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第六話 ダンジョンと変異種(前編)

 ダンジョンから帰り、朝になる。

 トニーニの店に行くと、愛想の良い顔のトニーニが話し掛けてくる。

「よう、蛍石。今日は黴臭(かびくさ)いダンジョンに入らなくていいぞ」


「ダンジョンに入らないと稼げないだろう」

「今日は、やってほしい仕事がある。なに、元探索者なら簡単な仕事だ。ちょいとやって、すぐに終わる。もちろん、駄賃も出る」


 蛍石はトニーニの言葉を疑った。

「何だ? 何をやらせたいんだ? 庭の手入れか? 棚卸しか? それとも、下水の清掃か?」


 トニーニは気の良い顔で、すらすらと語る。

「それは、どれも間に合っている。お前にやってほしい仕事はダンジョンのゴミ掃除だ。断っておくが、探索者を殺してこいって話ではない」

(これは、ただのゴミではないな。きっと、とんでもなく始末に負えないゴミだぞ)


「ゴミといっても種類がある。トニーニが始末したいゴミは、どんなゴミだ」

「俺たちの住んでいるダンジョンは、生きている。常に破壊と創造を繰り返して形を変え、様々な不思議な道具を生み出す。ここまでは、いいか?」


「俺は子供じゃないんだ。教えられなくても、わかっている」

 トニーニは真剣な顔で命じた。

「だが、破壊されるべきものが何かの拍子に残って、いつまでも壊れないことがある。それが、ダンジョンのゴミ。ダンジョン・デブリだ。お前には今日そのダンジョン・デブリの原因を取り去ってもらいたい」


 断りたい、危険な仕事だった。

「簡単な仕事じゃないだろう。トニーニの指し示すダンジョン・デブリの正体は、探索者のいうところの異常路だ。異常路の先には変異種モンスターがいる」


 ダンジョンの生成時にできたものと違う通路は異常路と呼ばれている。異常路は探索者の間では要注意とされていた。

 また、異常路を発見した場合は速やかに下の階に逃げるのが探索者の定石だった。


 トニーニが顔を歪めて舌打ちする。

「何だ、知っていたのか。面白くない奴だな。そうだよ。異常路の先にいる変異種を倒してこい。話は、それだけだ」

「簡単に頼んでくれるが、変異種は通常のモンスターより強い。何が変異したかによるが、龍種や悪魔種が変異していれば、俺では無理だ」


「そんなことはないぞ。ほら、持ってけ」

 トニーニは、むすっとした顔で、拳大の花火玉のような物体を二つ、渡してきた。

「こいつは、なんだ。なにか嫌な予感がするが」


「『自爆玉』と『道連れ玉』だ。最終的にはその二つを使えばいい」

『自爆玉』は敵に投げつけると、フロアーの構造がどうであろうとも、フロアーにいる存在の全てに大ダメージを与える。


『道連れ玉』は使用者が死ぬほどのダメージを受けた時に、広範囲に極大ダメージを振り撒く。

『自爆玉』で発生したダメージで死ぬほどの怪我を受ければ、『道連れ玉』が勝手に作動する。この二重の爆発を受けて生きていられるのは、一部のボス・モンスターだけである。


(トニーニのやつ、最終的に俺を犠牲にして、仕事を達成する気か)

