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神の寵愛を受けたもの  作者: ユウ
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これは少女の物語


           少女


『欲しいものが何でも一つだけ手に入るとしたら貴方は何を望む?』

そんな質問に正直に考えた一人の少女がいた。

「それなら私は―」

 少女は少し騒がしくなったテレビ画面を見下ろし先ほどの考えを振り切るようにリモコンを手に取りテレビを消して頭を振る。

(・・・そんなこともう諦めたはず、なのに・・・。未練がましい。

 だからいつまで経っても変われないんだって分かっているはずなのに。)

 少女は身支度を整え何故かは分からない鬱陶しさと理由が分からないためのもどかしさを抱えながら学校へと歩き出す。登校時間ぎりぎりで来ているため下駄箱から教室へと繋がる長い長い廊下にはもう喋りこんでいる人もちらほらと見かける。そんな中、歩いて行くと自分の同学年らしい三人の生徒が居た。三人のうち二人はだらしなく制服を着崩しげらげらと下品に笑っているが、もう一人は対照的、とまではいかないもののあまり着崩しておらず前にいる二人に比べて『まとも』だった。あくまで『外見は』だが。きっと誰かの悪口でも言っているのだろう。聞き役に徹しているようなその人は外見こそ笑っているが時おり見せる表情はお世辞にも笑ってなどいないのだから。

(『めんどくさい』って全身で言ってるみたい・・・。

 会話を全部聞いたわけじゃないからよくは分からないし、今の考えが当たってる可能性なんて低いけど。でも当たっていなかったとしてもそんな冷めた目してるって事はくだらないことなんだろうな・・・。

 でもまあ、共感する。だって私たち女はそういった話ばっかりで私自身うんざりしているから。

 ・・・しかもそういう話を聞こうとしなくなると今度はこっちの悪口をいわれるし、そんなの気にしないでいれるほど強くもないし。

 ・・・なんて、まあ『当たっていれば』だけど。)

 そんなことを考えながら長かった廊下を歩き終え教室のドアから一番奥にある自身の席に鞄を置き、座る。あんな些細な他愛のない赤の他人のことをいちいち考えてしまう進藤唯という少女がいた。そんな彼女にも確かに気に入っているものがもちろん複数ある。そのうちの一つは自身の名前。本人は苗字のことは『どうでもいい』といっているが下の唯という名前を『なんとなく』だが気に入っている。

(まあそれすらどうでもいいこと、なのかもしれないけど。)

 ふと空を見るとその日の空はとても綺麗な青空で、そんな空さえも情けない自分を嘲笑っているかのようで、それが酷く悲しくて引き裂いてしまいたくて。なんとか授業への眠気を頬杖をつきながらそれでごまかす。そうやって毎時間、授業のチャイムが鳴り終わるまでの五分間、唯はそうやって暇を持て余していた―。


 下校時刻。唯は鼻歌を歌いながら帰る―いや帰ろうとした。けれどそれは近づいてきた二人の影によって阻止されることになる。

「さっきの授業の時さー」

ほらやっぱり。相槌を打ちながらどうしようもないことを考える。

(で、それを私に聞かせてどうなるの?その時に戻れるの?そんな意味の無い話にどうして毎回私を巻き込むの?)

 なんて考えと意味の分からない虚無感・空虚感に立ちくらみがするのを足で踏ん張って頭を上げる。そして意味の無い自身の問いかけを振り払おうとするがそんなことは出来やしないことも、かといって目の前でゲラゲラと汚く笑っている女二人に言えるはずもなく上っ面だけ笑顔を浮かべ共感しておく。

(そんなことずっと思ってるでしょう?無理だと分かっているのならこの二人から離れて一人になればそんなもの感じないよ?)

 と、本心がいう。

(・・・わかってる。でも一人でいられるほど私は強くはないし、誰かとの薄っぺらい関係でもないと私はたえられない。私は弱いから。一人は寂しいから。独りにはなれない。)

 と、理性がいう。

 その声にずっと耳を傾ける。目の前の汚い会話に相槌を打ちながら。


 十分後―ようやく話しを抜け出せる口実を思いついたので二人より一足先に帰る。帰る途中で家の近くの自動販売機でコーラを買う。飲むと煩わしかった気分がスーッと炭酸と一緒に消えていく気がした。そうして家まで帰ってくるとドアを開け

「ただいま」

 帰宅したという印の言葉が意味のない事も、何の言葉も返ってきはしないことも知っている。それは二年前からなので大して気にはしていないけれど。これも意味の無い言葉の浪費。それももちろん知っているが言ってしまう。そして唯はコーラのペットボトルをゴミ箱に投げ捨てると私室へと軽快な足取りで向かう。ベッドに倒れこむとすぐに睡魔に襲われたー


 起きて時間を見ると帰宅してから二時間半も寝てしまっていたらしい。少し伸びをして昨日から始めたブログをチェック(始めたばかりでフォローも少数しかいないので溜まってはいないだろう、と思い躊躇われたが。)するためパソコンを起動させる。チェックをするとさっきの躊躇いは杞憂だったらしい。一人だけではあったがきちんと更新はされていた。内容的には何処の学校でもあるようなこと、だからこそ唯は上っ面だけでなく

(ほんとそうだよね)

と心の底から共感しながらコメントを打っていく。この人は結構一般人の中ではこの世界で有名な人で私が初めて投稿を見た人でもある。でも今回の投稿は少し笑ってしまう。だってこの文は今日学校で見た景色を思い出させたから。少し苦笑しながらその人の自己紹介文を見て、今までのブログを見る(昨日は見る時間がなかったためフォローしただけで寝てしまった)と一気に笑顔が消えていくのが自分でも分かってしまうほど急激なものだった。

(こんな内容の文、今日学校で見た人もこんなことも思ってそうだし、体験してそう。

 もしあの人だったらおもしろいのになあ。

 ・・・それにもし君があの人ならネット上だけじゃなくて会って話してみたい。

 ていうかもし同じ人なら世界って意外と狭いんだなあ。なんて・・・ね)

 そしてリビングにおいてある、近くのコンビニで買った冷めきったご飯を食べ浅い眠りへと落ちていった。

 少女もまた


          ―本当に愛されることを望んでいる―



「ふふっ」

それを楽しそうに、愛おしそうに見つめる―がいたーは自身の髪をなで

「そろそろ僕という存在を使って次へ進めてみようかな♪」

―は誰にも聞こえないほど小さな声で、しかし凛とした良く通る声で呟いた

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