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第1章 第3話 「スティーブンの最後の『ビデオレター』」

人物紹介も終わったので、少しずつ物語を進めていきたいと思います。

少しクドクなりすぎたかも知れませんね。

 ――スティーブン=ゲイツ。

 アッシュが口にした、その名の人物は、『The Universe of Worlds』を製作した中心的メンバーの一人だ。


 メディアなどで何度か紹介されたことがあるが、『The Universe of Worlds』は、主に七人の専門家たちによって作られた。 

 それは、

  (1)このゲームの世界観を創造したクリエーター、

  (2)このゲーム内の物理法則を定めた物理学者、

  (3)プレイヤーの生まれや人種によらず相互に思考伝達を

     可能にさせた言語学者、

  (4)フルダイブ型VRを可能にするためにヒトの脳への作用を

     実現させた脳科学者(医学者)、

  (5)そして脳への作用を実現するためのデバイスを開発した工学者、

  (6)それらを可能とさせるための基礎理論とアーキテクチャーを

     開発した数学者、

  (7)その理論や法則とデバイスを結びつけ、プレイヤーにクリエーターが

     創造した世界を実体験をさせるためのコードを書いたプログラマー、

 それら七人だ。


 その中のプログラマーこそが、アッシュが前述した、スティーブン=ゲイツだ。


 「緊急クエストの動画は見ましたかな?」

 アッシュは俺たち三人に訊いてきた。

 「いや、詳細は知らない。

 なんでも、スティーブンが遺したビデオレターに、そのような話があったという噂は聞いている。

 ビデオレターが公開されたのが4月1日だったので、最初はエイプリルフールネタだとされたとかなんとか。

 強いて付け加えれば、今日、あと三十分ぐらいした時間に緊急クエストの通知メールがくるということぐらいだ」

 俺は自分が知っていることを簡潔に述べ、エレナは首を横に振った。


 「美雪殿は?」

 アッシュが訊くと、美雪は、

 「一般的に公開されている情報なら知っている。

 スティーブンは、『The Universe of Worlds』の製作後、不治の病で三年ほど闘病生活を送っていた。

 生前、彼は弁護士に、自分の死後にビデオレターをマイチューブに投稿するように指示していた。

 彼は三十八歳という若さで夭折し、彼の遺言に則り、弁護士はビデオレターを全世界に配信した。

 その内容を要約すると、……」


 「ストップ!ストップ!オーケー。流石、美雪殿だ。ちゃんと把握しているようですな」

 事務作業を淡々とこなすように説明する美雪を、アッシュは制止した。

 この調子だと、延々と一時間でも、二時間でも、説明し続けそうな勢いだった。


 アッシュは、俺とエレナに向き直った。

 「二人はあまり知らないようだし、実際に見て頂いた方が早いでしょうな。

 マイチューブで『スティーブン 最後のメッセージ』とでも打ち込んで、検索してみてくれますかな」


 言われるがまま、俺とエレナはシステム画面を呼び出した。

 空中で薄緑色のホログラムディスプレイを軽く押すようにタッチして、システム画面からブラウザを起動させる。

 お気に入りから、動画投稿サイトのマイチューブに移動して、先ほどのキーワード『スティーブン 最後のメッセージ』で検索すると、ざっと十万件ヒットした。

 スティーブンのビデオレターだけでなく、それを引用したマイチューバーの動画も多数投稿されているようだ。


 「これか」

 俺は、検索結果のトップで、投稿者がスティーブン公式チャンネルとなっている動画を再生した。


 動画は、どこか病室のようなやや薄暗い部屋で、眼鏡をかけた一人の男がパイプ椅子に腰をかけている場面から始まっていた。

 男の顔は青白く、生気がない。

 その表情はどこか沈痛ならぬ面もちで、神経質に瞬きを繰り返していた。

 そして、彼は少し前屈みになりながら、落ちつきなく両手を遊ばせていた。

 何かを逡巡しているようだったが、気持ちの整理がついたのか、彼は決意したかのように、真っ正面を向いて滔々と語り出した。


 「やあ、親愛なる諸君。

  これを見ているということは、僕はこの世にもう居ないということだろう」

 スティーブンは息を詰めたあと、話をつないだ。


 「僕のコトを知らない人もいるだろうから、簡単に自己紹介をさせてくれ。

 僕の名前はスティーブン=ゲイツ。

 アメリカ人だ。

 そして職業はプログラマーだ。

 僕が初めてコンピュータに触れたのは三十五年前の三歳のときだ。

 もしかしたら、もっと前から触っていたかも知れないが、最も古い記憶は、三歳の誕生日に両親からプレゼントしてもらったYouNacSurfaceだ」


 その後、彼は約五分間にわたって、自分の身の上話をする。

 最初に書いたコードは、五歳のときに、空から降ってくるスライムを同色で四匹以上で揃えると消えるパズルゲームだとか、十四歳のときには、友達と一緒になって軍事施設ヘキサゴンにハッキングを行ったことかだ。

