収穫祭のできごと 4
私の相手は屈強な戦士だった。
一回戦である。
体格はロバートよりひとまわり大きく、体重なら二割ほど重そうだ。
もちろん目分量だが。
両手にもった巨大な戦斧。
あんなもんの一撃を受けたら、消し飛んでしまうだろう。
受けないけどね。
開始を告げる銅鑼の音と同時に、男が突っ込んでくる。
雄叫びをあげながら。
なかなかの大迫力だが、私に威嚇は通用しないよ。
ごく幼少のみぎりからくそオヤジに鍛えられているからね。
大振りの攻撃を回避して懐に潜り込む。
そしてそのまま伸び上がるような掌打を、下顎に叩き込んだ。
それだけ。
意識を失った大男が、ゆっくりと後ろに倒れる。
しんと静まりかえる闘技場。
あれ?
なんかやらかしちゃった? 私。
「しょ、勝者! 白騎士ウズベル!!」
なぜかどもりながら審判が宣言し、一瞬遅れて割れんばかりの歓声が沸き上がった。
ああ、びっくりした。
実力差がありすぎたんで、剣を抜くのは危ないと思ったから、簡単に気絶させちゃったけど、ルール違反じゃないよね。
みんな黙り込むからびびっちゃったじゃないか。
倒れている男に近づき、助け起こして活を入れてやる。
「怪我はないか?」
「……はい」
まだ少しぼうっとしているのか、大男が焦点の合わない目を向ける。
頭に血が上っちゃったかな?
やや顔も赤いようだ。
「なかなかに良い攻撃だったが大振りすぎたな。私のような小兵には小兵の戦い方がある。それを踏まえて鍛錬を詰めば、体格に優れたきみのこと、まだまだ伸びるだろう」
ぽんぽんと肩を叩いてやる。
長話に付き合わせるのも悪いし、一応は医務室で診てもらった方が良いだろう。
倒れたときに頭を打っているかもしれないし。
「肩を貸そう。歩けるか?」
「……はい。白騎士さま……」
敗者とともに、私は闘技場を後にする。
なんか黄色い歓声とかもあがってるけど、あれはいったいなんだろう?
順当に勝ち進んでゆく。
さすがに一回戦のような、剣を抜かなくても良いほど実力差がある相手はすくないが、苦戦するほどの強敵とはまだ出会っていない。
「おうおう。余裕ですな。前回のチャンプは」
冷やかすのは、団体戦の一回戦で惨敗した男である。
王国正規軍の一角、白の軍が一回戦敗退!
情けなくて涙でちゃいそうだ。
しかも、青とか赤とかと戦ったわけじゃない。
さすがに優勝候補が緒戦でぶつからないように配慮くらいはされているのだ。
我が白の軍が敗北したのは、リリエンクローン公爵軍。
そりゃさあ、王国屈指の大貴族だし、兵も精強だとはきくよ?
リリエンクローン公爵自身もひとかどの人物で、その薫陶も行き届いてるって。
「けど、貴族の私兵に負けんなよ」
「いやあ、強かったですわ」
はっはっは、と笑う副官。
笑いごとじゃねーっつうの。
王国正規軍が私兵に負けちゃうとか、ありえねーから。
たかが遊びとはいえ!
「こうなったら、せめてリリエンクローン公の軍には、優勝してもらうしかありませんな」
まあ、我が軍が弱かったのではなく彼らが強すぎただけ、という言い訳ができるかもしれない。
「なんだその他力本願は」
「しかし、受けは取れましたよ。会場大爆笑でした」
「努力の方向性が間違ってる」
私は自分の試合が控えていたので見ていないが、それはそれは楽しい試合だったらしい。
おなかがよじれるかと思った、とは、メイリーの感想である。
なぜか審判が一緒にジャンプしたり、死ぬまでの間にやたらと演技が入って時間がかかったり。
そして生き残りが全員で、世の中は肉だと叫びながら特攻し、リリエンクローン伯爵軍が装備したハリセンで一斉に叩かれて全滅したり。
もうね。
あきらかに相手もグルだよね。それ。
観客たちは抱腹絶倒。
闘技場にはおひねりが舞い飛んだ。
大道芸か。
こんな馬鹿なことをやらかしちゃったから、軍務監あたりからお説教くらいあるかと思ったんだけど、むしろ褒められた。
白の軍は、どうしても優等生ってイメージが強くて、堅苦しいと思われている。
面白い連中なんだってアピールすることは、王国軍全体としても悪いことではないらしい。
ただまあ、一応はみんな真剣勝負をしているのだから、遊ぶのもほどほどにと苦笑いされた。
私とラズリット・リリエンクローン公爵が並んでね!
