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届かない刃と、届ける刃

 町は焼け野原、この夢を見る。


「やめて!嫌!」


 町は焼け野原、この現実を見た。


「嫌あぁぁぁぁぁ」


 私は将来、夫となるべき人物と共に住んでいた。

両親から譲り受けた家で、思い出深い家だった。


 だがある日、街の一区画に対して、役人から土地の買取り話が持ち上がった。


「これだけ支払います。なので、土地を譲ってください」


 私の家の周辺住民は、誰しも役人から買取りの誘いがあったという。

しかし、強引で合意に至るケースは稀だったという。


 最終的に、一割にも満たないほどの移住者が居て、土地は空かずに担当役人は悩んだらしい。

けど、タイミング良くと言うべきか、本来は船の上しか襲わないはずの『海賊』と呼ばれる人間達が、町を襲ったのだ。

海辺に近い、私の居る場所に。


 私は地下室に匿われ、恋人がその地下への入り口を守り、死んでしまった。

生き残った者は少なかったが、残った者は、移住する者も多かった。

悪い思い出と、焼けてしまった家。

だが『復興目的』と称して、跡地を以前と同じ条件で購入を誘われた者は、そのお金と共に違う土地に移り住んだ。


「誰もが死ぬか、生き残っても、移り住んでだ」




 私は、一人の少女に呼び止められた。

金髪の少女で、私から見てもかなりの美人さんだった。


「あの……話しを詳しく、聞かせてください」


 少し無粋に、いきなり声を掛けられた。

私が日課となった、恨み事を呟いていた時、唐突に声を掛けられた。

若い、とても若い少女の声、暗い夜道で。


 驚きはしたが、それよりも聞かれた事の後悔で、立ち去ろうとした。

しかし、腕を捕まれた。


「貴女の目、知り合いによく似ていたから」


 言っている内容は理解出来なかったが、真摯に見つめてくる少女は、どうしても腕を放してはくれない。


「復讐者の目……ですよね」


 振り向いた時、少女と目が合った。

深い青色の瞳が、好奇心と少しの殺意。

これらが入り混じった、複雑な目をしていた。


 そして、私は事情を話した。

少し高めの酒場、その個室に入り、料理と飲み物を少女は奢ってくれた。

普段は食べられない料理で、最初は半信半疑だったものの、酔いと共に口調は柔らかくなっていった。


「なぜ、私だけが生き残ったのか。折角、彼に生かされたこの命、でも納得はできなかった」


 少女は黙って、私の話を聞いていた。

下手な同情もなければ、哀れみでもない。


 なぜ、少女に身の上話をしたのか。

それは後から考えても分からない。

だが、他人だからこそ話せたことはあり、私の心を軽くしてくれた。


「……話してくれて、ありがとう」


 少女は『ミア』と名乗った。

旅行者で、内陸部の都市に住んでいる商人の娘らしい。

だが、ちらりと見た手のひらは、皮膚が硬くてタコのようなものが出来ていた。


 あれは、商人の手ではなかった。

腕こそ細いが、立ち振る舞いには軸があって、むしろ兵士に近いと思った。


「いえ、私こそ……。少しだけ、気が楽になりました」





----


「海賊の拠点は、おそらくこの海域だと思われるわ」


 ミシェルは私に語って聞かせる。

しかし、情報は正確性を欠き、あまり役に立ちそうではなかった。


「おそらく……、ずいぶん曖昧な情報ね」


「最近、動きが活発になっていて、前回の襲撃と似た兆候も見られるの」


 ミシェルの情報を纏めると、以前の地上げと同じ状況下で、さらに海域の商人達が海賊の姿を何度も見たと言う。

本来は、そこまで頻度は高くない。

故に、警戒態勢を敷いているのだが、役人から変な圧力が掛かっているらしい。


「だけど、海賊は割と閉鎖的で、密偵も入り込めない。それに今回、いつ実行段階に入っても、おかしくない状況よ」


 損害は軽微でも、政治的には良くない状況らしい。

発見が遅れたのは、内陸部でも最近までごたごたがあり、処理しきれず末端の都市まで手が回っていないから。


