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第十三話 ポニ子との取引

 鏡花との約束が果たせなくなった。

 トニーニからの盗みは論外。成功しても次の日に盗みは露見する。そうすれば、いかに白を切っても、トニーニは蛍石を罰するだろう。

(トニーニからの盗みは危険すぎる。何か別の手を考えないと)


 とりあえず、風呂に浸って考える。

 だが、名案は浮かばない。夜の薄明かりの中でベッドに寝転がっていると、馬活が描いた絵が目に入る。そこで、蛍石は気付く。


(ポニ子の奴。『封印のスクロール』で品物をスクロールに吸い込んでいたな。でも、あれは、吸い込まれた品は絵になって封印される。通常の方法では、絵になった品物は取り出せない。ポニ子には、絵を実物に変える手段があるのか?)


 ポニ子が、ただ単に商店主への嫌がらせとして、商品を絵にしている可能性もあった。だが、何らかの手段で絵を実物に変える方法を持って泥棒をしているとも考えられた。

(絵に描いた百薬草を実物に変えることができないだろうか?)


 全ては可能性だが、今の蛍石にはポニ子に頼るしかないように思えた。

 朝、早起きして、村を散歩している馬活を探す。すると、池の(ほとり)を歩く馬活を見つけた。

「馬活先生、ちょっと聞きたい話があるんですが、よろしいですか?」

「なんでしょう、私にわかることならいいんですが」


「先生の描いた絵を本物にする方法って、ありますか?」

 馬活は機嫌よく教えてくれた。

「これは、また奇妙な内容を聞きますね。噂では精巧な絵を実物にする異能が存在すると聞いた覚えがあります。『抜き出しの異能』ですな」


 希望が持てた。絵を本物にできれば、鏡花を救える。

「『抜き出しの異能』があれば、絵に描いた百薬草を本物にできるんですね?」


 馬活は穏やかな顔で否定した。

「噂ではできると聞きます。でも、実際には難しいでしょう。絵を本物に変えるには対象の本質を掴んでなければいけない。私の絵にそれだけの力が備わっているとは思えません」


 馬活は否定したが、蛍石は行けると思った。

(先生はもっと自分の筆に自信を持っていいのに)

その日、蛍石は弁当の代わりに、馬活が描いた百薬草のスクロールを持ち込んだ。ダンジョンで店を開く。


 お客は四人やって来たが、鏡花は現れなかった。

(せっかく、手段を見出したと思ったら、会えないのか。こればかりは運だからな)

 ダンジョンが軽く揺れた。もう、駄目かと思ったところで、ポニ子がやって来た。


(こうなったら、ポニ子に懸けるか)

 どうやって泥棒をしようかと算段するポニ子に、声を掛けた。

「君はポニ子だろう。ちょっと、お使いを頼まれて欲しい」


 蛍石に声を掛けられたポニ子は驚いた。

「何で、私の名前を知ってるんすか?」

「鏡花雅代から聞いた。鏡花に渡したい品があるんだ。届けてくれ」


 ポニ子は目を細めて疑う。

「怪しいっす。商店主が決められた以外の言葉を話すなんて。あんた、本当は新種のモンスターすっね?」

「違うよ。俺は、商店主のフローライトだ。わけあって、鏡花とは取引があるんだ。いわば、鏡花の上得意先さ。鏡花の魔眼のことも知っている」


 ポニ子はいくぶん怪しむ態度を和らげた。

「へえ、商店主って、仲良くなると特別な取引が可能なんすね。いいっすよ。話だけは、聞いてやるっす」


 蛍石は魔法のベルト・ポーチから百薬草が描かれたスクロールを取り出した。

「これを、鏡花に届けてくれ。それで、『抜き出しの異能』を使える人物に、百薬草として取り出すように助言して欲しい」

 ポニ子は目を見開く。次に腕組みして考え込んで一人で呟く。

「なるほど、あれが、ああなって、こうなるわけっすね。いやはや、驚きっす」


「何だ? 何か知っているのか?」

 ポニ子は優しい顔で告げる。

「いや、こっちのことっすよ。いいっすよ。鏡花先輩に百薬草を届けても。鏡花先輩も、切羽詰まっているから、すぐにも百薬草が欲しいはずっす」


「よかった。頼むよ」

 ポニ子はそこで商売気のある顔で、要求した。

「おっと、待つっす。ただ働きは御免っす。報酬が欲しいっす。泥棒の一回見逃しで、どうっすか?」


「それは、駄目だ」

 ポニ子は頬を膨らませて抗議した。

「なぜっすか、こういところでケチのはよくないっす」


「俺たちダンジョンの住人には魔法の制約が掛けられている。俺たちは泥棒をされると、相手が逃げ切るか殺すかしないと、停まらない。そこに自由な意志はないんだ」

 ポニ子が顔を(しか)め確認してくる。

「何か、ぶっそうすね。なら、無報酬っすか?」


「いや、品物の割引販売や、買い取りの増額はできる」

 ポニ子の顔が輝く。

「なら、ここに残っている商品の四品を、半額で売って欲しいっす」

(今日の儲けが、ほとんどなくなる。でも、半額なら、いいか)


「今だけ割引ってことで、お使いを頼むよ」

「いいっすね。半額割引の響き。こういうセールは頻繁にやって欲しいものっす」


 ポニ子は機嫌の良い顔で、半額になった品を買っていった。

(よし、これで、大きな事件か事故がなければ、鏡花に百薬草が渡るはずだ)

 ポニ子が消えると、二回目の揺れが来た。商品もなくなったので店じまいをする。

 三度目の揺れが来て地面が崩落する。蛍石はダンジョン村に帰った。


 トニーニに売上金を持って行く。トニーニは明日の誕生パーティの会場設営に忙しそうだった。

 品物がなく、泥棒に遭っていない。なのに、売上金が少ない状況にも(かか)わらずトニーニは指摘しなかった。

(見事にやり過ごしたか。少し不安だが、余計なことを口にして自ら災いを持ち込む必要も、ないだろう)


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