完全に共犯者扱いだよ!
「私もウズベル卿も物堅い人物と思われているからな。たまにはこのような余興も悪くなかろう」
とは、公爵自身のお言葉である。
もうね、ほんっと勘弁してください。
変な汗でまくりだから。
たぶんというか、疑いなく、パリスのやろーはこうなることが判っていたんだよ。
とんだ食わせものだ。
「じつはリリエンクローン軍の隊長は、軍学校時代の同期でしてね。組み合わせ表を見たときから、なんかやらかそうと話していたのですよ」
「笑い話で済んだからいいようなもんだけどなぁ」
「試合が進めば、より真剣になっていきます。こういうのは一回戦だから許されるんですよ」
笑う副官。
結果として、白の軍のイメージアップにも繋がったのだから、狙ってやったのだとしたらたいした策士である。
「ちなみに、メイリー嬢も共犯です。リリエンクローン軍を協力させるために、彼女が腕を振るってくれました」
「許可」
一瞬で事後承諾する。
メイリーが絡んでたなら仕方ないね。
「言うと思った。隊長の方は大丈夫なんですか? そろそろ歯応えがあるのが出揃ってきたんじゃないです?」
「前にもいったけど、楽勝の相手などはいないさ」
「隊長がいっても嫌味にしか聞こえませんて」
「ともあれ、次はヒューゴ卿だ。勝負は時の運になるだろうな」
赤騎士ヒューゴ・バルトファー。
赤の軍の隊長である。
私より頭ひとつ分くらい背が高くて、ボリュームなら倍近いような偉丈夫だ。
武勇に関しても、もちろん私に引けを取らない。
絶対に勝てないまでは思わないが、簡単に勝利できるとはそれ以上に思えない相手である。
聖者の門より入場するヒューゴ卿。
同じタイミングで、私は勇者の門をくぐって場内に入った。
耳が痛くなるほどの歓声が包む。
吟遊詩人騎士とか、それ声援じゃなくて罵声だからな?
応援する気があるなら言葉を選んでくれ。我が軍の精鋭たちよ。
他方、ヒューゴ卿の応援はとても野蛮だ。
客たちが足を踏みならし、雄叫びをあげる。
騎士というより、なんか蛮族の長みたいだよなぁ。あれ。
「卿と手合わせするのは初めてだな。ウズベル卿」
「ですね。どのような巡り合わせか、初対戦です。ヒューゴ卿」
「吟遊詩人騎士の剣さばき、味わってみたいと長く思っていた。ようやく願いが叶ったというわけだ」
にやりと笑う。
ふたりとも軽装だ。
動きやすい平服に胸甲を付けただけ。
ごてごてと重装備を固めたって、防ぎきれるような敵手でもないからね。
お互いに。
一発でももらったら終わり。
たぶんそういう次元の戦いになる。
「貴殿までそれを口にしますか」
「褒めたのだぞ?」
苦虫を噛み潰す私に、ヒューゴ卿が肩をすくめてみせる。
どうも、一部の人には褒め言葉だと思われているらしい。
わりと勘弁してほしい。
詩人のような騎士といわれて喜ぶはずがあろうか。
もっと強そうな異称が良いよ。
せっかく白騎士なんだから、白銀の聖騎士とか!
ゆっくりと腰の剣を抜く。
私の得物はごくありふれたブロードソード。ヒューゴ卿のそれは二回りほど大きな片手半ブロードソード。
どちらも刃は潰してある。
リーチを考えれば、私の方がやや不利だろうか。
二人に視線を投げた審判が、勝負の邪魔をしないようにさがってゆく。
「いざ尋常に」
「勝負!」
同時に地を蹴った。




