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勇者は異世界で魔女になって女子校に通う  作者: りょう
第2章部活と連休と遠足と
14/14

第14限目ちょっとしたトキメキ

 クレスがこの世界に持ち込んだ物の中に、何個かに分けられた紙の束がある。


「すごい……これ、全部クレアとが書いたの?」


「うん。と言ってもこれでも全体の三分の一の量なんだけどね」


「さ、三分の一ですか?!」


 それは彼が勇者として世界を回っていた頃の記録を小説にしたもの。クレスはそれをストレアたちにも読めるように、こちらの世界の言葉で翻訳を行っていた。

 一ヶ月で翻訳が終わったのは三分の一。それでも簡単に読み終えられるような量ではない。


「クレアがあの部活に入りたかった理由は、これだったんだ……」


「元からストレア達には読んでもらおうかなって思っていたんだけど、もっと他の人に読んでもらいたいって気持ちもあったからね」


 入部した翌日の放課後の部室

 クレスはそれを三人に見せていた。部長であるシャルルは、今クレス達の入部の手続きのために不在。「特に何もない部室だけど、ゆっくりしてて」と言われたので、クレスはわざわざ持ってきた小説を二人に先に見せる、という運びになったのだった。


「それにこれってユノがしようとしている異世界研究の資料にもなるかなって思ったんだ。ほら、ここに書いてあるのってボクの世界での出来事だから。使えるかな?」


「は、はい! 是非読ませてください!」


 紙束をギュッてしながらユノは笑顔で答える。まるで宝物を手に入れたようなそんな様子に、クレスは照れくさくなって視線を泳がせた。


 一方ストレアはというと、


「うーん」


「どうしたのストレア。ボクの顔をジロジロと見て」


「あ、ごめん、何でもない。私も読ませてもらうね!」


「う、うん?」


 クレスの小説を眺めながら、難しそうな顔をしていたが、その理由をクレスは分からなかった。



 それから二十分ほど経った後、手続きを済ませたシャルルが戻ってきたので、二人と同じように紙束を渡した。


「こ、これ全部……クレアさんが?」


「はい。先輩のお口に合うかは分かりませんけど、こうして出会った証として読んでくれると嬉しいです」


 正直に言えば文章の腕前はそこまで自信はない。ただ自身が感じたことを思いのままに小説にしてみただけだった。

 それが果たして三人にあってくれるか、少し不安であるけど、


「じゃあこの感想は連休明けで、いいかな?」


「はい。あの、途中で飽きたらやめちゃっていいので」


「そ、そういう事しないよ。だって、私興味あるから。クレアさんに」


「え?」


 頬を少し赤らめながら言うシャルルに思わずドキッとしてしまう。それはクレアとしての反応ではなく、クレスとしての反応。


(い、いくらなんでも気が早すぎるよね)


「ちょっとクレア、なんで顔赤くなっているのよ」


「え、こ、これはその」


「わ、私何か変な事言ったかな?」


「せ、先輩は何も悪くないです! こ、これはボクの問題なので」


「クレアさん……」


 事情を知っているユノとストレアから哀れみの目で見られる。


(言えない、一瞬でもときめいてしまったなんて言えない)


 クレスはこの後、羞恥と己自身と戦いながら連休前最後の部活(とは言ってもまだ二日目)を終えたのだった。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「馬鹿じゃないの」


「本当馬鹿ですよ」


 部活終了後、クレスの家にそのままやって来たユノとストレアに最初に言われた一言がこれだった。


「い、いくらなんでもそれは酷すぎない?!」


「だって事実だし」


「何も知らない人からしたら……女性が女性にときめいた事になりますからね?」


「い、いや、ほら、そういうのもあるから」


 男だからそっち系にはならないけど。

 ともかく、


「ボクは別に不純な動機で入ったわけじゃないから!」


「怪しいわね」


「怪しすぎます」


 二人が信じてくれないと始まらないわけで、クレスはこの後二人に弁明し、先ほどの事はなかったことという事に落ち着いた。

 ただしユノは、「本当なのかこれから調べる必要が……」などと言っていたので、警戒しなければならないのは変わらなかった。


 そして時間は更に経過し、日付が変わる少し前。


「じゃあ連休明けね、クレア」


「うん、気をつけてねストレア」


 明日の準備があるという事でストレアが先に一人で帰宅する事になり、クレスは外まで彼女を見送っていた。


「それはこっちの台詞。ユノに手を出したりしないでよね」


「す、するわけないじゃん! ボクを何だと思ってるの?」


「少なくとも女装してまでここに通う変態だとは思ってる」


「そんな風に思われてたの?!」


 それはそれでショックだ。別に好きでしているわけではないのに、変態と思われているなんて不本意すぎる。


「冗談よ冗談。とにかく絶対に変な事はしないでよ? 何かあったらユノに連絡するように言ってあるから」


 そう言い残すとストレアは自分の家に入っていった。


「何でここまで信用されてないんだろボク……」


 自然とでかいため息を吐く。

 前科があるからなんだと思うけど、それも勿論不可抗力だったので、ノーカウントにしたい気持ちだ。


「戻るの遅かったですね。ストレアさんと何か話していたんですか? ふわぁ」


 外から戻るともうすぐその場で寝てしまいそうなユノが出迎える。


「別に何も話してないよ。ただストレアに忠告されただけ」


「忠告……ですか?」


「余計な事をしたら許さない、ってさ」



「あ、もしもし? お父様ですか? はい、明日の午後にはそちらに戻ります。はい」


 実家に帰る事がこんなに憂鬱に感じた事はない。一ヶ月前に家をやっと離れたばかりだったのに、また連れ戻される。五日であの場所から離れられるとはいえ、ストレアの気持ちは全く嬉しくない。


「はい。はい。ではまた明日」


 家に備え付けられてる電話を切りストレアは深いため息をつく。父親にはBhoneを持っている事は話していない。むしろ一生話さないつもりだ。


 話したら何を言われるか分からないし、何をされるかも分からない。


「はぁ……何でまた帰らなくちゃいけないのよ……」


 憂鬱だった

 クレア達にも気を使わせてしまったし、ストレア本人も申し訳ないと思っている。


(こういう時に誰かに頼れないから駄目なのよね……。頼れる話じゃないけど)


 折角親元から離れられて、新しい友達もできたのに、気持ちは一向に晴れない。ずっと誰かに見られているような感覚に苛まれて、まだ心の底から学園生活を楽しめていない。


(変わる……ううん、変えるんだ。もう後悔をしない為にも)


 ストレアは強く決意し、一人実家へと帰るのだった。

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