 蛍石は抗議の声を上げた。

「『自爆玉』と『道連れ玉』を使ったら、俺も生きて帰れないだろう」


 トニーニは膨れっ面で言い捨てる

「俺のところにやって来た仕事は変異種の排除だ。蛍石がもう一回死のうが、生きようが、知ったことじゃない」


 ここで蛍石は疑問が湧いた。

「何だ? 俺はダンジョンで死んでも、また蘇生されるのか?」

 トニーニは不機嫌な顔で説く。

「はっきり教えておく。一度は死んだお前が、ダンジョン側の住人として蘇ったのは運だ」


「探索に運が重要な要素なのは認める。でも、本当に運だけなのか?」

「もう一度、死んで、また戻ってこられるのかも運だ。全ては運だ。運が悪けりゃ、すべては無に帰す」


「そんなら、こんな仕事は御免だね」

 トニーニは厳しい顔を向ける。

「そうはいかない。俺の駒の中で、失って痛くない一番の人材は蛍石、お前だ」


「嫌だ。俺は断る」

 トニーニが、にやりと笑う。

「拒否権はない。だが、俺は優しいボスだ。だから、蛍石が行きたくなるように、魔法を掛ける」


 何か未知の魔法が飛んでくるのかと、身構えた。

 されど、トニーニは魔法などを唱えず、非常に意地の悪い顔を浮かべる。

「お前、ここから出ていきたいんだってな。だったら、ここから出て行ける品を、売ってやってもいいぞ」


 蛍石はトニーニの言葉に苛立ちを覚えた。

「嘘は止めろ。ダンジョンの住人になったら、外へ出て行くことは不可能だ」


「何事にも例外はあるのさ。俺はお前たちが探索者に売るアイテムとは別のダンジョン住人専用のアイテムを扱っている。その中に、『人生やり直しの宝珠』がある。こいつを使えば、別人としてだが、ダンジョンの外に出て行ける」

(何だって? 本当に、そんな品があるのか?)


「そんなの、初めて聞いたぞ」

 トニーニは渋い顔をして、乱暴に告げる。

「稼ぎの悪い奴に教えても、意味がないだろう。こいつは一個で二千万ゴルタだ」

(弁当に換算して二万個!)


「変異種を倒したら、『人生やり直しの宝珠』をくれるのか?」

 トニーニが目を吊り上げて怒った。

「馬鹿を言うな。俺は、売ってやると言っただけだ。二千万ゴルタは、蛍石が自分で貯めるんだよ」


「でも、二千万ゴルタなんて、大金だぞ」

「だが、住人用の特別アイテムは俺が売らないと決めたら、いくら金があっても手に入らん。たとえ、三倍の六千万ゴルタあってもな」


「つまり、変異種討伐を受けたら、トニーニから『人生やり直しの宝珠』を買う権利が貰える、ってわけか?」

 トニーニは不機嫌な顔で回答を迫った。

「そうだ。ついでに、見事に倒せたら、百万ゴルタの報酬も出す」


「渋いトニーニしては破格の報酬だな。それだけ危険なのか」

「いっておくが、俺は気が短い。考えさせてくれって答なら、この話は、なしだ。どうだ、やるか? やめるか?」


(トニーニが嘘を吐いている可能性もある。だが、トニーニの話が本当なら、俺は、もう一度、人生をやり直せるかもしれない。ここは、神々が住まうダンジョンだ)

「わかった。変異種を倒して、住人用のアイテムを買う権利を貰う。それで、二千万ゴルタを貯めて、この糞ったれな場所からおさらばするよ」


「よし、いい返事だ。変異種退治用のアイテムを売ってやろう。だが、いっておくが、変異種退治といえど、ダンジョンの制約は受ける。弁当と水筒は要らないだろうが、『自爆玉』と『道連れ玉』は持ってもらう。他に持ち込めるアイテムは、商品枠である、六つだ」


「持ち込める品が六つか、多いとは言えないな」

 蛍石は道具として以下の六つを選ぶ。

『罠避けの靴』『疾風の腕輪』『索敵の書』『地図の書』『玄武のグローブ』『転移草』


 本来なら、ダンジョンの住人は、罠の上に乗っても罠は作動しない。

 だが、異常の路より生成された部屋や通路の場合はわからない。そこで、用心のために『罠避けの靴』を選んだ。


 異常路によりモンスターや部屋の形が把握できないと、危険だ。なので『索敵の書』と『地図の書』を買った。

 あとは、敵を殴って戦うので、武器の『玄武のグローブ』と素早さを上げて戦うための『疾風の腕輪』を買った。残りは逃げる必要性が出た時のために『転移草』を選んだ。


 装備を調えると、トニーニが村の外れにある高さ二m、幅二mの扉の前に蛍石を連れて行った。トニーニが手を翳すと扉が開いた。


 中は一辺が二mの石の箱だった。トニーニがむすっとした顔でエールを送る。

「異常路へは、このエレベーターで行ける。扉が開けば、そこは異常路が生成されたダンジョンだ。気を付けてな。何たってお前は俺の財産だ」

「言われなくても、戻ってくるよ」


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