 そして、その後、彼は本題に入った。


 「僕が三十歳のときに転機が訪れたんだ。

 それは、僕が大学時代に知り合った親友であり、数学者であるレオンハルト=ガロアから『U-Project』の話を持ちかけられたことだ。

 おそらく、この動画を見ている人はご存じだろうと思うが、フルダイブ型VRMMORPG『The Universe of Worlds』の製作の話だ。

 この話を聞いたとき、なんてエキサイティングなんだ、と思ったね。

 きっと、僕はこの仕事をするために生まれてきたんだとさえ思ったほどだよ。

 そして、五年もの月日を要したが、『U-Project』は最高のチームメンバーの手によって成功したんだ。

 そこには、驚くほどの難問もあったけどね。

 そして、この成果は、僕よりも皆の方がよく知っていると思う」


 まさにそうだ。

 『The Universe of Worlds』は、今や大成功をおさめ、全世界人口の百億人のうち、十億人がプレイするゲームだ。

 いや、単純なゲームではない。

 まさに、リアルを越えるリアルとさえ形容される、フルダイブ型VRシステムの『The Universe of Worlds』は世界を一変させ、紛れもなく人類史に新たな一ページを刻んだのだ。


 例えば、現実世界では日本の東京と、月の『静かの海』のコロニーような遠く離れた相手とも、仮想現実世界では同じ時間と空間を共有することが出来るのだ。

 また、仮想世界なら、現実世界では到底不可能だった、太古の生物たちの再現したテーマパークや、重力という概念を取り払った新しいVRスポーツなども可能になったのだ。

 今後、ますます、この流れは加速してくだろう。


 スティーブンの話は、いよいよ核心へとせまった。

 「さて、そんな『The Universe of Worlds』だが、実は、僕は少しばかりイタズラを施したんだ。

 それは、グリニッジ標準時間で2053年8月17日(日)の13時にログインしているプレイヤー全員に、緊急クエストを配信する。

 いいかい?

 その時間にログインしているプレイヤーのみだ。

 注意してくれ。


 ちなみに、緊急クエストを受けるかどうかは、各人の自由だ。

 そして、気になる成功報酬だが、報酬は、『どんな願いでもひとつだけ』、叶えてあげよう。

 いいかい?どんな願いでもだ。


 たとえば、僕は、『The Universe of Worlds』が商業的に成功したおかげで、少しばかり皆よりお金持ちだ。

 だけど、僕はお金にはあまり興味がないし、残念ながら独り身だ。

 だから、僕が死んだら、使い道のないお金がそこそこ余ることになる。

 もしも、クエストを達成したプレイヤーがお金持ちになりたいと願うなら、僕の財産を喜んで進呈しよう。


 また、この『The Universe of Worlds』のコアアーキテクチャーは、僕と、僕より少し先に旅立った親友のラインハルトしか知らない。

 そして、コアアーキテクチャーには厳重にプロテクトをかけていて、それを解析するには、最新の量子コンピュータを使っても、500年かかる見込みだ。

 もしも、クエストを達成したプレイヤーが、このコアアーキテクチャーを知りたいと願うなら、喜んで教えよう。

 それを元に、『The Universe of Worlds』を改造したいなら、好きにしてくれて構わない。


 もし、名誉を望むなら、その人の名前を人類史に刻むことも可能だし、ハーレムを望むなら、絶世の美女たちを侍らすことも可能だ。

 そして、そんな人はいないと思うが、もし何も望まないのなら、それでもオーケーだ」


 にわかには、信じ難い話だった。どんな願いでも叶うだって?

 しかし、不世出の天才プログラマー、スティーブンなら、それを可能にすることも、あながち不可能ではないのかも知れない。


 もし、俺がクエストを達成したなら、どんな願いでも何回でも叶えるようにしてもらおう。

 そうすれば、スマホ片手に異世界でイケメンに転生して、俺Tueee出きるチート的な能力を獲得して、お金持ちになって、ハーレムを作ることも可能だろう。


 まあ、そのような冗談はさておき、肝心のクエストの中身は何だろうか?

 俺とエレナは固唾をのんで、話の続きを見守った。


 スティーブンは呼吸を整えると、

 「さて、肝心のクエストの中身だが、それは当日のお楽しみにとっておこう。

 いいかい?もう一度言うよ。

 グリニッジ標準時間2053年8月17日(日)の13時にログインしているプレイヤー全員に緊急クエストのメールを配信する。

 クエストを受けるか、受けないかは、各々の自由だ。

 それじゃあ、プレイヤー諸君の奮闘に期待するよ。

 グッドラック!」


 最後は彼が握りしめた右手の親指を立てるところで、動画は終わりだった。

以下、小ネタです。


人物紹介。

 スティーブン=ゲイツ:『The Universe of Worlds』のプログラムを担当した人物であり、自分の死後(この物語開始時点で既に故人)、ビデオレターで緊急クエストを公表した張本人。この緊急クエストの告知で、世界は大きく変わっていく。この物語のキーパーソンになるかも(笑)。


 レオンハルト=ガロア:『The Universe of Worlds』の基礎理論とアーキテクチャーの開発者。スティーブンを『U-Project』に誘った張本人。この物語時点では既に故人。物語上、あまり重要ではない人物です(笑)。

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