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第9話 The fall of "Eve" - 3


 夜も更け、黒々とした曇天の空が広がっていた。海の近い為、より体が冷える。白い吐息を吐きながら(ともり)は、二人組と別れた《品川第六台場》に戻ってきた。


(うわ……。八岐大蛇が暴れた影響もあるだろうけど……)


 戦いの後によって木々は滅茶苦茶に荒らされ、クレーターや土が掘り返された跡などが戦いの凄まじさを物語っていた。


「ジョンさん、大丈夫だったかな……」


 ポツリとつぶやいた言葉に返事が返ってくる。


「まあ、なんとか……生きてる」


 燈は声に気付き振り返ると、金髪の男(ジョン)の姿を見つける。大きな怪我もない。次いで──


「こっちもなんとか終わったよ」


 ジジたちの無事な姿を見て、燈は手を振ると向こうも返してくれた。なんだかホッとして口元が緩んだ。


「全員無事でよかった」

「で、この空間からの脱出って聞いているか?」

「ううん」

「あー、わからないです」


 結局《この空間を出るための条件》というのは、《山の神》の力を取り戻すための策だったため燈も実際に帰る方法はわからない。


(ん……。八岐大蛇との戦いで、ちょっとは手を貸してくれたみたいだし……帰る方法も何とかしてくれるんじゃ……)


 燈は龍神や浅間に尋ねようと、口を開いたのだが──


「そうであろう、そうであろう! だからワシと!」

「おいらが来たのだ!!」


 ででーん、と白猿と白猪が堂々と姿を現した。ちんまりとした猿と猪はマスコットのようにしか見えない。

 沈黙。


「《山の神様》! 今まで傍観してたんですか!?」


 燈は白猿と白猪に駆け寄ってしゃがんだ。というか猪は初めて見るが、見た目は豚にしか見えない。ただ牙は立派なのだが、つぶらな瞳とマスコットのようなサイズは可愛いとしか思えなかった。


(……うう。抱き着きたいけど……。この猪も《山の神様》と似た気配をしているということは神様なのかな?)


 後ろでは(あれが……神様……)と金髪の男(ジョン)とジジたちの困惑しているようだった。

「こんな神様に統治されてるなんて……」という声が聞こえてくるが、まあ確かにこんな見た目だったら、色々と思うところがあるのかもしれないと燈は思った。

 

「《役割》を持つ者たちよ。ご苦労だったこの空間の管理者の一人として礼を言う」

「ありがとううううううううううううううううー!」


 その場にいる全員──《山の神様》たち以外は「うるさい」と思った。特に近くにいた燈はあまりの大音量に耳が痛くなる。しかし少女はめげずに「話を進めなければ」と口を開いた。


「《山の神様》、私たち元の世界に戻りたいんですけど、帰りはどうすれば……」

「ならばそれが、お主たちの()()となるがよいか?」

「ああ、そういえば貴様たちは《他の神》と、その《なんでも願いが叶う宝》の為に、賭けをしたんだったな」


 浅間はため息交じりにつぶやいた。確かに浅間の視点から考えれば面倒ごとを押し付けられたようなものだ。


「そうだ。だが、賭けは不成立になる。ならば、事態の収拾を行ったお主たちにくれてやる。それでよかろう?」


 そこに現れたのは三柱──他国の神様だ。

 北欧神話で有名なトリックスター《ロキ》はサンタ服姿の女。

 クトゥルフ神話として登場する《ニャルラトホテプ》は黒装束の男。なんとも燈の知る神様とは、また違った雰囲気の神様だ。

 突如現れた神様たちは、《なんでも願いが叶う宝》を放棄した。


(……ううん。そんなあっさりいいのかな)


 燈は龍神と浅間を交互に見やった。


(確かに神様でもいろいろな人がいるから、深く考えない方がいいのかもしれない)

「ま、仕方ないよね。帰ろ帰ろ~」と引き下がったロキはそのまま帰ってしまった。帰り際、《山の神様》はというと──。


「言ったなー! あとで嫌だって言ってもだめなだからな」

「だからなーー」


 小学生並みのセリフを口にしている。それを見て浅間は深い溜息を吐き、燈は力が抜けてしまった。


『喧しい神共だ』

「こんな子供みたいな神様ですみません! ほんとすみません」


 燈は自分は代表して平謝りをする。「本当は悪い神様じゃないといいますか、何だかんだ言っていい神様なんです」とフォローに入ろうと試みる。しかし、それは叶わなかった。


「こちらこそ、うちのが正直過ぎて申し訳ない……」


 金髪の男(ジョン)は微苦笑するのを見て、燈もつられて口元を緩めた。


(ジョンさんも、なかなか大変そう……)

 

 ***


 ジジたちの世界の神様が去ると改めて《山の神》が、願いを問うた。


「さて、改めてお主らの願いを聞こう」


 燈と金髪の男(ジョン)とジジは顔を合わせ、互いに頷いた。流石にここで空気を読まない者はいないだろう。そう思っていたが甘かった。


『願いなら七面鳥の丸焼きを所望──』

「提案──クリスマスパーティーを」


 金髪の男(ジョン)女の声の人(アネット)の口を塞ぎ、燈はノインを取り押さえた。そして慌てて願いを口にする。


「LAに帰してくれ」

「元の世界に戻りたい」

「現世に戻してほしい」


「んぐ……」と口をふさいでも諦めないノインに燈はため息をこぼす。


「まったく。クリスマスパーティーなら戻ってからでいいじゃないの。それこそ毎年出来るでしょ?」と燈が告げると、急にノインは大人しくなった。


(よっぽどクリスマスパーティーがしたかったのかな……)


 燈が小首を傾げていると、《山の神様》は鷹揚に頷いた。


「委細承知。では、上を見るがよい」


 全員が空を見上げると、曇天の雲は消え満点の星々が煌めく。そして──そらから淡い光を放った雪が降り注いだ。


「蛍……じゃない?」

「なに、最後ぐらいは派手にいかねばな」


 何もない空間から巨大な金色の──宝船が数百と宙を飛んでいた。宝船からは琴や笛、鈴に太鼓と賑やかな声が響いてくる。


「これに乗っていけば、元いた世界の入り口まで行けるだろう」

「それは、とっても有難いのだけれど……」


 演奏も胸を打つような素晴らしいものだ。それに豪華なうえに、縁起がよさそう。何一つ文句はない。ただ、一つだけ不満がある。


「ん? どうした。なにかリクエストでもあるのか?」


 燈の心情を見透かすように《山の神様》は、人懐っこい笑みを浮かべた。


(あー、ううん……)


 言うべきかどうか頭を悩ませる。あまりにも個人的なリクエストになってしまうからだ。


「せっかくだ、聞いてやろう。ほれ、今のワシはたいていの事は叶えてやれるぞ~」

「選曲がお正月っぽいから、せめてクリスマスにして!」

「そうだな。渡すにもムードというものがあるからな」


 《山の神様》はきょとんとしたが、すぐに何のことかわかったのか、白猿はニヤリと笑う。そして「ああ、なるほど」と顎を撫でた。


 こうしてこの空間での《役割》は終わった。


ここまで読んでいただいてありがとうございます。

クリスマスイベント次が最終話になります。

楽しんで読んでいただけたなら幸いです(*ノωノ)


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