第13限目文芸誌同好会 後編
文芸誌同好会たった一人の部員、シャルルはたった今現れた新入部員に興奮を隠せずにいた。
「え、えっと、じゃあ貴方が……噂の異界人……という事なの?」
「はい。ボクは一ヶ月前にこの世界に来たばかりなんです」
「クレアさん……だっけ? どうして……ここに?」
「入学してすぐの部活動勧誘で偶然にも先輩の声が耳に届いたんです。その時は同好会の名前しか聞こえなかったんですけどずっと気になっていて」
「ご、ごめんね。私人と話すの苦手……だから」
「私とキャラ被ってます」
「そういう事言っちゃ駄目、ユノ」
「え、えっとそれでそちらの二人は……」
「私ストレアって言います」
「私ユノです……」
「二人は……入る部活決まっているの?」
「私がその……部活を作るんです。異世界研究部っていう……」
シャルルの質問におどおどしながら答えるユノ。どちらも似たような性格からか、どうしても会話がうまく繋がらず、気まずい空気が流れる。
(別に重い話題はしてないのに、なんだろうこの空気)
クレスは少し戸惑う。
「でも今から新しい部活を作るのは……難しいかも」
「え? どうしてですか?」
「新しい部活を作るのには最短でも二週間前に手続きする必要があるの……。色々生徒会が審査するみたいで……」
「つまり私達……部を作れないんですか?」
「うん」
「そんな……」
衝撃の事実に言葉を失うユノ。クレスとしては、調査対象が自分にしか向かないので、助かったと内心安堵していた。
そのユノの様子を見て、シャルルは慌てた様子で取り繕う。
「ご、ごめんなさい。悲しませるつもりはなかったんだけど……」
「でも事実……なんですよね?」
「そ、そうだけど。そ、そうだ、その活動をここでやらない?」
「え? いいんですか?」
顔を輝かせるユノ。
「その……私のやっている事も、そんなに大した事じゃないし……私も異界人に興味があるから、そっちも手伝いなって」
「あ、ありがとうございます! 私同好会に入らせてもらいます! ストレアさんもいいですよね?」
「ユノがそれでいいなら私もそうするわ。どうせ入りたい部活もないし」
「ありがとう二人とも」
ちょっと予想だにしない展開で収束してしまった事に、クレスは苦笑いする。
(これってつまり、ボクの事を調べる人が増えたって事だよね?)
ユノ達と同じ部活に入れるのは嬉しい反面、複雑な気持ちだ。クレス自身、彼女に教えられるような情報を持っているわけでもないし、それで彼女達が満足してくれるかも不確か。
それでもそれぞれの意味で喜んでいる三人に、クレスは何か言う事もできずにとりあえず三人に合わせた。
「じゃあ……三人は今日からここの所属って事でいい?」
「はい、よろしくお願いします、シャルル先輩」
「よろしくお願い……します!」
「三人ともようこそ、文芸誌同好会へ」
こうしてクレス達三人は、偶然にも同じ部活に所属する事になったのだった。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「これで部活も決まったし、本格的に学園生活の始まりね」
その日の下校途中。ストレアがBhoneをいじる手を止めて、二人に向けて突然言いだした。
「もう始まっていたんじゃないの?」
「何を言っているのよ。学園生活の始まりといえば、友達を作って部活に入ってからが始まりに決まっているじゃない? ねえユノ?」
「そ、そうなんですか? 私は初めて聞きましたけど」
困ったようにユノは返事する。クレスも学園生活がどんなものか一ヶ月前まで知りもしなかったので、どう返せばいいか分からない。
「本当二人は何も分かってないわね。いい? 学園生活って言うのは」
困惑する二人を無視して熱弁し始めるストレアを無視して、クレスとユノは先に歩き出す。
この一ヶ月一緒に過ごして分かった事は、基本ユノは自分の意見を言うのが苦手なタイプで、それが正確に反映されている。ストレアはその逆のタイプの人間で、言ってみれば二人は真逆の性格をしていた。
クレスはといえば……。
(どっちとも言えないなぁ)
二人の中間みたいな感じ、なのかもしれない。
「クレアさん、あの」
「ん?」
途中で歩くのを止めたユノが何かを言いたそうにしているので、クレスは足を止める。
「明後日クレアさんの家にお泊まりしてもいいですか?」
「ボクの家に? 別に大丈夫だけど」
一ヶ月の間に二人が何度かクレスの家に泊まりに来た事はあった。その度に前のような事は起きなかったものの、ちょっとだけトラウマにはなっていた。
「そういえば明後日から大型連休だっけ」
「はい。なので一日とは言わずにお泊まり会またしたいなって」
「いいよ、分かった」
二日後、世間が長い休みになるので勿論学園も休みになっている。具体的には五日間。
クレスにとっては初めて過ごす大型連休なので、特に予定も決めておらずユノの誘いを受ける事にした。
「ちょっと二人だけで何話してるのよ」
「え、あ、実は」
「な、何でもないですよね、クレアさん」
「うん? う、うん」
会話に入ってきたストレアをクレスは誘おうとしたが、ユノに止められてしまう。
何でだろうって思った時、「クレアさん、思い出してください」とユノに小声で言われてクレスは少し前にストレアが話していた事を思い出した。
「そういえば来週五日間休みだけど、私ここを離れなきゃいけないの」
「ここを離れるって、もしかして実家に帰るんですか?」
「うん、まあ、そうなるかな」
一週間前、大型連休という存在を数時間前に知らされたクレスは、何をして過ごそうかと悩んでいると帰り道にストレアがそんな風に切り出した。
けど切り出した本人は、少しだけ元気がなさそうだった。
「なんか浮かない顔しているけど、大丈夫?」
「だ、大丈夫大丈夫。少しの間会えないのは寂しいけど、二人は連休を楽しんでね!」
この時クレスは直感的にストレアが無理をしていると感じてはいた。
まるで帰りたくない場所に帰らされる
そんな様子の彼女に、クレスとユノは少し戸惑っていた。
きっとストレアはそれに触れて欲しくない
だから二人は敢えて触れずに、今に至る。
「二人だけの秘密なんてずるいよ。私も混ぜて!」
しかしそんな彼らの気遣いなど知らずに、ストレアは何度も聞いてくるのでただ困る事しかできないのだった。
「べ、別に大した事話してないよね? ユノ」
「は、はい」
「うーん、怪しい」
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その日の夜
風呂から出たクレスが、Bhoneに入っているチャットアプリを開くと、先輩のシャルルからメッセージか入っていた。
『改めてこんな部活に入ってくれてありがとう、クレアさん。今年も一人かと思っていたから、クレアさん達が入部してくれて嬉しいです』
絵文字を交えたその内容を見て、クレスは内心ホッとした。正直ストレア達と別れて部活に入るのは不安があったし、かといって彼女達の部活に入るのは躊躇っていた。
クレスは『こちらこそ歓迎していただきありがとうございます。よろしくお願いします!』と返信をし、ベッドに寝そべりながら天井を見つめる。
「これからが学園生活の始まり、か」
さっきのストレアの言葉を思い出す。この一ヶ月、クレアという名前と学園生活に慣れ始め、そろそろあっちの方にも力を入れ始めなければならない。
(ここでの生活も大切だけど、自分の使命も忘れないようにしないと)
目を閉じると睡魔ががすぐにやって来る。明後日からの大型連休に、心を少しだけ躍らせながら、クレスは深い眠りに落ちたのだった。




