第8限目生徒会室の精霊使い 後編
気まずい
とにかくクレスは気まずかった
色々な意味で思わぬ形となったかつての仲間との再会。しかも学園の生徒会副会長となれば、嫌でも顔合わせる確率も高い。
(というかなんで僕、入学式の時に気づかなかったんだ……)
「それでクレアちゃんだっけ。次期生徒会長候補って言われている異界人は」
「は、はい」
「へえ。きっとすごい魔力の持ち主なんだろうなぁ」
そんなクレストは裏腹に、何も気づいてないかのごとくクレスに話しかけてくるシルヴィア。
もはやこれは気まづいとかの領域を越えていて、一種の羞恥プレイの領域だ。シルヴィアがクレスのことに気づいてないわけもなく、事情を知らない他の二人は、普通に会話をしている。
(何だろうこの……何とも言えない感情は)
せっかくの再会なのにクレスは喜べなかった。世界を救った後はかつての仲間とは疎遠になっていたし、一度会いたいとクレス自身は思っていたのだ。
(その再会がまさかこんな形になるなんて……)
「クレアさん……クレアさん!」
「え?」
半ば放心状態になっているクレスはユノに呼びかけられ我に返る。気がつくとクレスの目の前にシルヴィアが立っていた。
「どうしたのクレアちゃん。ボーッとして」
「す、すいません! ボク今日は帰ります!」
ついに耐えきれなくなったクレスは、二人を置いて生徒会室を出る。
「あ、ちょっとクレア?!」
「クレアさん!」
それを追ってユノとストレアも生徒会室を後にする。滞在時間わずか十分。残されたシルヴィアと生徒会長はただ呆然としていた。
「シルヴィ、新入生をいじめちゃ駄目ですよ」
「い、いじめてないですよ会長」
「その割には嬉しそうな顔をしていませんか?」
「こ、これはその」
「それは?」
「ちょっとは嬉しいですよ。だってクレスと再会できたんですから」
「けど逃げられていませんでしたか?」
「それは多分向こうが戸惑っているからですよ」
「まあ無理もないですけど……」
生徒会長アルルと副会長シルヴィアは当然彼女……もとい彼のことを認知していた。ただからかってしまったのもとシルヴィアは反省している。
(それにしても本当に転入してきちゃうなんて。どういうつもりなのかしら)
■□■□■□
クレスはとにかく走った。とにかく今はあの場所を離れたくて、苦しみから逃れたくて彼は走った。
「ちょっと待ってってばクレア」
しかし女性の体力にも限界がある。校舎を出たところで息切れし、ストレア達に追いつかれてしまう。
「ご、ごめん二人とも。飛び出してきちゃって」
「別に構わないけど……どういうことか説明してくれる?」
「シルヴィアは元の世界でのボクの仲間だったんだ。まさかこんな形で再会するなんて思わなくて」
「それならどうして仲間なのに……逃げたんですか?」
「それは……」
ユノの質問に答えに迷うクレス。まだ出会って二日の仲でしかない二人に、いきなりこんな事を話したら引かれてしまうのは間違いない。
(なら別の答えを……)
「いずれバレる事だからいいんじゃないの? クレス。一人で抱え込む方が辛いでしょ?」
ユノ達よりさらに後ろからクレスを呼ぶ声がする。その呼び名で呼ばれ、クレスは思わず振り向いてしまう。
「シルヴィアさん、彼女はクレスさんじゃないですよ。それだとまるで男じゃないですか」
「そ、そうですよ」
「そ、そ、そうだよシルヴィア、さん。ボクはそんな名前じゃないですから」
流石にまずいと思ったクレスは、慌てて訂正する。幸いにして二人はクレアの方を信じてくれたので、二人を味方につけて反論する。
「まったく、せっかくの再会を素直に喜べない気持ちもわかるけど、かつての仲間の前くらい素になってもいいじゃない」
シルヴィアはそんなの御構いなしと言わんばかりに二人を押しのけクレスの前までやって来て、彼の体を抱きしめてきた。
「っ! シ、シルヴィア?」
「久しぶりクレス。元気にしてた?」
「元気にはしてた、よ。シルヴィアも姿見ないと思ったら、こんな世界に来てるなんて思ってなかったよ」
クレスもそれを抱きしめ返して、お互いにようやく再会を喜ぶ。
「え、えっとこれは……」
「どういう、ことですか?」
何が起きたのかついていけない二人を除いて。
■□■□■□
「男ー?!」
「うん……」
その日の夜。クレスはシルヴィアも交えてストレアとユノの四人で夕食会もとい種明かしを行うことになった。
「え、ちょ、え、お、お、男ってどういうこと、なの」
「落ち着いてストレア」
「お、お、落ち着けるわけないじゃないですか。だ、だって、ど、どう見ても女ですし……」
「ここの学園長に挨拶した時に魔法をかけられたんだよ。まさかこんなにも早くバレるなんて思っていなかったけど」
「本当貧乏くじ引かされたよねクレスも。よりによって女性だけの学園に放り込まれるなんて」
「貧乏くじどころの話じゃないよ」
学園生活二日目にしてまさか二人にバレる事になるとは思っていなかったクレスは、衝撃を受けている二人以上に、元気がなかった。
「信じられないけど、本当ってことでいいのね? クレア」
「うん。黙っててごめん二人とも。ボクもこんな形で入学させられるなんて思っていなかったんだ。いつか話そうって思ってたけど、もうバレちゃったら意味ないよね」
「意味がない?」
「だって中身が男のボクとこれから一緒にスクールライフなんて気持ち悪いよね。だから友達を辞めても」
「何言っているんですか。何があろうともクレアさんは……友達です」
「そうよクレア。まだ私たち出会ったばかりなんだし、こんなところでやめるなんて面白くないし、私達が出会ったのはクレスじゃなくてクレアっていう女の子。結構びっくりしたけど、このままサヨナラなんてしないわよ」
「二人とも……」
クレスの視界が滲む。まさか出会って日も浅い二人にこんな事を言われるとは思ってもいなかったので、クレス自身としては嬉しかった。
(これで隠し事を続ける必要なんてなかったんだ……)
勿論他の人には黙っていないといけないものの、肩の荷が下りたのは間違いなかった。
「よかったねクレス」
「せめてこの世界ではその名前で呼ばないで欲しいんだけど。ボクはあくまでクレアなんだから」
「分かってる分かってる」
秘密を共有した四人の夜はまだ続く。




