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勇者は異世界で魔女になって女子校に通う  作者: りょう
第1章やって来た魔女は元勇者
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第9限目口説いて朝チュンお泊まり会 前編

「じゃあクレアって元の世界では勇者をやっていて、シルヴィアさんがその仲間の一人だったって事?」


「そういうこと。あ、あと普通にシルヴィアって呼んでいいわよ。一学年上だけど、私そういうの苦手だから」


「分かった、よろしくねシルヴィア」


「よ、よろしくお願いします……」


 改めてお互いの自己紹介をシルヴィア達はする。それを眺めながらクレスは、ほんの少しだけ懐かしい気持ちになった。


(僕もシルヴィアと出会った時はこんな感じだったな)


 シルヴィアはクレスが出会った二番目の仲間で、付き合いも長い。彼女の精霊使いとしての実力は折り紙つきで、クレスは何度も彼女に助けられた。


(そんなに時間経ってないのに、すごく懐かしい)


「ねえねえクレア、折角だから今日はお泊まり会しようよ」


 クレスが思い出にふけっていると、思い立ったようにストレアが提案する。


「お泊まり会? そう言えば明日は学校休みなんだっけ」


「そうそう。折角の休みなんだし、着替えとかは家から取ってくれば問題ないでしょ。ユノはどう?」


「わ、私もお泊まり会したいです……」


「じゃあ決まりね。いいでしょ? クレア」


「ボクは構わないよ。皆とゆっくり話したいし」


 出会ってまだ二日。親睦を深めるのには丁度いいと思ったクレスは了承することにした。


 そして二人が着替え等を取りに行っている間、クレスとシルヴィアは初めて二人きりになれた。

 とは言えどシルヴィアは今日はこのまま帰るということなので、クレスがそのお見送りをしている感じになってしまった。


「お泊まり会か。なんか懐かしい響き」


「シルヴィアも泊まっていってもいいんだけど」


「なに言ってるの。折角できた友達なんでしょ? 三人の邪魔をする野暮なことはしないわよ」


「そっか」


「じゃあまた学校で」


「またねシルヴィア」


 そう言いながらシルヴィアは帰宅の準備を終え、そのまま帰ろうとする。


「あ、そうだった。クレスに聞いておきたいことがあったんだけど」


「聞きたいこと?」


「クレスがこの学園に来たのって、やっぱり頼まれたから?」


「頼まれた、って言われたらそうなるのかも。それこそシルヴィアだって少なくとも一年はここにいたんだし、何か大事なこと任されているのかなって」


「うーん、私の場合はちょっと違うかな」


「ちょっと違う?」


「ま、その辺の話はまた今度二人きりでしよう。お互い積もる話もあるだろうし」


「そうだね」


「とにかくその類の話はまた後日。おやすみなさい」


「うん、おやすみ」


 家を出て行くシルヴィアとほぼ入れ替わりで二人が入ってくる。


「あれ? シルヴィアは?」


「今日は帰るんだってさ。ボク達三人きりのお泊まり会、楽しんでいってだって」


「そうだね。沢山話したいことがあるし」


「わ、私もです……」


「じゃあやろうか、お泊まり会!」


 ■□■□■□

 三人それぞれ入浴も済ませた後、リビングに布団を三人分敷き終えると、最初に話を切り出したのはストレア。


「ねえクレアは本当に中身は男なんだよね?」


「信じられない話かもしれないけどそうなんだ。正直ボクもまだ信じられてない」


「最初に会った日から丁度三日。確かにまだ受け入れられるわけないわよね」


「普通だったら頭がおかしくなると思います」


「だよね。ボクだって最初こんな姿にされた時は、気が狂いそうになったし」


 ただクレスは、この事を二人に話したおかげで少しだけ気持ちが軽くなっていた。このまま黙ったまま学園生活を送ると思っていただけに、助け舟を出してくれたシルヴィアにも感謝していた。


「でも今日シルヴィアに最初会った時、逃げ出したのはどうして?」


「気が動転していたんだ。異界人はてっきりボクだけだと思っていたし、何よりシルヴィアが何か言ったら、確実にボクの正体がバレると思ったから」


「でもいつかはバレる事だったんでしょ? それが早まっただけだし」


「そうかもしれないけど、折角こうしてお泊まり会もできる友人ができたのに、それをいきなり手放したくなかったんだ」


「その気持ち……私分かります。何かを手放すのは誰だって嫌ですよね」


「まあ流石に私も驚かされたけど、その方が逆に面白いし、クレアは悪い人でもなさそうだし友人をやめるって選択肢はなかったわよ」


「私もですよクレアさん」


「そう言ってくれるだけでもボクは嬉しいよ二人とも」


「ただ問題は」


「ストレア達以外の人にどう隠し通すか、だよね」


 ストレア達以外にもいつかはバレる時は来る。けどもしバレた時、この二人のように受け入れてくれる人は少ない分、なるべく隠し通したいとクレスは考えている。


 ただ問題は、その方法になってくるのだが。


「もういっそ、話しちゃってもいいんじゃない?」


「流石にそれは勘弁して欲しいんだけど。どうなるか分からないし」


「それはそうかもしれませんが……。クレアさんだって大変じゃないですか?」


「ボクは大丈夫だよ。ボクには二人がいてくれるから」


「クレア……」


「クレアさん……」


「じゃあそろそろ電気消すね。おやすみ二人とも」


「おやすみ」


「おやすみなさい」


(僕、ちょっと恥ずかしい事言っちゃったかも)


 消灯して布団に潜り込みながらクレスは今言った言葉を思い返して恥ずかしさがこみ上げてくる。女友達同士の台詞ならまだしも、中身はれっきとした男だ。

 つまりクレスは今クレアとしてではなく、クレスとしての立派な口説き文句を二人に言ってしまったのだった。


(今のって一種の口説きだよね絶対)


(私もしかして口説かれた?)


(口説かれちゃいました……)


 この夜、まともに眠りにつけたのは誰一人いなかったという。


 ■□■□■□

「ええ、はい。クレスと無事会うことができました」


 クレスの家を出たシルヴィアは定期連絡を行なっていた。連絡先は彼女達がいた元の世界の人物。


「え? あの子も来るんですか? どうしていきなり。元から決まっていた? そんな事って」


(元から決まっていただなんて……絶対におかしい。それならどうして私だけ一年前に……)


「何か意図があるんですか? ここは女性だけの学園なのに、男のクレスまで送って……ましてやあの子は、あ、ちょっとまだ話は終わって……」


 詮索しようとしたところで連絡が途絶える。まるで何か大事な事を隠しているかのような態度に、シルヴィアは疑念を抱くしかなかった。


(一年前はなんとも思わなかった。けどこれは明らかに何か作為的なものを感じる。どうしてあの子まで……)


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