃士ガンナー。総合レベル62。

    自身の身長ほどある魔力砲撃銃を使用する。

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