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神の寵愛を受けたもの  作者: ユウ
6/9

~変化するココロ~


          変化するココロ


(奏と最後に話してからもう一ヶ月か・・・どこいってんだ?あいつ。どっかで野垂れ死んでなきゃいいけど。・・・でもなんか会いたいけど会いたくないっていうか、変・・・だよな)

そんなことを考えながらブログを開くとメッセージが届いてあったので読んでみる。そして感じたものは

(いきなりだな・・・)

とかいう驚きではなく素直な喜びだった。確かにここ最近は良くブログで話していたし、お互いが同じ学校であることなどについても話したりした。そのおかげか

(会って話してみたい)

という気持ちもあった。けれど

(それを『楽しい』と感じているのは俺だけなのではないのか。俺とはブログ内でだけ仲良く出来ればもういい、と思われているのではないか。)

そう思っていたのが杞憂になったことは本当に嬉しかった。だけどそれが過ぎると

(返事をしなければ良かった・・・)

という後悔だった。

(会って『こんな人だとは思わなかった。ブログ内でだけ仲良くしていれば良かった。』そう思われたらどうしよう)

そんな考えが返事を送った後に脳裏をよぎった。

(正反対・・・)

「優・・・」

「!・・・ビックリした。いきなり後ろから声かけるな・・・。

 ?どうしたそんな気の重そうな顔して。今ブログをチェックし終ったところだよ。・・・なんかもう一生会えないような気がしてた。」

「はは、ごめんね。」

「学校から帰って来てもいねえし、かといって俺がいる間に帰ってくるわけでもねえし、どこ行ってたんだ?一応心配したからな。」

(会いたかった・・・でももう会ってはいけないんじゃないのか?)

そんな意味の分からない感情が波打った。

「優・・・今君の中にある二つの感情の名前を教えてあげる。一つ目は―」

ぷつりと奏の声が途絶える

「・・・?っなんて言ったんだ!?・・・奏!」

その言葉を聞くと同時に奏はうつむいていしまった。悲しそうな苦しそうな顔の奏にこれ以上声が出なかった。

「・・・そう・・・か。僕と君は『違う』もんね。君は人で僕は人じゃない。違う存在だもんね、これ以上聞こえないのは当たり前・・・。

 じゃあ仕方ない。痛かったらごめんね。」

そんなわけの分からないことをぶつぶつといったかと思えばいきなり俺の心臓を押すように指を突き立てる。ぐいっという衝撃と刺さるような痛みと共に俺は意識を失ったー


 少しの心臓の痛みと共に目が覚め見た景色は見渡す限りの暗い場所だった。

 右

 左

 上

 下

一面がただの闇。今立っている場所は本当に地面なのかすら分からないほどの闇。

「どこだここ?・・・確か奏と話してたんだよな。・・・っ!」

俺が話した途端、光ながら暗闇の中で数多の写真が現れた。ゆったりと光を帯びながら変化していくそれには必ず一人の男の子が写っていた。一枚目は大粒の涙をこぼしながらも必死に笑おうとしている男の子・・・

(もしかして・・・)

そう思うと写真は次の物へと変わる。次は本当に嬉しそうに母親と思われる人に飛びついている様子が映し出されていた。

(やっぱり・・・。最近は思い出さなかった・・・いや思い出しても、あーだ、こーだ言い訳して逃げてた。)

次は父親と母親に喋りかけるも無視され、体に触れてみると

「突き飛ばされて泣いて結局また無視されてしまう・・・。だろ、奏。」

思い出した俺は当事者である奏へと声を掛ける

(思い出したんだね。優)

「ああ。俺はこんなにも心が麻痺してるんだな。・・・心の底から泣いて、心の底から笑って、今の俺には両方しなくなったことだ。」

(これは君自身の記憶。でもそれだけじゃない。流れてくるでしょう?その時の想いが。感情が。)

「ああ。今思えばこんな些細なことにでも笑って、泣いて。・・・笑えてくるよ。でもいつからか俺は心の底から感情を出すことをしなくなったんだな。まるで・・・」

「『心がないみたい』だよね。・・・今君はピエロ同然だ。表面は笑ってるけど、内面は笑ってなんかいない。嫉妬、憤怒、絶望・・・。そんなものたちが渦巻いてる。けど、それすら表面上には出していない。空っぽだ。」