「怠慢と言われればその通りだけど、国の威信を欠く事態に陥らせない為、処理しなければいけないのよ」


 ミシェルは、本題に戻ろうと言う。


「この辺りの海域には、島がある。目撃情報から、この辺りに本拠地があると考えられるわ」


 この世界でも、精度の高めな地図は高価であるし、戦略的に価値がある。

だが、そうは言っても航空写真など無い、測量技術も甘い世界では精度に限界がある。


「実地調査も含めて、何日で出来る?最初は一週間とは言ったけど、多少伸びても構わないわ」


 暗に、飛行して私が調査して来いと言う。

何日で出来るかと問われれば、魔石が有れば、三日は要らないが、そうではない場面では、一日に使える魔力量には限りがある。


 すると、財布のような布袋を渡された。


「はい……。こっちが魔石ね。高純度だから、かなりの値打ち物よ」


 良いタイミングで渡してくる。

見ると、硬貨より少し大きいくらいのサイズで、魔力に満ちたその様子から、魔法使い百人以上の魔力は有るだろうと思える。

最高級品で金額すると宿の宿泊費(一週間で下級兵士8ヶ月分の給与)の、倍以上は確実だった。


 短剣の購入代金としてかなりの金額を渡されたので、武器は自由に調達して良いらしい。

手持ちの短剣には及ばないものの、数を処理する為に磨耗する分を考えれば、十分な数を確保できるだろうと思えた。


「これなら、調査で三日ね」


「そう、三日……早いわね」


 不満が無ければ契約成立である。


「魔石は残ったら、貰っていいの?」


「ええ、差し上げるわ」


 二日目、泊まるホテルの料理はどれも一級品だった。

部屋まで運ばれるというのも、周りの目を気にしなくて良い分、気楽だった。

量も余るほど出され、好きな料理を好きな分だけ食べられるし、何より美味しい。


「それにしても、良い宿ね」


「ええ、全くだわ」


 寛ぐ為だけに、かなりのお金を掛けた事はある。

一部屋に、共有スペースとお風呂が付いている。

さらに個室があって、寝室がいくつも用意されている。

客人を呼べるだけの部屋もあり、下手な貴族の邸宅より豪勢な作りとなっている。


 これだけ高級な部屋は、一生に一度、体験する価値がありそうだった。

部屋は余り気味だが、頼めばマッサージなんかも受けられる。


「贅沢ね……、でもずっと泊まりたい場所でもないわ」


「そう?居られるなら、一生居たいけど」


「ここに居ると、体が鈍ってしまいそうに感じるから。それに、平穏は精神的に毒だわ」


「平穏こそ、人生にとって一番必要な要素じゃない」


 意見が割れたが、これは私の方が特異なのだと分かっている。

自ら異常の中に身を置くのは、異常を異常であると認識する為に必要な儀式のようなもの。


 氷の入ったグラスに、果実酒が入っている。

昨日も今日も、こうして強めのお酒を二人で煽っている。

私は遠慮なく飲んで、ミシェルはゆったりと飲む。


「私はさ、異常者なんだ。平穏に身を置くと自分がこの世界にとって、害だって実感しちゃう」


「……」


 見かけ上、友達という関係の私達であるが、少なくとも私はそこまでミシェルに親近感を持っている訳じゃない。

そしてミシェルだって、友人だと思っているかは怪しいし、お互い様だ。


「……」


 お互いに何も言わない。

こんな、重苦しい言葉を交わすような仲でもないのに、お酒はやはり程々が良いかもしれない。

だが私は何を思われても、さして気にならなかった。


「……エミリーが自分の事、どう思ってるのか、分からないけどさ」


 そこで、ミシェルは口を開いた。

自身の杯に酒を足しながら、こちらにも酒を勧めてくる。


「今は、飲もうよ。気にせずにさ」


 そして、改めて乾杯の音頭を取った。

特に気兼ねなく酒を煽るミシェルは、それまでよりも気軽にお酒を飲んでいた。

向かい側に座っていたが、隣に腰掛けてくる程には距離を詰めてきた。







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