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第1章 第1話 「プロローグ」

作者は、心温まるハートフルなコメディな作品が好きです。

いいですよね、ドタバタコメディ、ハッピーエンド。

私もそういう作品を書けたら良いですね。

 「ダイブ オン!『The Universe of Worlds』にログイン!」

 俺はVRヘッドギアを頭に装着すると、ベッドの上で仰向けになりながら、そう短く唱えた。

 瞬時に視界が虹色の七色の流線で彩られると、ふわっとした浮遊感に体が包まれた。

 まるで、光の海の中を漂っている感じだ。


 視線を自分の身体に落とす。

 うっすらとした青白い光りのヴェールに包まれると、瞬時に俺の体は革製の外套に覆われた。

 俺が高校生の黒澤雅弘から、冒険者のマサトのアバターに変わった瞬間だ。


 七色の光りの奔流が激しさをいよいよ増していき、光りは俺の後方へと飛去っていく。

 そして前方に、

『Hello to The Universe of Worlds』と金色の文字が浮かび上がる。

 ―― The Universe of Worlds――。

 それは、2050年に世界で初めて作られた、このフルダイブ型VRMMORPGのタイトルロゴだ。


 ロゴは、ボウッと赤い炎に包まれると景色に溶け込むようにして消えてゆく。

 この待ち時間は、ゲームの設定などのローディングを行っているのだが、何度ログインしても、エフェクトは飽きさせずに小気味がいい。

 そして、周囲がまばゆい光りに徐々に満たされたかと思うと、その後、景色が一気にクリアになる。

 俺の意識が『the Universe of Worlds』の世界とリンクし、

仮想現実世界(バーチャルリアリティ)に冒険者マサトとして受肉した瞬間だ。


 俺は、体の感覚を確かめるように、コツコツと右足の爪先で床を叩くとともに、周囲の様子に目をやった。

 そこは、煌びやかさこそないものの、細部まで精緻(セイチ)に作り込まれた、厳かで神聖さに満ちた壁と床に囲われた、静謐(セイヒツ)な部屋の一角だった。


 ここは、俺が所属するクラン「グッドモーニング」が根城とする街、通称『始まりの街』と呼ばれる、ディアノの郊外に位置する、神殿の一部屋だった。

 転移の間と呼ばれる部屋で、俺は転移ゲートに降り立ったのだ。


 俺の背中には、まるで冒険者を見下ろすように、2メートルは優に超える転移ゲートがそびえ立っている。

 転移の魔法で街に訪れたり、転移ゲートの近辺でログアウトして再度ログインをすると、転移ゲートに降り立つ仕組みになっているのだった。


 「ようこそ、マサトさん。お帰りをお待ちしておりました」

 柔和な声で俺の名前が呼ばれた。

 そこには、修道服に身を包み、ロザリオのネックレスをした、金髪碧眼のシスターが立っていた。

 「シャーリーさん、いつも親切にありがとうございます」

 「いえ、いえ、これが私の仕事ですから」

 そう言って、シャーリーさんは、野に咲く一輪の花のような純粋で可愛らしい笑顔を浮かべた。

 俺は、思わず、デレッと見とれてしまう。


 シャーリーさんは、まさに、世の中の男達の妄想を凝集したような、出るとこは出て引っ込むとこは引っ込んでのスタイル良しな上に、金砂のように輝く長い金髪と、サファイアのような吸い込まれる碧い目をした、気品に満ちた大人の女性だ。

 このディアノの顔とも呼べる存在で、様々なゲームメディアのグラビアを飾ったこともある、正にこのゲームの看板娘で、いやゆるマスコットキャラ的なNPC(ノンプレイヤーキャラクター)だ。


 シャーリーさんのことは、多くのプレイヤーが必ず一度は目にしてるはずで、さらには彼女の出向かいを受けたいがために、始りの街、すなわち初心者向けである、ディアノをわざわざ拠点としているプレイヤーも多いほどだ。


 ちなみに、NPCとは言えども、『The Universe of Worlds』には、最新鋭の人工知能(AI)が実装されていて、どのNPCの受け答えも本物の人間と寸分違わない。

 キャラクターシートの補足項目のところの「NPC」を見なければ、本物の人間と見間違えるほどだ。


 いくらNPCとはいえ、現実世界さながら精密に作り込まれているこの世界では、健全な高校生なら、魅力的な女性を意識するというのは道理だ。

 「どうです、こんど仲間を誘って皆でお昼ご飯でも食べに行きませんか?」

 「まあ、せっかくお誘いしてくれるのは有り難いのですけど、私にはミトラ神という夫がいますので」

 そう言って、やんわりと俺の誘いを断るシャーリーさん。あえなく撃沈する俺!