 やっと現れたと思った奏の顔からはいまいち感情が読めなくて、いまさら記憶を見られたことによる怒りやそんな弱いところを見られたことによるなんともいえない苛立ちがふつふつと沸きあがってきた。

「ピエロ・・・ね。確かにそうかもしれないな。表面はへらへら馬鹿みたいに笑って内面は馬鹿にするなって怒ってる。・・・だけどそれの何が悪い?人に見捨てられたくない、愛されていたい、そう思うことをやめられないからこうしてるんだ。素の自分をさらけ出して必要とされるなら俺だってそうしてる。

 でもそれじゃあ俺は実の両親にさえ愛されなかった。だから俺は『愛される存在』になるために自分を変えた。それの何が悪い?」

俺のすがるような声は奏を苦しそうな顔に変えただけだった。

「・・・優、それは悪いことじゃない。それにきっと自分を変えるためにたくさんのものを捨てただろう?それが出来ない人だっている。それは本当にすごいと思う。・・・でもそんな嘘で固めた自分が好きだって今の君は胸を張っていえる?そんな嘘だらけの自分の友達に君は『こいつは俺の友達だ』っていわれて嬉しい?所詮いくら仲良くしたところで嘘なんだよ?本当に君はそんなものを望んでいるの?」

正論。奏の言っていることは事実。

(だけど)

「・・・でも!・・・それじゃあ俺は、また一人になる。

 またあの時みたいに誰かに見捨てられるのは嫌なんだ・・・怖いんだよ。それなら心の中で悪態つきながらでも、本当の友達じゃなくてでも、無理矢理笑いでもして関わっていかないとダメなんだ。」

「・・・じゃあ聞くけど君は今の生活に満足しているの?その上辺だけの関係はいつ切れるか分からないんだよ?君はそれを望むの?

 ・・・違うでしょう?それなら本当に君の思っていることを、考えていることを言って前に進もうよ。これで言いたいこと言わずにそれとは反対のことを言っていりもしないイライラを抱えることも、少しは他人のことで自分がイラつくことはなくなるでしょ?もしかしたら君の言う通りまた一人になっちゃうかもしれない。でもそこからまたスタートすれば良いんだよ。そこからは心の底から『今、最高に幸せだ』って思える未来を掴むしかないんだよ。」

「・・・」

奏がいったことに『知ったようなことを言うな』『何にも知らないくせに』そう反論するのはたやすかった。だけどそれを口にするのは俺には負け犬の遠吠えにしか聞こえない気がしたし、そうやってうだうだ言っていてもなにも変わりはしないのは明らかだった。


「・・・今までずっと一人になりたかった。

 一人になれば人と関わることで悲しくなったりしない、辛くならないから。でもそんなの無理だった。人との関係を捨てて生活できるほど俺は強くなかった。だけど本当に心を開いて『友達』になるのは・・・怖かったんだ。『そんなやつだと思ってなかった』って言われるのが怖かった。だから弱くないもう一つの自分を創って、笑って・・・演じたんだ。違う自分を。最初はそれでよかった。でもお前の言うとおりそんな嘘を演じている自分を好かれても嬉しくなかった。相手が笑ってたら理不尽にも『何でこいつこんなに笑ってんだよ』って思ったりして。

 自分から始めたことなのにイライラして・・・馬鹿みたいだよな。」

必死に冷静さを装って感情的にならないように、天邪鬼な自分を諭すように無理してそんな事を言ってみたけどほんとは泣いて『なんで』って『どうして』って叫びたかった。

 でも『たとえ家族であっても人に期待しない・甘えない』俺はそれを『人は絶対に誰かから愛される確立は百パーセントじゃない』って理解した日、あの人たちが自分を見なくなった時に決めたから。 

 これは最後に残った俺だけのものだから奏にすがりつくことはしたくなかった。だからお得意の無理矢理な笑顔をやってみせるから少しだけ、今だけ騙されてくれ・・・奏。

「・・・そんな悲しそうな顔で冷静な振りなんかしないでよ優。泣きたいなら泣いて叫びたいなら叫べばいいんだよ。『なんで』って『どうして』って。それをしても何も変わらないかもしれない。でも今までそうしてこなかった分が今、報われるとき。もうそろそろ自分を好きになってあげなよ。大丈夫。絶対に僕は君を見捨てたりなんかしない。」

