~Existence of God~
神々
家に帰ると、どっと疲れと脱力感に襲われた。
(じじいかよ・・・いやでも休日なんてあんな長時間外にいねぇし。出たとしても買い物に行くだけで数分だしな。
・・・いや男子高校生がこんなんでいいのか?っていう突っ込みはなしにしとこう。
・・・ん?この靴みたことあるような・・・でも確か俺の靴でもあの人たちの靴でもない)
「え。まじで・・・」
ばたばたばた、と階段を駆け上がり自分の部屋の前まで来る。すると中から二つの声が聞こえた。一つは小さい時から知っている聞きなれた声、そしてもう一つは最近知った良く通る子供の声。そして時刻はもうすぐ六時。
(いやもう『どうやって鍵開けたんだ。』とか『帰れ』とも思わない。でも)
「なんでお前らが仲良く喋ってるか理由は聞かせろよ。奏・陸」
ドアを開けながら仲良さげに話している二人に声を掛ける。
「「おかえりー」」
「「おかえりー」・・・じゃない。はもるな。
・・・ここにいる理由も分かるし、お前らのコミュ力の高さは知ってるから仲良く喋っているのも納得できるけど、このかもし出されてる『昔からの知り合い』みたいな雰囲気はなんで?」
その質問に『待ってました』とばかりの顔をする二人は互いに相槌を打つ。そして『まずは座ったら?』と、さも自分の家のように進めてくる奏。『いや俺の家だから。』と突っ込みたくなったのは抑え俺も近くのベットに腰をおろす。
「それでさっきの優の質問の答えだけど、そうだよ。僕達は僕と優が出会う前から仲良しだったんだけどそろそろ優にそのことを話そうと思って僕が呼んだんだ。」
その『答え』を聞き陸へと確認を取る。
「陸、ほんとか?奏の捏造とかじゃないよな?」
「ああ。」
「・・・分かった。それで?お前と陸との関係は一体何なんだ?」
「うん。それを話すにはいろいろと前置きが必要だからまずは僕のことから話そうかな。じゃあ一つずつ話すね。」
そういうと奏は目を閉じ、すうっと一呼吸置いてからゆったりと目を開け話し始めた。
「優。落ち着いて聞いてね。
僕達はこの世界に・・・いや優たち、といったほうが良いのかな。に、生み出された存在。うーん、簡単に言えば君たち『人』の『心の矛盾』・『思いの矛盾』から生み出された存在。といったほうが正確かな。・・・少し分かりやすく一般的な君達の言い方に直す『神』といえば分かりやすいかな。僕たち自身そう思っているし。だから僕たちは人のことを良く理解しているつもりだし、さっきも言ったように僕達は『人の心』で出来ているからそう遠い存在だと思わないでくれると嬉しい。だけど一つ大きな違いがあるとればそれは寿命。僕達は特別何かない限り死なない。
・・・これで神の話しは終わり。じゃあ次に僕がここに降りてきた理由を話そうか。」
「・・・」
ぽかーん、本当にそんな表情が正しいと思う
『そして』と奏は間を空けて再び話し始めた。
「僕はね人で言うところの『神の生活』とやらに飽きてしまったんだよ。寝ることも、食べることも何もせずとも生きていける僕の世界に。そんな恵まれた世界を『飽きた』なんて言ってはいけないのかもしれないけれどね。・・・だから僕は(一度、『人』という存在に会いに行こう)そう思い立ってふらふらと人のいる世界『地上』に降りてきた。そこからは何の目的もなく人の家や店、さまざまな『神の世界』にはなかったものを見て、話す言葉に耳を傾けた。するとね『人の家』に入ってみたくなったんだけど・・・神は絶対に人に危害を加えない。加えようとしたその瞬間神の名は剥奪される。だから僕は陸の気配をたどってとりあえず陸の家に上がりこんだんだ。」
「・・・一つ質問。その言い方だとまるで地上に降りてくる前から陸と知り合いだった。見たいな言い方だが。」
そういって陸のほうを一瞥する。しかし陸は目を閉じ奏の言葉を肯定しているようだった。
「うん。さっきも言ったでしょう?『優と出会う前から仲良しだった』って。陸はね、僕が地上に送ったんだ。」
「奏が・・・?」
「うん。だから陸も僕と同じ。人じゃない。」
「・・・」
奏は神様?陸も神様で人じゃない?俺と十五年以上もの間過ごしてきたのに?俺とは違う?