 というか、シャーリーさんは、NPCだから、そう断るように設定されているだけどね!

 断じて、俺が挙動不審に見えて断っているとか、そういうことじゃないからね、多分。


 「それに、……」

 シャーリーさんは、少し言いにくそうにして、後ろへと視線を泳がした。

 俺がシャーリーさんの視線の先を追いかけると、……

 「げっ、エレナ!」

 「マサト、シャーリーさんに声をかけるとは、アンタ、遅れてきた上に良いご身分よね~。そういや、私なんて同じクランなのに、一度も奢ってもらったことなかったわよね~」


 ニゴニゴという表記がぴったりな、笑みにならない笑みを貼り付けながら、一人の少女が腕を組んで仁王立ちをしていた。

 ノースリーブにヘソ出しルックスの巫女装束という健康的すぎる出で立ちで、燃えるような紅い、腰まで届く長髪からピョコンと飛び出た猫耳がトレードマークのハーフキャティの少女が、ズンズンとこちらに向かってくる。


 彼女の名はエレナ=スカーレット。本名は藤島咲といい、現実(リアル)で、俺と同い年でご近所さん。

 いわゆる、幼なじみというやつだ。幼稚園から高校まで一緒という腐れ縁で、この『The Universe of Worlds』でも、ひょんなことから一緒のクランに所属することになった。


 エレナのアバターは、ハーフキャティと呼ばれる、猫族キャティ人族ヒューマンの混血種族だ。

 純血のキャティや混血のハーフキャティは、頭から猫耳が生えているのが特徴で、特に知能と素早さに優れている。

 馴染みやすい容姿と、使い勝手の良い種族値で、『The Universe of Worlds』の中でも人気の高い種族だ。


 そんな、ハーフキャティのエレナは頬を膨らませながら、どんどん俺の方に近づいてくる。

 「ちょっと待て、エレナ。これには事情があってだな……」

 「問答無用!」

 俺の言葉を遮ると、エレナは俺の耳を引っぱって行く。

 「ほら、行くよ。他の二人は、もう来ているから。いつものところで待っているってさ」

 「いで、いで。分かったから、離せって」

 「ダメよ。わたしが離したら、アンタ、すぐにフラフラどこかに行っちゃうんだから。ほら、さっさと、キリキリと歩く」

 俺の意見は完全に否定され、エレナは聞く耳持たずだ。いや、俺の耳は持っているが。


 シャーリーさんは、オロオロと少し心配そうに、

 「エレナさん、いくらなんでも、そこまでしなくても」

 「大丈夫ですって。こいつ頑丈なのだけは取り柄ですから」

 そう言って、シャーリーさんに、接客業の店員さんバリの営業スマイルを向けるエレナ。

 そして、相変わらず、俺を犬か何かに間違えて散歩させる飼い主のように、すたこらと出口に向かっていく。


 「それじゃあ、シャーリーさん。また来ます。バカがお騒がせしました」

 「ええ。またのお越しをお待ちしております」

 背中越しに挨拶をするエレナに、シャーリーさんは深々と頭を垂れた。

 そもそも騒がしいのは、99パーセント、エレナ自身のせいだと思ったが、沈黙は金なり、という格言があるように、俺は黙っていることにした。


 「シャーリーさん、じゃあ、また」

 俺も名残惜しみながら、別れの挨拶を投げかける。

 「ほら、キリキリ歩く!」

 「いで、いで。いい加減に離せって」

 「ダメに決まってるじゃない。アンタを『木漏れ日』まで連れて行くのが、今のわたしのクエストなんだから」


 ――かくして、俺のこの日の冒険も、いつも通り、喧噪で幕を開けたのだった。

 ――そう、その時はそう思っていた。

遅筆ですが、月に二回程度更新出来たら良いなと思ってます。

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