・・・『泣きたいなら泣いて叫びたいなら叫べば良い。絶対に僕は君を見捨てはしない』その言葉を聴いた瞬間俺の中で何かが破裂して溢れ出しそうになった。何かが許された気がして、こんな小さな子相手に泣き喚いて縋り付きたくなった、でもやっぱりためらわれて何もしない俺を奏は分かってくれたようでそっと優しく抱きしめてくれた。誰かに抱きしめられるのもそんな風に優しく触れられるのも記憶にないほど昔のことで嬉しくて静かに泣いた俺を奏は俺が眠るまで驚くほど綺麗な歌声であやしてくれる。その間に景色はどんどん現実味に帯びていく。奏の奏でた歌は聴いたことのない言語で紡がれていたけれど不思議と違和感はなくどこか懐かしく切ないメロディーだった。


(優・・・君の嫌っているその名前は僕は君にぴったりだと思うよ。君は誰よりも優しい。そんな優しい子をこんな風に悲しませている世界を作ったのは僕自身。だからこの世界の創世者である僕が全ての憎しみも悲しみも背負わなければいけないはずなのに。君のように背負っている者達がいる。ごめんね。こんな力のない僕を、君は・・・この世界に嘆いてる人達は憎んで、恨んでいいんだよ。

 絶対に僕は何があっても、君が僕を恨んでも憎んでも君を一人にはしない。それがこんな世界にしてしまった僕に出来る唯一の罪滅ぼしだ)

(せめて君は・・・そんな者達の中でせめて君たちだけでも幸せな世界を小さな箱庭の中だとしても心から幸せだと思える世界へと導くから。だからもう少しだけ待っていて優。)

「おやすみ優。良い夢を」

(君に神の加護を)


こうして俺の不思議な一夜は幕を閉じたー


「なに?そんな怖い顔して僕を見ないでよ陸。」

「『なに?』じゃねえよ奏。次に会うのは優とお前と唯って子が出かける時じゃなかったのかよ。普通に呼び出しやがって。優と喋ったんだろ?」

「僕そんなこと言ったっけ?陸が勝手に思ってただけだよ・・・多分。

 ・・・うん。やっぱり優は良いね。僕、優に加護をあげちゃった。」

「はあ・・・。もう良いよ。

 お前のことだから優の奴に情が移っただけだろ。・・・どうせすぐ冷めるぞ。

 それに『神の加護』なんて地上には必要ないだろう」

「なんで確定してるみたいに言うのさ?それと違うよ。情が移ったんじゃない。

 ―気に入ったんだ。」

「何が違うって言う・・・っ!

 ・・・なるほど。そういうことか。

 俺が産まれた時から一緒にいるが初めてじゃないか?お前に『お気に入り』ができるなんて。ていうか優も災難だな。よりにもよってお前に気に入られるなんて。」

「それどういう意味さー僕は気に入った人を辛い目になんてあわせないよ?」

「おまえ自身がそうだとしても、お前が気に入っている子がいるってことを上の奴らにばれてみろ、お前の寵愛欲しさに優を狙う奴は五万とでてくることぐらいお前も分かっているだろう?

 確かにお前の加護がある限りほとんどの奴は優にちょっかいすらかけれねえだろうけど、他の人間操って・・・ってのもありうるわけだ。お前もし優が死んだらどうするつ・・・」

俺が途中で言葉を止めたのは奏に遮られたからじゃない、『もしも』の可能性を話し出した瞬間奏のまとう空気がさっきの和やかな空気とは一瞬にして殺意の塊のような空気に変わったからだ。

「そうなったら・・・」

「この世界を滅ぼす。」

「!」

(・・・こいつのこんな本気な声聞くの何千年ぶりだ?こいつなら本当にそれが出来てしまう。ていうかお前それは爆弾発言だぞ。

 ・・・優のやつ気の毒に。本当に厄介な奴に気に入られたな。)