「じゃ、じゃあ陸の家族はなんなんだ?母親は?父親は?人じゃないのか?」
「あの人たちは人だ。催眠術で俺が本当の子でなく、血すら繋がっていないことを隠している。だから知らない。強いて言えばあの人たちは『陸が産まれた』というその瞬間も覚えていない。いや最初からなかったことなんだから『覚えていない』は間違いか。・・・産まれたという事実がまず存在しない。」
「・・・じゃあ出産とかは!?妊娠してすらいないのに・・・」
「いや。していた。」
その時、初めて陸が顔を歪ませた。今まで『自分が本当の子供じゃない』ということにすら感情を表に出さず、淡々としていたのに。
「神は普通、天界で何百年か暮らして天界での生活、自身のあり方を理解し覚える。そして人の街を知りに天界からココ、俺たちで言う『下界』人間で言う『地上』に降りる。
神がどこの町に行って誰と関わるなんて降りてみなきゃわかんねえんだよ。そして稀に妊婦の体内に入ってしまうことも本当にごく稀にだがあるのはある。そして俺はその『ごく稀に』に入っちまった。・・・そんなことを知らない母体はどうする?産む・・・よな。
その妊婦は二人妊娠してたんだ双子だよ、双子。だが、妊婦は病弱だった。同時に二人なんて最初から無理だったんだ。産めたとしてもなんらかの障がいを持って生きていくしかない人生。最悪の場合、腹の中の子とともに・・・っていう状態だった。そんな人の体内に俺が入っちまい産める確立はほぼ0。・・・だが俺は神だから、そんなことでは死なない。だから生まれることが出来た。
・・・そしてあの人たちはそれを知らない。俺を『健康に生むことができた双子の片割れ』だと今でも思っている。そして俺はそんな中で今もこうやってのうのうと生きてる。・・・俺は育ての親の子、二人を殺したも同然なんだよ。」
そういった陸の手はいつのまにかこぶしは握られ血が出るのではないかというほどつめは食い込み、体は自分自身への怒りに震え、『罰してくれ』と訴えかけられているようで、見ているこっちまでもが苦しくなるほどだった。・・・がそれがゆるりと解かれたかと思うと罪悪感とは違う、別の強い『意志』を瞳に宿らせ言葉を紡いだ。
「だが俺が今『人間』として生活しているなかでしなければいけないことはあの人たちへの懺悔と後もう一つ、『あの人たちの子』としてあの人たちに俺といて少しでも『楽しい』と思ってもらうことだ。そうじゃなきゃ殺してしまった双子に申し訳がたたないから。」
(ああだからか)とふと、思った。こいつの強さの秘密はコレか、と。
「・・・そう心に決めたときから俺への中傷も、皮肉も、周りから与えられる嫌悪全てを無視した。それはお前も知っているだろ?
