これは少年の物語
(いじめ、陰口・・・。そんなくだらないことしてる奴はそれが自分を落としてるって分かんねえのかね。そのくせ気に入られたい奴や、気に入られなきゃならねえ奴には、はたから見ればあからさまなぐらい笑顔振りまいて、媚売って・・・ある意味すごい二面性だよな。
それに教師は教師でその表面っつらにまんまと騙されてるし。ちょっとは違和感感じないもんなのか?まあ大人はまじめに俺たちを見ないのは当たり前だし、だとすると気づかないのも当たり前か。
ほんとくだらない世界。)
(・・・ああ、まちがえた。くだらないのは)
「・・・『この世界』じゃなくて『俺』だ。」
ぼそりとつぶやく。そんなことを言ったところで何も変わらない現実。そして俺の言葉なんて誰にも届きはしない現実。そんな事も『いまさら』で1ミリの価値なんてものもあるはずがない。ただの言葉の浪費。
そしてそんな世界にある真っ青で永遠と果てない空を見上げ
(神様とやらがほんとにいるんだったらなんで俺なんかが生まれたんだろうな)
なんて考えている間に本日最後のチャイムが校内に鳴り響く。そして同時にざわめきだす周囲。教室を出る教師。いつもどおりの『当たり前』で『くだらない』そんな日常。そんな中で存在する自分。
(なんてくだらない。)
そんな考えを振り切るように鞄を手に取り立ち上がる。
帰っている途中で、猫の死体を見て笑えてしまう俺は無慈悲なのかもしれないが、その猫を見て『かわいそう』なんて言っている奴は『自分はこんなに優しく美しい人間なんですよ』と見せ付けているようなものだろう?
さあどっちのほうが嫌な奴なんだろうな?
そんなことを自問自答しながら歩いていると家に着いてしまった。ドアを開けると何もないリビングは素通りし真っ先に二階にある自室へと足を運ぶ。そして着替えることなくベッドに倒れ込む。そしたらほら、すぐに睡魔が襲って浅い、浅い眠りへと誘ってくれる―。
眼が覚めて時計を確認するとまだベッドに倒れこんでから二時間程度しか経っていなかった。けれどそれぐらいが優自身にとっての最適な睡眠時間なため気分も少しすっきりとしていた。
(本当は学生なんだからもう少し寝たほうが良いのかもしれないけど、眠れないものは仕方ない。)
それが優の考え方なので、あまり深く考えたりもしなかった。のそのそと起き上がるともう決して手放すことの出来ないパソコンへと手を動かすとマウスをクリックする。そして自身のブログページを開いていく。
優のブログは何年もやっていく上で結構な人気が出ており、更新を行うと一日以内に集まるコメントは一万程度は来る。その中の十分の九がいわいる引きこもりやフリーターなどで残りの十分の一程度は学生。今日あった事、思った事、それらを吐き出す様にタッチタイピングしていく。
『ただいまー。今日も学校行って来たよー。帰ってきて早速寝たよ二時間ほど笑
今日はなんか俺の幼馴染の陰口を俺に言ってきた奴がいてさー。聞いてた時だからなんだよ)ってめっちゃ思った笑
まあもちろんそんなこといっても何にもなんないから言わなかったけど。えらいやろドヤあ←ウザ笑』
それを投稿した瞬間何百人ものフォラワーが集まってくる。
「学校おつー!俺の通っていた学校は今どうなってるのかなあ笑」
これは学校を中退した、と言っていた人から。
「おつかれ~。ていうか幼馴染のこと言われてもって感じだよな笑」
このコメントは確か文化系の部活をしている、と言っていた人から。
一人ずつに返信をし終わってフォラワーの数を見ると何人か新たに増えていたことに喜びクリックしてみていく。そしてさっきちょうどフォローしてくれた人のプロフィールを開いてみる。すると、さっきまでのテンションがスーッと下がっているのが自分でも分かった。しかしそれを過ぎると今度は心臓が慌ただしく騒ぎ出す。ホーム画面へと戻っていくと、今さっき書いたブログにもコメントを打ってくれたようなので、優以外誰もいない部屋で意味もなく身じろぎをし、マウスへと再び手を伸ばす。
「私は帰ってきて一時間半も寝ちゃってました。時計見てビックリですよほんと笑
私もそんなこと何回もありましたよー笑 女子なんでやっぱそういうの多いんですよねーハハ」
なんていう他愛のないコメント。そんなコメントを見るのに緊張した自分がやけに鬱陶しくて再びベッドに倒れこむ
(・・・ていうか何であんなに緊張したんだ俺?ブログなんだし分かるわけないのに)
なんていう自分へのばかばかしさと
(俺と同じ人はこんな身近にいるんだ。)
なんていう安心感に襲われた。そしてそれは何より俺の励みになった。
だから俺は少しの我慢で解決するなら何も望まない。そしてブログと自らの目を閉じ、
(こうやって俺と同じようなことを思い考えている人がいる)
なんて事を考えたあともう一つのお楽しみであるアニメを見て
(自分は今幸せなんだ)
と言い聞かせると、やっとこの窮屈な世界で息が出来た気がする。だからそれが自分の今一番の幸せ―なはず、なのについ考えてしまう。
(でもこの人達は俺が更新するのを止めたらバイバイするような関係なわけで、それくらい俺という存在は軽い)
―だから少年は愛されることを望んだ―