「・・・そうか。じゃあ俺は優が他の奴らに危害を加えられないようにしっかり見張ってますよ。もちろん人・神関係なく、な。」

「ありがとう。僕は優の味方は大好きだから陸も大好きだよ。君が僕や優を裏切らない限りね。」

「もし裏切ったら俺でもお前はやる・・・か?」

「・・・そんなこと僕はしたくないから、そうならないことを祈っているよ。君は優とは違う意味での特別なんだから。」

「そうだな。

 ・・・そういえばお前ってさここに来たのって結構前だよな。上は大丈夫なのか?」

「・・・なんのこと?」

「と・ぼ・け・る・な!

 ・・・もういい、わかった。予想はしてたけど。はあ・・なにもいってないんだな。上の奴ら今頃大騒ぎだぞ。」

「うわー・・・それ聞いたら余計帰りたくなくなってきたよ。

 ・・・もうここに住もうかな。」

「絶対断る。俺はいいがお前は帰らなきゃいけねえだろ。・・・いつ帰るつもりだ?」

「優が僕を必要としなくなくる時まで。その頃には僕が優を離せなくなってるかもしれないけど。・・・それはもうなってるか。」

「はあ・・・。一つ聞くけど彼女のほうがもし優に危害を加えたらお前どうするつもりだ?」

「僕たちは人に危害を加えることは絶対にしない。契約上ね。それは僕でも覆すことは出来ない。でも僕にだけは

『危害を加えるのは絶対にしないこと。しかし何かあったときの対処法として記憶を多少いじるのは構わない』

っていうもう一つの契約がある。」

「それを利用するってか?・・・ていうか誰とそんな契約交わしたんだよ。」

「そっか。これは君にすら教えていなかったね。君は生まれてすぐ偵察役として僕が地上に行くよう命じたから。・・・ずっと昔。もう何千年・・・いや何万年も前、僕が初めて気に入った人と結んだ契約だよ。」

そういって笑う奏の顔は今まで見たことがないほど優しく、心の底から愛していたのが表情だけで分かるほどだった。

「・・・『人』か。なるほど。

 だけど、お前がそんな顔するの初めて見たぞ。ずっと天界の様子は見とかなくちゃいけなかったから天界でのお前の様子もついでに見てたけどはそんな顔初めてだ。・・・お前もそんな顔するんだな。」

「そう?・・・いやまあ自分の姿なんて見れないんだから当たり前だけど。」

「そんなに気に入っていたのか?」

「その人以上に『側にいたい』『離れたくない』って思った人はそれ以降現れなかったよ。」

「そんなに気に入ってたならお前の力で上に住まわせれば良かったじゃないか」

「・・・そんなことしたら大好きなその人の輝きがどんどん消えていってしまう。・・・そんなの嫌だったんだよ。」

「そうか。・・・上に行ったらお前に甘えてしまうかもしれないし、上のやつらみたいになるかもしれないもんな。じゃあ優の奴も上には連れて行かないつもりか?」

「もちろん。・・・でももし優の持ってるものが天界に行っても消え去らないほど強いものなら連れて行きたい。僕の世界の自由さを優に見てもらいたい。」

「でもお前は帰りたくないんだろ?・・・あいつもいるしな」

「そうなんだよね~。それが問題。彼さえいなければ・・・」

「そういってやるなよ。あいつはお前を心配してあんなんになってるんだから。」

「いやそうなんだけどさ~ちょっと彼さ僕に厳しすぎない?」

「お前が逃げるからだろ」

「・・・返す言葉もございません」

「過保護なだけだよ。愛されてるな奏♪」

「ちょっとからかわないでよ陸!」

「ごめんごめん。・・・じゃあまた」

「うん。またね。バイバイ」


(優、唯、もうすぐ君たちを会わせてあげられる。・・・もし君たちが衝突し、お互いを嫌ってしまったらもう一度、僕が導くから君たちは君たちのやりたいことをして真正面からお互いを見て知って、考えてみてよ。きっと何かが変われるはずだから。それはきっとこれからも役に立つもの。だから絶対にその儚く短い一生の中で決して忘れないで・・・。)


          僕はずっと君の側にいるから





曲の『ココロ』思い出した笑

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