俺と人では最初から出来ることが格段に違う。生まれてすぐ降りてきたとはいえ神だからな。だから、嫌われた。・・・それに俺自身神と人の区別がはっきりとはまだできていなかったときは『なんでできないんだ』って感じで出来ない周りを見てたからな。そこらへんも周りは気に食わなかったんだろうな。
・・・俺は『自分は『神』でここにいる全員は『人』』ってことが早くに理解できたのが救いではあったが同時に恐ろしくもなった。救いだった理由は早くに理解出来たことで同時に立ち振る舞いもその時に覚えられたこと。恐ろしかった理由は俺と同じ・・・つまり神が近くにいなかったこと。周りには自分と同じ感覚を持つものはいないという心細さとそのせいで湧き上がってくる恐怖。家の中は幸せだった。惜しみなく愛情を注いでくれる温かい養父母が居てくれたから。だけど同級生とかはどうしても恐ろしかった。けれど、そんな泣き言を言う資格なんてものは俺にはなかったし、それを聞いたあの人たちが悲しむ姿なんて見たくなかったから、辛くても何もいわなかった。だけど」
少しだけ陸がまとわせている空気がふわりと緩み優しくなった。
「だけど」
繰り返す
「お前が現れてくれたから、いや、いてくれたから俺は本当の意味で人を好きになれた。神の一番大切な『人を愛する心』が芽生えた。養父母のことは愛していた、ではなく感謝していただけで愛せてはいなかったからな。・・・お前は俺のことを嫌わなかった。能力なんかで判断しなかっただろう?」
(・・・違うそうじゃない。)
「違う。俺もお前が知った『お前を嫌ってた人間』だ。同じように俺も『お前の能力』を憎んでた。嫌いだった。だから俺をそんな風に綺麗な人間みたいに言うな。」
事実だ。俺は陸のことを嫌っていた。陸の両親のように陸を好きなんかじゃなかった。
「だけど、お前は『自慢ぶっていた『天野陸』』を見直してくれただろう?下心じゃなく真正面から。そして友達になってくれた。お前は俺にとっての救いだったんだよ。」
「・・・」
「・・・優、陸。」
その時ずっと言葉を発していなかった奏が俺たちの名前を呼んだ。
「なに?奏」
「なんだ?奏」
ふわり。気づいた時には俺と陸は小さな奏に優しく抱きしめられていた。
「「奏?」」
「いやさっきのままだったら二人とも遠慮して話が進まなさそうだったから。・・・ねえ優、陸。」
もう一度ゆっくりと呼吸をする。
「僕を恨んでいる?そして今君たちは幸せ?」
その瞬間は一瞬時が止まったかのようだった。
「「ぷっ」」
「「はははは」」
また陸と声が重なる。
「えっちょっと笑わないでよ!本気なんだから!」
「いや、そんな重い感じでいうから何かと思えば。
・・・当たり前だろ。なんでそんなことわざわざ聞く?」
「優と同じく。そんな当たり前のことなんで聞くんだ?」
俺と陸がそういった瞬間また奏に抱きしめられた。
「ってまたかよ!」
「最近抱きつくことにハマったのか?」
「あーやばい嬉しすぎてハゲそう」
「はっ?」
「・・・あ、やばいそれ想像したらめっちゃ面白いんだけど。」
「なんでお前はそんな想像冷静にできんだよ!」
「いやお前も想像してみろよ。マジ笑えるから。」
「・・・」
(この白銀色してる奏の髪がハゲ・・・)
「ぷっ」
プッチン
何かが切れる音がした
「神がまじめにそれくらいの喜びだっていってんのに笑わないでよ!
