表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/20

第七話 ダンジョンと変異種(後編)

 エレベーターは蛍石が乗って二分ほどで停止した。

 ドアが開いて一歩を踏み出すと、エレベーターは消えた。


 辺りを見回すと、十字路の真ん中だった。『地図の書』を使うと地形が把握できた。

 今いる階層は四隅に部屋があって、外周を回る通路と中央を通る十字路で形成されていた。

 壁を確認する。仄かに光る石が嵌め込まれているので、ダンジョンの一般的な灰色の石壁だった。

(行き止まりはなしか。袋小路に追い詰められる展開がないのが嬉しい)


 次に『索敵の書』を使うが、反応がなかった。

(敵に反応しないのか? 変異種だからなのか? それとも『索敵の書』には反応しない特殊なステルス・モンスターなのかは、不明だな)


 敵の位置がわからないので、ダンジョンの中を歩き回って変異種のモンスターを探す。

 北西の部屋に入った時だった。『地図の書』により、わからなかった通路が部屋から左に伸びていた。地図にない通路の壁と地面は赤茶色をしていた。

 壁を調べると、所々が光っていたので、先は真っ暗ではなかった。

(ダンジョンの部屋から伸びる地図にない通路か。怪しいな)


 ゆっくりと、通路を進んで行く。通路の奥から地面を掘るような音が聞こえていた。

 通路を進んで曲がり角を左に進む。

 すると身長、二・五mほどの毛むくじゃらの茶色の物体が通路の先で掘削作業をしていた。気配を消して背後から相手に近づく。渾身(こんしん)の力を込めて頚椎(けいつい)に一撃をお見舞いする。


 毛むくじゃらの皮の下に鉄のように硬い骨を感じた。骨が(きし)む感覚がした。だが、骨は折れなかった。

(こいつ、外側は柔らかいが、骨格は固い)


 蛍石は数歩、後ろに距離を取る。

 相手が振り向いた。体重が六百㎏はありそうな鉄の面を被ったモグラだった。

 鉄の仮面は笑っているようにも見えた。


 モグラが蛍石に向かってくる。

 蛍石は慌てず、モグラとの距離が詰まるのを待った。

 モグラを攻撃できる距離に捉えると、一歩を踏み込んで一撃を加える。


 モグラが攻撃するタイミングで後ろに下がる。モグラが攻撃を外したタイミングで、また一歩を踏み出して攻撃を加える。

 蛍石はモグラの全ての攻撃を躱す。攻撃を当てながら後退を繰り返して行く。

 モグラは蛍石の攻撃を三十発以上も喰らった。だが、倒れることがなかった。


(まずいな。モグラの動きは遅いが、打撃に耐性があるタイプかもしれない。中々に倒れない)

 通路から部屋に戻ると、モグラが雄叫(おたけ)びを上げた。わけのわからない力により、蛍石は壁の反対側まで吹き飛ばされた。蛍石は転倒を避けたが、勢いよく壁に叩きつけられた。

 モグラの仮面が赤くなり、怒りの表情に変わる。モグラが身を縮める。凄まじい跳躍力で跳び掛かって来た。


 何とか回避する。だが、モグラの動きが今までとはまるで違った。

 モグラの速度が急に上がった。先ほどまでなら、モグラの攻撃を回避しながら打撃を入れ続けられた。だが、モグラのラッシュの前には『疾風の腕輪』で速度を上げていた蛍石でも、回避で精一杯だった。


(どうする? ここから神気を使って速度を上げるか? それとも、体を硬化させて警戒するか? 即断は危険だ。これほどのラッシュを、いつまでも続けられるわけがない)

 蛍石は冷静にチャンスを待つことにした。蛍石の読みとおりにモグラがスタミナ切れを起こす。モグラの速さが急激に落ちた。モグラにできた隙は二箇所、脇腹と喉仏。


 蛍石が脇腹を狙おうとしたとき、女性の声が聞こえた。

「仮面を打ち抜いて」

 蛍石は目標を変えて、モグラがしている仮面を『破軍掌』で狙った。モグラが無理やり体勢を()らして(かわ)そうとした。だが、蛍石の『破軍掌』がモグラの仮面を捉えた。


 モグラの仮面が弾け飛んだ。仮面の下には、見覚えのない、青褪めた黒髪の若い男の顔があった。

男の顔が外気に曝される。男の顔が絶叫して消えた。

 モグラはそのまま前のめりに倒れて、動かなくなる。モグラから真っ黒い煙が大量に噴出した。モグラは、そのまま溶けるように消えた。


 声のした方向を見ると、そこには安堵した顔の鏡花が立っていた。

「よかった、間に合って。この階に来てすぐに戦闘音がしたから、誰かが戦っていると思って、すぐに来ました」

「ありがとう。助かったよ」


「お礼はいいです。ところで、商店主さんは、何で戦っていたんですか? 商店主さんはモンスターから襲われないはずですよね」


 フロアーの崩落を知らせる予兆の小さな揺れが来た。

 変異種モンスターの存在やダンジョン側の都合を、どこまで話していいかわからない。なので、適当に言葉を濁す。

「まあ、世の中には色々とあるってことだよ。俺はもう帰るから。これ、お礼に上げるよ」


 蛍石は余っていた『転移草』を鏡花に渡した。蛍石は、親切心から忠告した。

「あと、このフロアーは崩落の予兆があるから、すぐに移動したほうがいい」


 蛍石は変異種が掘っていた通路の先が気になった。

 通路の先を調べるために部屋から出て行こうとすると、鏡花が質問してくる。

「そう言えば、商店主さんって、名前は何て言うんですか?」


「蛍石だ」と答えようとしたが、言葉が口から出なかった。

「フローライトだ」と偽名を口にすると、口からすんなり言葉が出た。


 蛍石はそのまま鏡花と別れると、モグラが掘削作業をしていた地点まで移動する。

 モグラが掘っていた壁の先を見て驚いた。壁には人骨がびっしりと埋まっていた。

「何だ、これは?」と人骨に手を掛けると、ぼろぼろと崩れる。


 崩れた人骨は地面に落ちると、土塊に変わった。

 蛍石も壁を軽く手で掘ってみたが、人骨が次から次へと出て来た。

(あの、モグラ、ひたすら人骨の壁を掘っていたのか。でも、何のためだ?)


 二度目の揺れが来た。

 本来なら三度目の崩落が来れば回収される。だが、異常路が崩れて来た場合は、どうなるかわからない。

 危険を感じたので部屋に戻った。部屋に戻ると鏡花の姿はもうなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