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狂乱のプロローグ

「はぁ……」


 私は空を見ながら、吐息を吐いた。

夏なのに、孤独や絶望に支配され、まるで真冬のような寒さを感じる。


「なんで、私だけ」


 生き残る、これは幸運であるのか、誰しもが幸運であったと言うだろう。

だが、家族も愛する者も、全て死んでしまった時、果たして一人だけ生き残る事は、幸運なのか分からない。

希望もなく、将来も考えられない心理状況の中で、喜ぶことができるのか?

そんなものは、他人から見た視点にしか過ぎない。

故人は何も思わない故に、死者の心理を推しても意味がない。


「……」


 涙が頬を伝い、地面に落ちる。

星は綺麗なはずなのに、一人で見る時と誰かと見る景色では、違う感情を見せてくれる。


「……」


 丁度、季節が一週巡るほど前の事。

港町に海賊が出て、大挙して町が襲われた。

なぜかその日、憲兵が演習に出るとかで警備が手薄で、町は略奪の憂き目にあったのだ。


「憎い」


 復讐というのは、一番簡単な自己満足だ。

例え失敗しても、以後の生を呪う事で、頭の中が空っぽになれる。

成功したら死んだ者が戻ってこなくても、どこか誇らしげな感傷に浸ることができる。


 殺す、誰か分からない復讐相手を探し出し、殺してやりたい。

私は女の身であれど、戦う術は知らないけれど、刃物や鈍器、なんでもいいから苦しむように殺したい。


「あいつを……殺す」


 その呟きを聞いていた者が居た。

金色の髪をして、深い青色の瞳をした女だった。





----



「んー!美味しいわね、ここのお菓子」


「港町なんだから、先に食べるの、海鮮じゃない?空腹に甘いものとか、ありえない」


「それでもあんた、女の子?甘いものは、別腹よ」


「……」


 到着して早々、私とミシェルは噂のお菓子屋を訪れている。

焼き菓子や、氷菓子、生クリームたっぷりのケーキ。


「胸焼けするわね……」


 一口含むと、その甘さが鬱陶しかった。

地球に居た頃、食べたケーキはもっと美味しかった。

糖分が有り余ったような菓子を甘味と呼べるなら、私の手作り菓子の方が千倍は美味しいと断言できた。


「なんで?美味しいじゃない」


 確かに、かの米国様のお菓子だって、ぎとぎと甘かった。

元から味の濃さになれていて、その方が美味しいと舌が覚えているからだろう。


「普通に、ご飯食べに行かない?明日もあるんだから」


 二人とも、移動にお金を使うことも無かった。

旅の路銀は、高給取りな私達にはあまり関係なかった。


「最高級ホテル、その最上階を予約しましょう?当日予約は利くかしら」


 私は会計の札を持ち、最後のオーダーを終えて食べてるミシェルを横目に、支払いを済ませる。

数年分の給料が、全く減る気がしないほど、貯金の肥やしになっている。

どうせ死ねば、口座の中身は無意味になるのなら、こういう所で散財しないと意味がない。


「エミリーも、あの一番背の高いホテルで良いでしょ?お金が無いなら、私が奢ってあげてもいいけれど」


 二人で三泊すれば、下級兵士の給与で三ヶ月分は飛んでいく。

もっとも貴族が居る世界で、単純な物価など計れはしないのだけど。


「じゃあ、ここの会計は任せておいてよ」


「もう、支払ったわ」


「え?いつ?」


 それだけ言うと、私達は席を立った。

そして市井に出て、買い物や料理に舌鼓を打つのだった。




----


 一人の男とぶつかった。

スリなどと、下衆な真似をする男だった。

男が角を曲がった所で、男は倒れて気絶した。


「ミシェル、こんな重い財布、すられてたわよ」


 ミシェルに財布を放り投げる。


「ありがとう」


 ミシェルの財布から金貨を数枚、私は手の中に忍ばせる。

授業料のようなものだと、これで夕飯を食べようと歩き出す。

数百は入ってる金貨の山で、数枚消えても大丈夫でしょうと、勝手に納得する。


 だが、さっきの奴を倒したあたりから、私は後ろに暗い影を感じた。

技術的には甘いが、尾行されている。


「ミシェル、あっち行こう」


「え?うん」


 気付いては居るだろう。

だが、さすがに気付かないふりが上手い。

……本当に、気付いているよね?


「気付いてる?」


「うん」


 角を曲がると、小走りで少年達が近づいてくる。

殺しはしてないのに、この町の闇は見逃してはくれないらしい。

外敵に対して敏感なのは良い事ではあるが、なにかピリピリとした空気を感じる。

拙いタイミングに、私はやって来たのだろうか。


 ミシェルの腰に手を廻し、その場から消えるように透明化する。

その際、見えないながらも、私は自身の髪の色を変色させる。

仕事の時の黒ではなく、綺麗な金色にしておく。

目立つのは本分ではないが、プライベートで誤魔化すのなら、これくらいの方が良い。


 金髪で青い瞳となれば、美人と相場が決まっているが、素材が私で良いのかと疑問に思うが。


「戻ろうか。何かピリピリしてる」


「ええ。でも、そんな情報なかったけれど……」


 表舞台も、裏の舞台も、政治変化はなかったはずだと。


「廃業しないと駄目ってレベルじゃないの?」


 とりあえず、私達は宿へ向かった。


「……調査に協力してくれるなら、私の上司経由で、一週間の有給が認められるわよ。どう?」


「それは構わないけど……、滞在費はどうするの?経費で落ちる?」


「私の部署の……、経費で落ちるわ」






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