・・・だって陸も僕と同じ神なのに『人の体内に降りちゃった』って僕コレでも責任感じてたんだよ。
それにいっとくけど僕、神の中でも偉いんだからね!陸は知ってると思うけど!」
と、いきなり切れだす奏。
「ああ、そうだったな。
それも優に話す必要があるんじゃないか?ここまで話しちまったんだし今更いわない理由もないだろ」
と陸がいうとまた部屋の中を流れる空気がピンと張り詰めたものになった。
「そっか。コレもいわなくちゃいけないよね~ココまで話しちゃったもんな~。これあんまり僕自身好き好んでやってるわけじゃないから言いたくなかったんだけど、しょうがないか。」
その空気を奏が少し緩める
「ふふ。そんなに硬くならなくても大丈夫。コレは重たい話とかじゃないから。」
にこりと笑い俺がつけた名前のように言葉を奏で始めた
「今から話すのは僕達の存在は『神』だといったけど、神とは一体なんなのか。そしてさっき僕が言っちゃった『神の中での位置づけ』そして陸が言ったように神はなぜ地上に降りるのか。の話。」
「・・・神はね大きく二つに分かれてるんだ。
一つは固有の物から生まれる者。
そしてもう一つは同じような人の『願い』や『欲望』それぞれの思い、そんなものが引き寄せられるとひとつの存在が生まれる、それが僕達。
固有のものでいえば『saturn―サターン―』とかの星の名前。
思いでいえば、よく言う『恋の女神』とか『学問の神』とかね。
これで一つ目の説明は終わり。
じゃあ二つ目いくよ。
神っていうのは信仰されているもの順に『上位』『中位』『下位』ってランク付けされてるんだ。・・・ああ『信仰』なんていったけど硬く考えないで大丈夫。極端に言えば有名か、有名じゃないか、だから。神のシステムは有名だったら上位、そこそこだったら中位、そして信じている人がすくなければ下位って決められてるんだ。
・・・ざっくりといったけどココまでで質問はある?」
奏のいつも通りだけどどこか切なそうな声に耳を傾ける
「・・・いや大丈夫。」
「じゃあ『なぜ僕たちは地上に降りるのか』を。」
再び奏が息を吸う。
「さっき陸が言ったように僕達は『人の世界』を知りにココに来る。そしてなんらかの方法を使って人一人と関わり関係を少しだけ深くする。・・・僕たちは客観的に人という存在を見れるから、へんに熱くなったりとかもしないしね。そしてこの世界のことをじかに深く教えてもらう。。ってわけ」
「・・・なんかそれ神ばっか得してるくね?」
「そう!だから僕達は教えてもらう『お礼』としてその人の願いを一つ叶えることにしてるんだ。
僕の場合は少しだけ変わってて、見知った陸のところへ行けたんだ。陸は一応神だけど、ココで生活をするにあたって支障が出ないために、『神の力』の象徴である『願いの力』が欠けていた。だから、僕は陸の願いを叶えてあげたくて陸のところへ行ったんだけど・・・」
そういうと奏は陸のほうを見てわざとらしく肩を落としてから話を続けた。
「陸ったら『俺の願いはもう叶えられてるから大丈夫だ』とかいわれちゃって・・・。僕びっくりしたんだ。何千年と生きられる僕たちにも小さな小さな欲望くらいはあるのにそれすらないって言われたからね。『本当にないの?』って何回も聞いたんだけど返事は変わらず。仕方なく『陸の願い』から『陸が願いを叶えてあげたい人』に質問を変えたんだ。そしたら陸ったら難しそうな顔から一変して『頼む』って真剣な顔をするんだもん。どうしたんだろうと思って聞いてみたら『頼む。あいつの願いを叶えてやってくれ』っていわれちゃって。・・・その『あいつ』が優、君だったってわけ。そして僕は君の家に行った。
・・・どう?繋がった?」
「・・・なんとか。」
そういいながらも俺は頭の整理に手一杯だった。
(まず
・奏が陸をココにおとした。だから陸にとって母親はただの母体
・陸は自分のせいで死んでしまった双子に報いるため今を生きている
・奏は『神』と呼ばれる存在
・神は二つに分かれていて一つは感情。もう一つは物の名前から生まれている
・神はランク付けされている
・神は人の生活を知るために地上に来る
・教えてもらったお礼に願いを一つ叶える
・・・ん?)
「奏。」
「何?」
「お前さっき『神での生活に飽きてココに来た』とかいってなかったか?」
「あ」
そんな間の抜けた奏の声に続いて聞こえたのは陸の大きなため息、そして
「奏でさまーーーーー!!!」
という叫び声だった。
「「「え」」」
ビューっという大きな突風の音と共に開けていた俺の部屋の窓から入ってきた、それは息を切らしていた